・隠しアイテム探そう! サマンサ編 - すっごく怪しいです! -
……はずだったんだけど。
王様あらためベルさんは、町ではなくて王家の石碑の裏側に回っていた。
彼はそこで身をかがめて、何かをしているみたいだった……。
「えと、何してるんだろうね、ベルさん……?」
「トイレじゃねーか?」
「えっ、王様ってトイレとか行くのーっ!?」
「行くに決まってんだろ……。同じ人間なんだからよ……」
石碑の向こうからベルさんの笑い声が聞こえた。
かと思えば颯爽と、彼はあたしたちの前に早足で戻ってきた。
「さて行くか」
「え……!? え、ええーーっ、な、なんなんですかその兜っ!? それになんで眼鏡っ!?」
「これは練兵所で使われているヘッドギアだ。ククク、これで誰も我とはわかるまい」
「ちょ……ちょい待ち、ちょいお待ち下さい、陛下……。あの、あのですね……」
ホリンが言葉を迷いに迷いながら、とにかく制止するように両方の手のひらを突き出した。
この姿を見た人は、誰だって最初にこう思う。
『偉い貴族様が、なんで使い古しのヘッドギアなんてかぶっているんだろう』って。
「何か問題があるか?」
「はい、すっごく怪しいです!」
「だから言葉を選べよ、お前はよぉ……」
「怪しい、だと……。ぬ、ぬぅぅぅ……っ」
ベルさんは不機嫌なしかめっつらになった。
しぶしぶヘッドギアを脱いで、凄く悔しそうな顔をしていた……。
銀縁眼鏡がとてもよく似合っている。
眼鏡をかけると雰囲気もかなり変わって、いい変装になっていた。
「ホリン、正直に答えよ。我は怪しいか?」
「そのヘッドギアは、ちょっと注目が集まり過ぎる気がするっす……」
「ぬぅぅぅ……。わかった、これはここに置いていこう」
ベルさん自身は自信があったみたい。
なんか凄く不満げに、ヘッドギアを元の位置に戻しに行った。
「だが、前回はこの格好で上手くいったのだぞ……?」
「その格好で町に出たんすかぁっっ?! あ、すんません……」
「なるほど、そういうことか……。どうりで皆がよそよそしかったり、やたらに親切なわけだな……」
「あはは! ベルさんって、意外にかわいいですねっ!」
それって面白い。
想像しただけでも笑ってしまう。
町のみんな、正体が王様だってわかっていたんだろう。
でもあえて黙ってくれていたのかもしれない。
「俺らでよかったら、着替え手伝いますけどどうしますか?」
「ぜひ頼む……。お前たちが頼りだ……」
ベルさんが銀縁眼鏡を外そうとしたので、あたしは腕に触れて止めた。
ただ触られただけでベルさんはビクッと震えて、あたしも驚いちゃった。
「眼鏡はそのままでいいっす。そこはいい感じですから」
「うんっ、あたしもそう思う!」
「そうかっ、これはいいかっ、うむっ!」
意外と素直に喜ぶベルさんに親しみを覚えた。
それはホリンも同じみたいだ。
あたしたちは親しみがいの増したベルさんと一緒に、庭園の隠し通路を抜けて外に出た。
まずはさっきの服屋さんのところに戻ろう。
「ホリン、その盾やっぱり目立つよ……。宿に置いてきてくれない……?」
「でもカッコイイだろっ!?」
「うむ、カッコイイな……。氷の盾、男ならば誰もが憧れずにはいられぬ品だ」
「ほらなーっ! 王さ――ベル様もこう言ってるだろ!」
「殺してでも奪い取りたくなるほどだ……。いや、冗談だが」
「冗談でもベル様が言うと怖いっす……」
あたしたちは人の少なそうな裏通りを選んで歩いた。
ホリンはまだベルさんに気を使ってるけど、あたしの目には打ち解け始めているように映った。