17.たまには2人で遊ぼうと思ったら……
S玉銀行でのやり取りから2日後。
無事に自分の口座が使えることを確認した俺は、カナエルことカナと不動産屋を目指していた。
「家を見て回ったら、ショッピングモールにでも行こうか」
そう話しかけると、カナは不思議そうな顔をした。
「とても嬉しいのですが、ショッピングもーるとは何ですか?」
「いろいろな店が集まっている建物だよ。今日は平日だけど、いろいろな人が来てるんじゃないかな」
彼女は早くも興味津々という様子だった。考えてみれば今まで戦い続きだったため、たまにはこうやって彼女の買い物に連れ出すのもいいかもしれない。
不動産屋には予約を入れていたので問題なく物件のことを聞ける。そう思いながら店舗へと入ると、俺はハッとした。
ごく普通の店舗という様子の不動産屋のカウンターや非常口の照明が、30メートルほど先に見えたのである。
しかも、カウンターに立っているはずの受付の人はおらず、元々の店舗だったと思われるキレイな床とカウンターの間には、荒れ地のような地面があり、よく見ると間取りのような線が見える。
しまったと思いながら後ろを見ると、いつの間にか出入り口だった自動ドアがなくなっており、俺とカナの2人は巨大な箱庭に閉じ込められていた。
「たまには2人で遊ぼうと思ったら……どうしてこうなるんだよ……?」
肩の力を落とす俺とは対照的に、カナは気を引き締めた様子でカナエルへと姿を変えた。
「とにかく、ダンジョンに迷い込んでしまったのなら、降りかかる火の粉を払い除けるしかありません」
「そ、そうなんだけどなぁ……」
そう言いながらリボルバー式拳銃を出しながら歩き出すと、俺は恐ろしいダンジョンに踏み込んだことを理解した。
あくまで目の前には、荒れ地が広がっているだけだったが、風が吹くと樹木の気配がしたのである。
それだけではない。
犬の鳴き声や、生活音、更にはカレーの香りや洗剤のにおいなど、この荒れ地には見えない町が存在しているのである。
なんだと思いながらカナエルを見ると、彼女も表情を変えてこちらを見てきた。
「なんだここ……?」
「気を付けてください。魔物の気配が強まっています」
俺は頷くと、カナエルと隣り合って進んだ。どんな敵が潜んでいるのかわからないが、カナエルに対抗できるような悪魔はそう多くはないはずだ。
荒れ地をよく見ると、家を思わせる間取りが線によって表現され、道にも街路樹や車道と思われる線が描かれている。
不動産屋にできたダンジョンに相応しいが、それにしても妙だ。ダンジョンならモンスターがいるはず。どうして何も出てこないのだろう。
道を進んでいくと、俺たちは広く線が描かれた場所へとたどり着いた。
この特徴的な間取りは……学校だろうな。高等学校だろうか、それとも中学校だろうか、いいや小学校かもしれない。
カナエルも不思議そうに、その間取りを眺めていた。
「これは……なんでしょうか? ずいぶん広いようですが?」
【ここは、高等学校ですよ……】
どこからともなく声が聞こえてくると、俺の頭の中に妙な感覚が押し寄せてきた。
バッドでボールを打ち上げる音や、無数の歓声……それにコーチと思われる人の叫び声やグラウンドを駆ける足音。
「な、なんだこれ……?」
「わ、わかりませんが……ゴロー様にも聞こえているのですか?」
「ああ……これは、いったい……?」
その直後に、俺は目を丸々と開いていた。
なんと、今までは荒れ地だったはずの場所にはアスファルトや街路樹が現れ、俺の目の前には想像した通り学校が現れていた。
「……高校か」
そう言いながらあごの辺りをさすると、おやっと思った。
昨晩に剃ったとはいえ、多少はひげが生えてきているはずである。ところが、俺のあごの辺りはツルツルで、まるで先ほど風呂上がりに剃ったばかりという感じになっている。
「ゴローさま……?」
その声を聞いた俺は、唖然としながらカナエルを見ていた。
彼女は身長こそそのままだったが、体中から流れ出ていたはずのエンジェルオーラが、大きく減っていたのである。
いや、それだけでなく翼のボリュームがだいぶ無くなっているように思えるぞ!?
「お、お前こそ……どうした?」
「わかりませんが、何か術にかけられたように思われます」
【その通りでございます】
「誰だ!?」
その声の出元を探ると、なんと壁から聞こえてきていた。
【ようこそいらっしゃいました。阿九万不動産へ……】
そこには確かに阿九万不動産と書かれた紙が張り出されており、その紙は風にあおられながら俺たちを嘲笑うようになびいている。
「悪趣味なことしやがって……俺たちに何の用だ!?」
声を荒げると、紙は更になびきながら音を立てた。
【本日、ご予約を頂いた……比名さまですね。スタッフ一同……貴方様のご来店を心よりお待ちしておりました】
その紙から、目玉のような残像が見えた。
【貴方様がたの魂というお代を頂けるように、真心を込めてサービスを提供させていただきます】
「そうはさせません!」
カナエルは身を挺するように俺の前へと動くと、紙は声のトーンを落とすかのように、耳触りな音を少しだけ小さくした。
【なかなか元気のよいお客様です。それでこそ、我らもサービスのし甲斐というものがありますね】
「サービス? お前は何を言っている!?」
指をはじく音が響いたと思ったら、俺たちの目の前には、うつろな目をしたカナエルそっくりの有翼人の少女が姿を現していた。
【先ほどのトラップ魔法で、貴方たちの霊力を吸い取らせていただきました。なかなかに強力なガーディアンが出来上がったと思いませんか?】
その声と共に、カナエルにそっくりなガーディアンは、翼を広げて威嚇するように俺たちに視線を向けてきた。
「この野郎……その力を返せ!」
銃を構えようとすると、カナエルは小声でささやいた。
「これほどの力がノーリスクで使えるとは思えません……恐らく、相手側も相応のリスクを覚悟していると思います」
俺は、なるほどと思いながら少し冷静になった。
考えても見れば、俺だってリボルバー式拳銃というシンプルな武器を使っているが、リロードの際に体力を消耗するというリスクを背負っているのである。
相手の力を奪い取るほどの能力がタダで使えるとなれば……とっくに日本の公安が全滅していないとおかしいとさえ思えた。
【では、参りますよ……お客様……】
その紙の号令と共に、無数の人間を模した棒人形がワラワラと学校や周辺の建物から現れた。俺はカナエルを模したガーディアンに銃口を向け、カナエルは短剣2本を出して棒人間を迎撃する体勢になる。
【この、エリア・フォーティフォーがお相手いたしましょう!】
戦いが……始まった!
カナエル(女性)
所属:比名吾郎
能力:エンジェルオーラ(グレード★★★★☆)
生きとし生けるものに活力を与え、アンデッドや魔法生物の能力を低下させたうえに、徐々にHPとMPを減少させる。(腕力+★)(霊力+★☆)(行動速度+★)(耐久力+★)(技量作戦+★)
腕力 C ★★☆
霊力・魔法 A ★★★★☆
行動速度 B ★★★☆
耐久力 C ★★☆
技量・作戦 A ★★★★
索敵能力 B ★★★☆
意志力 A ★★★★
経験 A ★★★★
好きなモノ:比名吾郎、甘いもの
嫌いなモノ:比名吾郎に言い寄る女性
備考:飛行、ヒール、空中戦闘、対空攻撃
一言:エリア・フォーティ―フォーの能力によって、能力の一部を奪われた状態となっているカナエル。
白☆は本来の彼女の強さを表現している。
ちなみに、年齢は高校1年生ほどまで下がっているようだ。普段の見た目は18歳くらいである。




