・隠しアイテム探そう! サマンサ編 - 『E.力の種』とチョコレート -
嘘か本当か、チョコレートには人の気持ちを高ぶらせる力がある。
そうベルさんが教えてくれた。
事実あたしはそうなっていたと思う。
次から次へと胸から言葉があふれ出して、長々とおしゃべりに高じてしまっていた。
「なあ、水を差すようで悪いんだけどよ……。大事なこと忘れてねーか……?」
「え、大事なこと……? …………あっ?!」
だけどホリンに言われて思い出した!
あたし、ここにお茶をしにきたんじゃなかったんだった!
「あの、お茶とお菓子までいただいておいて、恐縮なんですけど……。少しだけ、ここの倉庫を見せてもらえませんか……?」
「宝はそこか」
「えっと、それは……」
「まあそんなとこっす。案内してくれませんか?」
「製造ラインではなく倉庫が見たいなど、工場長は首を傾げるかもしれんな」
ベルさんが応接間を早足で出て行った。
彼は後ろを振り向かずにどんどん廊下を進んでいく。
あたしは小走りになってその後を追った。
ホリンもベルさんも足が長い。
短いあたしは小走りにならなきゃ2人に付いていけなかった。
「ベル様、もう少しゆっくり歩きませんか?」
「む……」
後ろのあたしに気付くと、ベルさんはペースを落としてくれた。
「すまん、淑女のエスコートは昔から苦手でな」
「意外っす。ベル様ってモテそうに見えるっすけど」
「モテたいと願ったことは一度もない。我は女そのものが苦手だ」
「えーーっ、そうは見えないです。意外……」
「お前は平気だ。お前は、全く裏がなさそうだ……」
「ははは、こいつはバカ正直ですからねー!」
「何よーっ! バカ正直で何が悪いのーっ!?」
昔を少し思い出した。
昔のホリンもこういう、どんどん先に行っちゃう人だった。
でも今は同じ歩幅で歩いてくれている。
「何も悪くない、正直さは美徳だ。……さあ、そこの扉を抜けたら倉庫だ」
ベルさんの背中を追って倉庫に入った。
チョコレート工場の倉庫は木箱でいっぱいだった。
右手の方からは凄く甘い匂いがして、左手の方は甘さの混じらないチョコレートの匂いがしていた。
「これが材料のカカオだ。発酵させて、油脂分を抽出する」
「チョコレートの材料って、木の実だったんだ……」
ついつい目を奪われてしまったけれど、隠しアイテムの回収が先だった。
あたしは攻略本さんを開き、倉庫の四方を見回した。
入り口があそこだから、あそこの木箱が積み上がっている辺りかな……。
「ここまできたら、もう隠さなくていいんじゃないか? ベル様のことはユリアンさんも認めてたしよ」
「ユリアン殿が、我を……?」
そこに赤く小さな宝箱が2つ並んでいた。
ベルさんには見えていないみたいだ。
あたしはそれぞれの箱を開き、中にポツンと入っていた『E.力の種』と『F.鉄壁の実』を取り出した。
「それはまさか……力の種と、鉄壁の実か?」
「そうみたいです。やっぱり、この2つも貴重なんですか……?」
「戦士ならばそれを欲しがらない者などいない」
「へーー……そうなんですねー!」
「しかし、なるほど……。これはホリンが心配性になるのも当然のことか……」
「え……。俺、そんなふうに見えるっすか……?」
「ああ、誰から見ても過保護に見える。微笑ましいほどにな」
「マ、マジか……」
力の種はクルミのように硬い殻で包まれていた。
見た感じ、実をパンに練り込んだら美味しそうな予感がした。
どんな効果があるのか、あの力を使って確かめようとしてみた。
けれどなんだか右手の方が気になって、ふと振り返ってみると――
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【小麦粉】
【特性】[硬い][硬い][硬い][食べられたものではない]
【LV】2
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なんかすっごい小麦粉がそこにあった!
「どうした?」
「この小麦粉……」
「ああ、ここではチョコレートでコーティングしたクッキーも作っていてな」
「これっ、これちょっとだけあたしにくれませんかっ!?」
これってもしかして、あの海賊さんのところにあった酷い小麦粉と同じ種類じゃ……?
だとしたら欲しい!
これがあれば、ホリンのために剣を作ってあげられるかも!
パンで!
「いいぞ、何袋必要だ?」
「そ、そんなにいらないですよーっ!? 持って帰るの、大変ですし……」
「そんなに良い小麦粉なのか? ダンさんのやつよりもか?」
「うんっ、ある意味! ダンさんのとは逆方向に突き抜けてる感じ!」
「いやどういうこっちゃ……」
チョコレート工場は宝物だらけだった。
あたしはレンガみたいに巨大な板チョコと、超硬い小麦粉と、力の種と鉄壁の実を手に入れてチョコレート工場を出た。
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