12.バイト先の騒動
調べ物を終えた俺はバイト先を目指していた。
以前は週に5日で入っていた仕事も、今では3日に短縮されている。ガス代や電気代が次々と値上げされる中で、給料は上がるどころか下がっているのだから、本当に生活しづらいものだ。
こういうことを考えると、公務員の人々は羨ましいと思う。
まあ、俺のような人間では、勉強したところで門前払いが関の山だろうが……。
「おはよーございまーす」
「おはよう」
ちなみに俺のバイト先はドラッグストアだ。最近ではCOVID-19のせいで、仕事自体が大変になっているし、同業他社が雨後のタケノコのように次々と出店してくるので、うちも火の車という状況である。
同じようなバイト仲間も集まり、今日もバックヤードで業務確認を終えると、いつも通りの慣れた作業が始まる。ドリンクコーナーと酒コーナーの商品でも補充するか。
そう思いながら視線を上げると、客の1人を見て違和感を覚えた。
こいつ……どう見ても普通の客じゃない。俺の頭にはすぐに万引きという単語がよぎったが、俺はあれ……? とも思った。
つい1週間前までは、こんなことに気づきもしなかったはずだ。俺の頭はどうなっているんだろう。
疑問に思う俺自身とは対照的に、勘はさっさと動けと注意してくる。仕方ないので、俺はサービスカウンターにいる店長に目配せをした。
彼はどうしたのと言いたそうに視線を向けてきたので、万引きを意味する隠語を伝えると、作業を中断して俺の後についてきた。
そのまま、その不審者の後をつけると、店の隅でゴソゴソと袋を取り出し、仲間と思われる奴と合流して、粉ミルクを狙って、袋に入れはじめた。
俺は店長に視線を向けると、店長も頷いて近くの社員やバイトを呼び、万引き犯をマークする行動に移る。
店長たちは、不審者たちが店を出たときに声掛けをし、不審者はあえなく裏の休憩室へと連れて行かれた。
その後も、俺のバイト無双は続いた。
客に商品の場所を聞かれたら、普段では把握していない場所でもイメージが湧いて答えを出し、他のバイトから返品の処理をお願いされても問題なく処理。
客が落としそうになった商品をキャッチし、更には新人の社員がわからないパソコン業務でも、答えを言い当てられるほどの活躍をした。
今までのボンクラゴローはどこに行ったのだろう。自分でも怖くなるほどの活躍をし、閉店の準備を勧めていると、店長は上機嫌な様子で言った。
「比名くん、今日は凄い活躍だったね! いやぁ~、最近は経営も厳しくなってるから、商品を守ってくれるのは、とても助かるよ!」
「毎日、こうだといいんですけどね……」
そう言いながら俺は壁側を見た。本当にただ何となくだったのだが、そこは不自然に歪んでおり、何やらモヤのようなものが染み出しているようにも思える。
「……マジか!?」
いけない、これはヤバいやつだ。俺は何も見なかったフリをして店長に視線を戻すと、彼はボソリと言った。
「あれ……そういえば鈴木君を見ないけど、見回りでもしているのかな……?」
学生バイトの鈴木なら、20分ほど前にトイレに行くと言いながら、ここを通ったような。
「ちょっと、トイレを見てきます」
そのまま男性トイレへと踏み込むと、中は先程の妙なモヤに包まれていた。
俺はすぐに身の危険を感じて、マジックシールドを展開。更に左手には回転式拳銃が現れていた。
明らかに、このモヤはダンジョンが現れようとしている。俺は周囲を睨むと、すぐに怯えている様子の大学生の鈴木を見つけた。
「ヒナセンパイ……な、なんなんですか……これ?」
「ここは危ない。すぐに出るぞ!」
そう言って手を引こうとしたら、鈴木は涙目になって叫んだ。
「う、動けないんですよっ!」
その声と共に、トイレの壁に狐のような影が現れ、その口元が妖しく笑っていやがる。
「…………」
「…………」
周囲の風景と共に、俺の日常が崩れるように崩壊していく。
アルバイト先にまでダンジョンが現れた。
【作者からのお願い】
ここまで読んで下さり、ありがとうございます。
これを皮切りに、主人公の日常が崩れていきます。
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