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恋の見出し方  作者: ユキノト
閑話休題【好きの見分け方】
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第2話

 その日、カイは父王に呼ばれて、アンリエッタと一緒にその執務室を訪れた。彼の傍らには、いつものように補佐官のセイルトンもいる。

「ああ、カイエンフォールか。アンリエッタも一緒に区切りがつくまでそこにかけていなさい」

 そう呟いた父はセイルトンと議論しながら、手元の書類を仕上げていく。言われた通り目の前の応接セットにアンリエッタと並んで腰かければ、侍女がお茶を出してくれた。


 その間アンリエッタの目は、部屋の東の壁にかかった絵画に釘付け。

「……」

「……」

 こっちを向いた奇麗な青緑の目と視線が絡む。

(複製画をしばらくここに置いておいて、本物は質に入れる。そのお金を投資に回して、利益が出た頃に質草を買い戻して、本物と複製画をもう一度すり替える――いい案だと思わない、カイ?)

(ダメに決まってるだろう……同じことを僕の部屋の花瓶でやった時、利益が出るまでの3ヶ月間、どれだけ寿命が縮んだと思ってるんだ! しかも出た利益なんてたった263.2ソルドだったじゃないか!)

「……」

「……」

(ケチ)

(ケチはどっちだ)

「……」

 声にしていないのに、彼女の頭の中がわかるようになった僕も色々問題があるのかもしれない、とカイはため息をつき、目の前の茶に手を伸ばした。


 執務机から立ち上がった父が、大きく深呼吸しながら背伸びをし、2人が腰掛けているソファへとやってきた。その彼に、見計らったかのように侍女が茶を差し出す。

「さて、今日殿下にお越しいただいたのは」

 ゆっくりとそれを口に含む父上に代わって、呼び出しの理由を話し始めたのは、父の傍らに立っているセイルトン。

 内容は、来月隣国ホートラッドの国王夫妻が我が国を来訪、そのまま半月ほど滞在するということ、そして、その訪問に国王夫妻の次女が同行するため、慣例上カイがその応接にあたれということだった。


「ホートラッドの第2王女、確かシャイライン姫……」

「……」

 そう言ったきり、眉をひそめて考え込んだアンリエッタにセイルトンが面白そうなものを見る視線を送っている。

(……今度は一体何を考えているんだろう)

 カイだけじゃなく、彼も知っているのだろう。アンリエッタの頭の中では今色んな計算や打算が廻っている。


 アンリエッタは相変わらずだ。家族が大好きで、お金が大好き。

 それから、なんというか、ますます磨きがかかってきた。最近では誰かを出し抜くことに快感を覚えたとか物騒なことを言っているし。何でも自分を小馬鹿にしている人の顔が屈辱で歪むのが楽しいのだそうだ。

 今でさえこんな風、将来どんな人間になってしまうのかと密かに心配しているカイとは対照的に、セイルトンはそんなアンリエッタがお気に入りの様子。

 ますますアンリエッタにいい影響はなさそうだと考えて、カイがちょっと憂鬱になっているのはここだけの話だ。


「私はその間どうしているべきでしょうか? 普段通りに殿下にお仕えしていても?」

 こういう時のアンリエッタの口調が大人びているのも変わらない。

 やはり彼女はカイよりたくさんのことを知り、考えていて、事ある毎にカイを守ってくれている。身体だけじゃなくて、最近増えてきた政治的な駆け引きや精神的に加えられる悪意からも。そりゃあ危なげなく、頭と詐欺みたいな容姿を最大限利用して、むしろ相手が気の毒になるくらい巧妙に。


「どういう意味かね?」

 だから昔みたいにアンリエッタが心配になることはないけど……最近それを悔しいと思うようになってきたのはなぜだろう?

(僕までこんなアンリエッタの負け嫌いに影響されてきたのかな……)

 カイの傍らで臆する素振りすらなく、真っ直ぐ王とセイルトンを交互に見つめるアンリエッタの横顔は、いつものことながら凛として見える。


「ホートラッドの第2王女は気位の大変高い方と聞き及んでいます。私が期間中カイエンフォール殿下のお側にいることに差し支えはありませんか?」

 アンリエッタのその物言いに父上が眉を上げた。

「はあ? アンリエッタ、何を言ってるんだ?」

 カイはカイで、そんな父に気を払う余裕もなく慌てた。彼らの滞在は半月もあるのだ。その間アンリエッタが側にいないなんて冗談じゃない。

 けれど、セイルトンはそんな僕ら3人の誰にも構わずに、満足そうに「特に気にする必要はない。普段通りに」と言って笑った。


(……ほんと、いい神経してるよ、セイルトンも)

 アンリエッタはおろか、カイも国王も無視――それが意味するのは、そんな彼に見込まれているアンリエッタの将来が、ますます怪しいということだ、とカイは半眼で息を吐き出した。


 それにしても――


「何であんなこと言うんだよ、アンリエッタ」

 父王の御前を辞した後、政治学の講義のために、クラーク老師の部屋へと一緒に廊下を歩いて行く。

「あんなことって、ホートラッドの王女のいる間、カイの側にいてもいいかってこと?」

 アンリエッタは昔から全然変わらない不思議な色の瞳をこちらに向けてきた。今は日の光の加減のせいか、青色に見えてとても奇麗。その辺の宝石なんて本当に何の価値もなく見える。

「シャイライン王女の取り巻きは見た目もよくて、優秀な高位貴族の子供ばかりって聞いたもの。子供と言っても国賓、機嫌を損ねたらまずいわ。大体ホートラッドの」

「王位は男子が生まれていないから誰が継承するか分からない。母親が正妃の第2王女は、その婿が王位を継ぐ可能性も高いから、取り扱いには注意しなきゃいけないって? しかも、正妃の実家は最近、貿易商のシャイメル家とのつながりも出来たしね」

「……よくわかってるじゃない、カイ」

 じゃあ何が不満なのよ、とアンリエッタがむくれる。カイも負けずにむくれた。

「そうじゃなくて、ここはミドガルドで、アンリエッタは僕の側役、一緒にいることが当たり前なんだから堂々としていたらいいんだ。そんな相手のご機嫌取りより、そっちの方がよっぽど重要なんだから」

 ぶすっとして言ったのに、アンリエッタは一瞬目を見張った後、にっこりと心底嬉そうに笑った。

「うん」

 そうして、きらきら日差しに光る髪をなびかせる勢いで抱きついてきて、

「カイ大好き」

 やっぱり満面の笑顔でそう言った。

「……」

 それに、どうしてだろう、昔みたいに抱きしめ返していいのか、戸惑ってしまった。それから珍しくないはずの距離から届くアンリエッタの髪の香りに、なぜかひどく緊張してしまって……最近いつもそうであるように、自分もアンリエッタが好きだと返せなかった。



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