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・隠しアイテム探そう! サマンサ編 - H.幸運の林檎 -

 お店がひしめくお城付近から、ちょっと薄暗い雰囲気の旧市街の中に歩いていった。

 この旧市街はモクレン東の町に雰囲気が似ている。


 ホリンとベルさんがしきりに辺りを警戒するようになった。

 暗い裏路地に入ってみると、ますます怖い雰囲気の人たちを見かけるようになった。


「この町、どうにかできないんすか?」

「努力はしている。……と言いたいが、思っていた以上に状況は酷い」


 ホリンがベルさんの気をそらしてくれている。

 その間にあたしは、路地裏の枯れ木に刺さっていた『I.不死鳥の羽根』を引き抜いた。


 羽根から白い光が消えると、凄く綺麗な色合いが現れた!


 不死鳥の羽根はまるで鷹の風切り羽根のように大きくて、それでいて燃えるような赤とオレンジに光っていた!


「それは、不死鳥の羽根か……?」

「なんで隠さないんだよ……っ」

「だって、こんなの隠しようがないじゃない!」


 雑にバックに入れて、羽根が折れたりボサボサになったら嫌だし……。

 それに自分から夕日みたいに光る物を、どうやって隠せばいいんだろう。


「隠す必要はない。出会いの時点で、我は一部始終を目撃している」

「えと、次はあっち! あっち行くよ!」


 答えは『攻略本さんに挟む』だった。



 ・



 さっきのが下層民の町ならば、次の目的地は中層民の住宅街だった。

 そこにはモクレンでも見たような公園があった。


 あたしはそこに置かれていたゴミ箱に右手を入れた。

 その中に、光る林檎が落ちていたから……。


「その手には乗らんぞ、ホリン」

「乗って下さいよ……。すまんコムギ、見られた……」


 ホリンが話を振っている間に、あたしが抜け出して回収する段取りだった。

 だけどゴミ箱に手を入れている恥ずかしい現場を、王様に見られてしまった……。


 『H.幸運の林檎』は、手にすると爽やかな香りを放つ青林檎になった。


「何もないところから、商人たちが血眼になって探し回る奇跡の果実、幸運の林檎が現れたように見える」

「これってそんなに貴重なんですか?」


「彼らからすればな。……後に現れると予言されている勇者のために、買い上げて宝物庫に蓄える王家もあると聞く」


 ごめんなさい、それをあたしたちが横取りしています……。


 でもでもアッシュヒルの誰かが勇者なんだから、これは未来で拾う物を先に使わせてもらっているだけだから!


「氷の盾、幸運の林檎。お前たちはいったい何者なのだ?」

「ただの村人っす。そういうことにしてくれないっすか……?」

「お願いします、あたしたちはただ――」


「先ほどの恩義は忘れぬ。あのままの格好では、いずれ変装を見破られ、赤恥をかいていただろう」


 ベルさんは誰にも言わないって約束してくれた。

 誰かに言ったところで、誰も信じないって。


 あたしたちに感謝しているって。

 そう言ってくれた。



 ・



 次の目的である建物の前に着いた。

 だけど困った。


 『E.力の種』『F.鉄壁の実』は、人がいっぱい働いている工場ってところの敷地内にあるみたいだった。


「なんか、すっげぇ甘い匂いがしないか……?」

「するっ、するっ、よくわからないけど、凄くいい匂い……っ」


 工場からは甘い匂いが立ち込めていた。


「チョコレート工場に入りたいのか?」

「なんすか、それ?」


「王侯貴族を魅了する魔性の菓子だ」

「お菓子っ、お菓子なら食べたいです! 食べたいに決まってます!」


「よかろう、なればここは我に任せよ。チョコレートも好きなだけ食べさせてやる」


 ベルさんが工場に正面から乗り込んでいった。

 あたしたちはその背中を追って敷地の中に入った。


「ちょっとアンタ、勝手に入っちゃいかん! ここはロベール陛下ご所有のチョコレート第一工場だぞ!」

「以前見た顔だな」


「ん、誰だ? 旅の剣士のようだが……」

「ほぅ、我の顔を見忘れたか?」


 ベルさんは銀縁眼鏡を外し、髪を整えた。

 するとちょっとだけ彼の姿はサマンサ王に戻った。


「そ、そのお顔は……っ?! こ、こここっ、国王陛下ぁ……っっ?!!」

「この2人は我の友人だ。チョコレート工場を見学したいというので案内している」


 若いけど、ベルさんって本当に王様なんだ……。

 見張りのおじさんがひれ伏した。


「おい、部外者を勝手に入れるな」

「工場長、お前も我の顔を見忘れたか?」


「我だと? 偉そうな若ぞ――はっ、こ、こ国王陛下っっ?!」


 工場長っておじさんも同じ反応だった。

 工場長さんは最高級のチョコレートを手配しろと指示をして、あたしたちを応接間に案内してくれた。


 目的地についた頃には、もうお茶とチョコレートがテーブルに準備されていた。


「これが、チョコレート……? なんか黒いね……」

「なんか甘い独特の匂いがするな……」


 小さな包み紙の中に、サイコロみたいな形の焦げ茶色の物体が入っている。

 あたしはその甘い匂いに負けて、チョコレートを口の中に入れてみた。


「ん……。な、なにこれっ、あ、甘ひ……っっ!」


 ねっとりとした濃厚な甘味だった。

 油脂分が多くて、そのおかげで甘さがこれでもかと舌によく残る。


 口の中で、強烈な甘さを持ったお菓子がゆっくりと溶けていった。

 独特な風味だけど、慣れてくるといい匂い……。


 あたしは2つ目、3つ目のチョコをまだ食べきってもいないのに口に運んでいた。


「あ、甘……っ、甘過ぎる……。な、なんじゃこりゃぁ……?!」

「えーっ、美味しいよー! ホリンがいらないならちょうだい!」


「やるよ……俺には甘すぎる……。すげぇ美味いけどさ……」


 渋みのある熱い紅茶が、ねっとりとしたチョコレートを流してくれた。

 渋みが甘さをリセットしてくれるから、いくつだって食べられそうだった。


「気に入ってもらえて光栄だ。もっと欲しいなら好きなだけ包ませよう」

「ありがとう、ベルさん!! これ、村のお友達にも食べさせてあげたい! あっ、そうだ、チョコレートを使ったパンとかいいかも!」


 チョコレートパン。ちょっと長いから、チョコパン?

 砂糖を使った甘い生地と合わせたら、もっとお茶に合うと思う!


 サマンサの旅は、チョコレートとベルさんとの出会いの旅だった。

 あたしはお宝探しも忘れて、出されたチョコレートをお茶と一緒に楽しんだ。


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