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11.報酬

 俺もカナエルに肩を借りながら、公安の人々と一緒にアパートへと帰還すると、彼らは調査のために一旦、S県の支部へと戻った。

 しかし、ダンジョンの入り口を放置するのは問題と見たのか、長谷川巡査部長と作業着姿の刑事は残り、アパートの隣部屋に滞在している。

 いつの間にか、空き部屋だった場所を借り入れていたようだ。


 カナエルは、翼を消して銀髪少女のカナの姿で言った。

「お二人の戦士たちが、ダンジョンの動向を見張って下さっています。勇者様はゆっくりお休みください」

「ありがとう。それにしても……本当に恐ろしい相手だったな」


 そう伝えると、カナも「はい……」と言いながら頷いた。

「あのように自分の分身を作り出す類の魔物は恐ろしいものです。自身は安全な場所から、我々に大きな被害を与えてきます」

 カナは、悔しそうに手を握っていた。

「だから……ゴロー様が倒して下さって、本当に良かった……」

 先ほどの今は亡き同胞、という言葉と今の彼女の言葉で、何かあったことは容易に想像がつくが、そこまで話に突っ込むのは無粋だ。


 俺はそう思って会話を切ろうとしたが、彼女はじっとこちらを見てきた。

「ただ、ゴロー様は勘違いなさっているようなので言っておきますが、敵対勢力の天使族は残っていますので、そのことは忘れないでください」

「わ、わかった……」

 何だか疲れたので、俺は布団を整え直した。

「俺はもうひと眠りするわ。お前も……あまり遅くならないうちに休めよ」

「ええ……おやすみなさい」




 翌朝、俺は何かが顔に乗っていると思って起きると、なんとカナの後頭部が、俺の顔に乗っていたのである。


 コイツの寝相の悪さは健在で、今日は俺を枕代わりにして、さらに顔にヨダレまで垂らしている。

 俺が頭を動かすとカナも目を醒ましたらしく、口元からヨダレが垂れている事にも気が付いたようだ。

「んあ、私のマクラ……」


 いや、まだ寝ぼけてやがる。つーか、俺を何と間違えてるんだお前は!?


 なんとか起き上がって顔を洗っていると、インターホンの音が聞こえてきた。

【ピンポーン!】

 なぜか洗面所にいるのも関わらず、公安の関係者……それも鬼狩警部が来たことを察してしまった。何だか最近は感覚が鋭くなりすぎて怖いと思いながらも、俺は返事をして玄関を開けた。

「鬼狩さん、おはようございます」

「おはようございます。昨日のウシの件で……少しお話が」


 すでにカナも起きていたので布団を上げてテーブルを出すと、鬼狩警部はテーブルの上に書類をいくつか出した。

「肉体を詳しく調査した結果、体の中に高価な魔石などが含まれていることがわかりました」

 彼はそう言いながら別の書類を出した。

「これら魔物の肉体は、国で買い取るという法律がありますので……」


 警部の差し出した書類には、ダンジョン・異界法という難しい法律がびっしりと書き込まれており、警部はマーカーで重要な文章にだけチェックをいれて説明してくれた。

「……という訳なので国からの報奨金として、2217万円をお支払いしなければならないのですが……どちらの銀行口座がよろしいでしょうか?」

「に、2217まん……」


 俺は愕然としながら、その現実離れした金額の書かれた紙を眺めていた。

 こんな家一軒を買えるような金額、給与の総収入金額に到達させるだけでも、10年くらいはかかるぞ……もちろん今までに、こんな金額の預金なんて見たことすらないし、自分の口座に入るなんて一生ないと思っていた。

 つーか、死の危険があったとはいえリターンがヤバすぎるが、税金とかは大丈夫だろうか。ある程度は口座に残しておかないと、やっぱり年度末に悲鳴を上げることになるのか?



 ああそうだ。銀行口座だった。

 俺が持っている銀行口座は、郵便貯金とS玉銀行の2口座だけだ。特に最近はS玉銀行を使い慣れているので、こちらの方がいいだろう。

「では、S玉Rな銀行で……」

「わかりました。こちらの紙に必要事項を記入してください」


 銀行通帳を出して口座番号などを書いていると、ふと思った。

「ところで鬼狩さん?」

「なにか、ご不明な点でもございましたか?」

「いや、あのエリアマスターのウシ……部隊で倒したようなものですよね。俺だけが貰っていいものなんですか?」

「我々が倒したのは分身にすぎません。この報酬は比名さんが受け取るべきと……部隊内で会議をしたら全会一致で決まったのです」


 そ、そうなのか……と思いながら書類を書き終えると、鬼狩警部は言った。

「ちなみに、この金額は税金分をすでに差し引いてあるので……来年になったら確定申告をすることをお勧めします」

 税引き後という言葉を聞いて、俺は「えええええっ!?」という叫び声をあげていた。元の金額を見ると、もはや笑うしかなかった。


 書類をまとめると、鬼狩警部は更に言った。

「遅くても、今月末までには振り込まれると思います。もし……不明な点がありましたら、こちらの番号にお問い合わせください」

「は、はい……」


 それだけを言い残すと、鬼狩警部は俺の部屋を後にした。

 調査協力費を12万も貰った上に2217万円か。これだけのまとまったお金があれば、この安アパートから引っ越して、安全な場所で暮らすこともできるだろう。

 いや、この際だから家を買ってしまえば、もう家賃を払うことも考えなくてすむかもしれない。


 この空いた部屋は、恐らくだけど鬼狩警部たちが借り受けて、このダンジョンを攻略するための足掛かりとなるのだろうな。危ないことは彼らに任せて、俺はカナと一緒にゆっくりと生活を楽しむというのも悪い話じゃないだろう。

「カナエル……?」

「なんでしょう?」

「いつまでもここにいるのは危険だから、もっと広い場所に引っ越すかい?」

 そう質問をしてみると、カナは即答した。

「私は勇者様のご判断に従います」


 昨夜の悔しそうな彼女の表情が脳裏をよぎったが、今のカナは反対はしていない。

 ならば、善は急げかもしれない。


 俺はパソコンに向かうと、このアパートから少し離れた場所にいい物件がないか探し始めた。

 ひそかにパソコンの裏側には、目に見えないほど小さな悪魔が入り込んでいたのだが、この時の俺はまだ、その存在に気付いてはいなかった。

カナ(女性)

所属:比名吾郎

能力:能力遮蔽

本来の力を隠した状態のカナエル。長弓も持っていないため攻撃手段も魔法攻撃に限られる。



腕力    C ★★

霊力・魔法 B ★★★

行動速度  B ★★★

耐久力   C ★★

技量・作戦 B ★★★

索敵能力  A ★★★★

意志力   A ★★★★

経験    B ★★★  



好きなモノ:比名吾郎、甘いもの

嫌いなモノ:比名吾郎に言い寄る女性

備考:ヒール


一言:又は翼を隠した状態のカナエル。あらゆるパラメーターが弱体化しているように見えるが、この状態でも利点はあり、人ごみに紛れれば誰がカナエルなのか前情報なしで判断するのは難しい。


とは言っても、すでに公安では彼女の情報は出回っており、悪しき勢力に狙われないように近くに隠密尾行部隊が居たりするのだから、手を出すのはなかなかにリスキーである。

ちなみに、彼女が日本に滞在できるように彼らは手を回しており、戸籍もすでに手配済みのようだ。

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