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恋の見出し方  作者: ユキノト
閑話休題【付加価値の見つけ方】
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【付加価値の見つけ方】第1話

 僕の側役になったアンリエッタと一緒に過ごすようになって1年とちょっと過ぎた。その間に色々分かったことがある。


 アンリエッタは“なぜ?”がいっぱい。

「なんで城の庭にはバラとかしかないのかしら。同じ赤ならトマトの方が食べられて良いと思わない?」

「芝生が普段立ち入り禁止なのは、案外弱いからなのですって。どうせ入れないなら、なぜ小麦を植えないのかしら。非常食にもなるのに」

 結果中庭の花壇にトマトを植えてみたり、芝生に麦を蒔いたりして、侍女頭に怒られていた。

 そんなアンリエッタは宮廷庭師のトンプソンと大の仲良し。


 アンリエッタは“合理的”が好き。

「廊下を走っていたら、メッソン先生に怒られたの。だって急いでいたのよ、私。カイを待たせていたんだもの。走る方が時間の節約になって、健康にもよくて、とても合理的なのに」

 それでこの間、侍女と衝突していなかったっけ?

 そんなこんなで作法のメッソン先生とアンリエッタは犬猿の仲。


 アンリエッタは悪戯が大好き。

「カイ、行くわよ。今日こそクラーク先生に叫び声をあげさせてみせる。この間の蛙は無言で掴まれて薬鍋にぽいっ、でしょ? 今回は蛇でいこうと思うの」

 悪戯してもクラーク先生がそれを見透かしてしまうのが気に入らない。

 だから打倒クラークがアンリエッタのライフワーク。


 アンリエッタは負けず嫌い。

「くぅ、またキーンにやられた」

 キーンは僕らの護衛で、剣術の稽古相手。勝てないのは当たり前……というか、勝てたら色々問題だと思うんだけど。

 ちなみに、アンリエッタの「打倒キーン!」の次の目標は打倒剣術指南役――近衛隊長だよ、アンリエッタ。


 アンリエッタはたくましい。

「そうよ、私は貧乏・没落・名前だけ貴族のスタフォードよ。だから? あなたたちが私個人に勝てることってなに? お金? 動産? 不動産? 地位? 名誉?――全部親や先祖の稼いだものじゃない。そんなのに縋って人にえらそうにするって、僕個人は能無し馬鹿ですって言ってるようなものでしょ。今だって言い返すこともできないくせに」

 今日も嫌味を言ってきたメルッセン子爵家双子の長男アダムスを、10倍の嫌味で泣かせて帰した。

 そう、僕の側役をうらやむ貴族の子弟はアンリエッタの天敵。……どっちが獲物かかなり微妙って思っているのは、アンリエッタには一応内緒。


 アンリエッタは計算が得意。

「ちょっとカイ、いまあんた牛乳3本と卵4.7個分浪費したわ」

 それっていくら?

 その価値を僕が理解できないのが、アンリエッタの不満の種。


 アンリエッタはお父さんが大好き。

「甲斐性無しなの。もう本当信じられないくらい。危うく死ぬところだったわ。あ、でも頭はいいのよ。分厚い哲学書とか普通に読んで、なんでだか納得できてるんだから」

 いつも甲斐性無しで始まるアンリエッタのお父さん評。

 それでも最後にはアンリエッタはいつもお父さんの味方。


 アンリエッタはお母さんが大好き。

「奇麗な金色の髪なの。にっこりとっても優しく笑うの。怒るとちょっと怖いけど。でももっと困るのはお母さんが泣くことなのよね」

 ニコニコと笑いながらいつもお母さんのことを自慢する。

 でも体の弱いお母さんはアンリエッタの心配の種。


 アンリエッタは1年前に生まれた弟が大好き。

「ルーディって言うの、私やカイと同じ銀色の髪で、将来すっごく美人になりそうなかわいい子なの。最近歩くようになったんですって。今度家に帰るのが楽しみ!」

 どんなお嫁さんがルーディに相応しいかしら、と1歳児を前に今日も悩んでいる。

 こんな姉がいると知られたら、逃げられるんじゃ……?と微妙に疑っているのも一応内緒。


 アンリエッタはお金が大好き。

「月給3,000ソルドで食事込み、教育込み。破格なのよ、王子の側役って。食パン1,935斤。牛乳1,622本弱。卵1,090パックと9個。気前のいい話だわ。おかげでお母さんはちょっと元気になったし、ルーディの顔も艶々、万々歳よね」

 家族が好きで、だからお金が好き。

 ……だからアンリエッタは僕の側にいる。


 それなのに、アンリエッタは僕の本音を見破るのが得意。

 喧嘩した時、腹が立って「僕がアンリエッタの主なんだ、僕の言うことを黙って聞いてればいいっ」と言ってしまった時のこと。

「嘘よ。そんなことしたら一番嫌がるの、カイでしょう」

 言ってしまった内容のあまりの酷さに、アンリエッタが離れていってしまうと蒼褪めた僕に、アンリエッタはあっさりそう言った。



 お金のために、家族のために、僕の側にいるのに、僕より僕を知っているアンリエッタ。

 だから――僕はそんなアンリエッタが大っ嫌い。


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