13.バイト先に現れたダンジョン
俺はすぐにマジックシールドを展開しながら、バイト先の後輩、鈴木に言った。
「鈴木、自分の身を守るモノをイメージしろ」
「ゲームやマンガじゃないんスから!」
「死にたくなければしろ。とっさに浮かんだもので構わないから!」
「ま、マジスか!?」
「早く!」
そう伝えると、鈴木は手からナイフを出した。
刃渡りは25センチと言ったところだが、丸腰よりはだいぶマシだろう。
「こ、こんなのしか……」
「悪くない武器だ。屋内や森の中なら取り回しもいいだろう」
俺はじっと鈴木を見た。
「動けるか?」
「は、はい……今ので動けるようになりました」
「わかった。とりあえず、安全な場所に退避しよう」
「は、はい!」
俺は周囲を見渡しながら、リボルバー式魔法拳銃を構えた。弾数は6発。バイトで体力も消耗しているから、リロード数も限られているし、ここは店だから客も巻き込まれているかもしれない。うかつに発砲もできない。
こういう状況だけに、鈴木も武器を出せたのは大きい。
俺は鈴木と共にトイレを出ると、長年働いたバイト先の地図を頭の中に浮かべながら店内を進んだ。
このダンジョンは、バイト先の空間と異空間が交互に現れるといういびつな感じになっていた。
まるで、元のドラックストアをぶつ切りにしてから、様々な異空間をくっつけて即席のダンジョンを作ったような雰囲気だ。だから、店内を進んでいたと思ったら急に雑木林に入ったり、店内のおむつコーナーに戻ったり、岩場に出たり、また店内の粉ミルクコーナーに戻ったり、寂れた神社に出たりという感じだ。
店長はどこだろう。先ほどまで、この先の薬コーナーの区画にいたはずだけど。
「……! 君は!!」
「ゴロー様!」
この一言だけで、もう誰が来たのかはわかっただろう。カナエルは、カナの姿のまま駆け寄ってきてくれた。
「心配してきてくれたのか?」
「はい。新しいダンジョンの気配を感じたので……」
その先を彼女は言わなかったが、何となく何を伝えたいのかがわかった。
恐らく、ここと俺のアパート先のダンジョンでは、マナの構造が違っている。前の戦いのように強い霊力を発揮出来ないのだろう。
彼女の本領の……恐らく6割程度の力しか出せないかもしれない。
「な、なるほど」
この様子だと公安6課の人々も、いきなりこのドラッグストアがダンジョンとなったことは想定外かもしれない。
やっかいなことになったと思いながら鈴木を見ると、不思議そうな顔をしていた。
「この綺麗な女の子……先輩の彼女スか?」
「まあ、そんなところだ……それよりも、早くここを抜けるぞ」
「は、はい」
カナと合流すると、俺たちは3人でダンジョンを進んだ。
もう少し歩くと、今度はお得意さんの一人。俺と同じ年くらいの大石さんに会った。なぜ名前がわかるのかと言えば、レジで会員カードをスキャンすると名前が出るのである。
「おお、比名くん! これ……どーなってるの!?」
「理由はわかりませんが、店の周辺が変な力の干渉を受けているようです。今、店の外を目指しているので、ご一緒してください」
「あ、ああ……そうするよ!」
大石さんは、不思議そうに鈴木を見た。
「ところでそのナイフは?」
「自分の身を守らないとと思ったら、出てきたんですよ……不思議ですね」
「な、なるほど……じゃあ僕も!」
大石さんは眉間にしわを寄せて目を瞑ると、彼の手にはバールのようなモノが出てきた。バイト先の後輩の鈴木も唸った。
「おお、バールですか! 強そうっすね!」
「うん。とっさに思いついたものがこれだった」
そのあとに、今度は子供の声が聞こえてきた。俺たちはその場所に向かうと子連れの女性客がおり、彼らの目の前にキツネの化け物がいる。
「あ、あ、あっちいけ!」
「ど、どうして……ドラッグストアに、こんな妖怪のような生き物がいるの!?」
キツネの化け物が子連れの女性客に襲い掛かろうとしていたので、俺はリボルバー式拳銃を構えて発砲。1撃でキツネの化け物をマジックシールドごと仕留めると、バケモノは崩れ落ちた。
スズキもすぐに駆け寄ると、女性客に話しかけた。
「おかげはありませんか!?」
「て、店員さん……大丈夫ですが、ここはどうなっているのです?」
「わかりません。自分もトイレに行ってるときに巻き込まれて……」
「っていうか……おにいちゃん。そのブキなぁに?」
「ああこれ? これは自分の身を守らないとと思ったら……出てきたんだ」
女性客は鈴木のナイフを心配そうに見ていたが、その直後に視線を変えてぎょっとしていた。
何だろうと視線の先を追うと、なんと先ほど撃ちぬいたはずのキツネの怪物が起き上がり、じっとこちらを睨んでいたのだ。
俺はとっさに反応して、2発目の弾丸を放った。
攻撃を受けたキツネの怪物は、先ほどと同じように床に伏せたが、すぐに視線をこちらに向けて起き上がって来る。何だコイツは……
「ええい!」
そう思った直後に、子供がどこからともなく出したサッカーボールを蹴って、怪物の顔面にぶつけた。
ボールをぶつけられた怪物は地面に倒れ込んだが、目が再び動くと体中の部位が分離し、小さなキツネの怪物となって、それぞれが目を動かして俺たちを睨んできた。
「な、なんスか、こいつら……」
カナは険しい顔をしたまま答えた。
「神のふりをした……悪魔のようですね」
俺は即座に言った。
「鈴木、早く皆さんを外に!」
「は、はい!!」
鈴木や客たちを先行させると、仔ギツネの化け物たちは口元から血を流しながらも笑うように口を開けた。
「せ、先輩ー!」
「どうした?」
視線だけを鈴木に向けると、彼らの進路方向には、二足歩行する動物の化け物たちがナイフやこん棒を構えていた。
「か、囲まれてますよ……俺たち!」
その様子を見た俺は、小声でつぶやいた。
「はぐれ稲荷といったところか……カナエル、鈴木たちの援護を!」
「はい!」
鈴木陸人(男性)
所属:不明
能力:マシェットナイフ(グレード★★)
護身用のナイフを出す能力。刃渡りは25センチくらいだが、精神力が続けば何本でも出すことができる。単純な武器として使うことも、投げつけて使うことも可能という汎用性の高い能力。
能力:愛煙家(グレード-★)
喫煙を好み1日に1箱吸っている。体力、行動速度、寿命などが下がるという欠点を持つが、葉の種類や喫煙タイミングによっては、霊力が一時的にだが上がることもある。
でもまあ、体には良くないからなるべく控えてもらいたいと、作者は思っている。
腕力 C ★★
霊力・魔法 D ★
行動速度 C ★★
耐久力 C ★★
技量・作戦 D ★
索敵能力 D ★
意志力 D ★
経験 D ★
好きなモノ:女の子と話すこと、喫煙所で一服
嫌いなモノ:煙草の税金、他人の吐く煙
一言:本来なら一般人の中では高めの戦闘力を持っていたが、喫煙以外にも生活習慣病を持っているために能力が弱体化した青年。それでも行動速度がCあるため、学生時代にスポーツをしていたのかもしれない。
なお、剣道の有段者や、柔道の黒帯を持っている人も経験D評価から始まることは多いが、そういう人物の場合は、経験評価の成長速度が普通のキャラよりも早い。




