・隠しアイテム探そう! サマンサ編 - ベルさん -
「……ひゃっ?!」
「お、お前っ、誰だっ!?」
だけどその道を長身の男の人に阻まれて、あたしたちはついビックリしてしまった。
「ふむ、城に忍び込んでおいて、『誰だ』とはご大層なことだ」
「あ、そっか、そうだった……。すみませんっ、あたしたちちょっとだけ、ここに用事があって――」
「ああ、知っている。一部始終を見ていた」
「んなっ?!」
「奇妙……いや、神秘的とでも言えるような体験だった。そこの娘が王家の石碑にひざまずいた途端、何もないところから、光り輝く盾が現れた」
背はホリンと同じくらい。
髪はグレーで、男性とは思えないほどにサラサラに見えてつい触りたくなった。
腰には長い剣が吊されていた。
いかにも強そうな貴族様といった風体だった。
「逆に聞こう。お前たちは何者だ? なぜ王家しか知らない隠し通路を知っている? ここで何をしていた?」
「お、俺が悪いんです! 罰なら俺だけにして下さい!」
「えーっ!? あたしが入ろうって言ったんだし、悪いのはあたしだよ! 罰ならあたしに!」
逃げちゃうって手もありそうだけど……。
その前にこの人を退けなければいけない。
けどこの人、かなり強そうだった……。
「ほぅ、自ら相手の分の罪をかぶろうとするか」
「だって、あたしが悪いんだし……」
「……ふんっ、お前たちこの城の連中とは真逆のようだな」
「俺はただコムギを守りたいだけです。コムギを守るのが俺の役目です」
「そのようだ。……お前たちは不法侵入こそしたが、ふむ、悪党や盗賊ではなさそうだ」
貴族風の彼は剣から手を離し、凄く難しい顔でホリンと見つめ合った。
ホリンは必死であたしを守ろうとしている。
頼もしさと安心感を覚えた。
「そんな顔をしなくてもいい。衛兵に突き出すなら既に制圧している」
「許してくれるってことですか……? ああ、よかった。俺はホリン、コイツは――」
「コムギとホリンだな。我はロベール、この城の人間だ」
「ロベール? あはは、それってお城の王様と同じ名前ですねっ」
「な、なにぃぃっっ……?!」
あたしが笑いながら言うと、ホリンが大声を上げて青ざめた。
でも王様がこんなところにいるわけ――
「やはり異国の者か。いかにも、我こそがロベール。まだ24の若さだが、この国の王を任されている」
「…………ヒ、ヒェーーッッ?!!」
「ヤ、ヤベェのに現場を見られちまったな……」
「ククク……まあ、そういうことだ、ホリン」
王様は腰の剣を爪でノックして見せた。
いつでも剣の挑戦を受ける。という意味なのかな……。
「すんません、マジですんません……っ。俺、コイツの保護者みたいなもので、責任は全部俺にあるんですっ!」
「そういう話はもういい。我もまずい現場を見られてしまったからな」
「え、まずい現場、ですか?」
「つか、自分から姿を現さなかったですか? あ、すみません、つい突っ込みたくなってしまって……っ」
今回の発見は、ホリンは目上の相手に敬語を使えるってことだ。
ロベールさんは何が面白いのか、あたしたちを笑っていた。
「我は義務である政務から逃げて、これから市民の生活を見物しに行くところだった」
「あ~~、そこであたしたちを見つけちゃったわけですねー」
「タイミング悪ぃ……」
「まったくだな、ホリン」
ホリンってやっぱり同性に好かれるタイプなのかも……。
王様は親しみを込めてホリンに笑いかけた。
王様にされても困る態度だろうけれど。
「じゃ、俺たちはそろそろ――」
「待て」
「はい、待ちます……なんでしょうか、陛下……」
「面白そうだ、我も連れて行け」
「あ、いいですよ」
「よくねーよっっ?!」
「遠慮はいらん。荷物持ちくらいならしてやろう、この我が」
あたしたちに拒否権はない。
あたしたちは不法侵入者で、彼の機嫌を損ねるわけにはいかない。
ホリンもそのことをわかっている。
深いため息を吐いてうなだれた。
「どこからきたのだ?」
「海の向こうっす。モクレンのそのまた先の山奥です」
「モクレンか。とある海賊の拠点と聞く。海賊と呼ぶよりも、国の承認を受けた私掠船――」
「あ、そっか! 王様ってユリアンさんの知り合いなんですよねっ!?」
「そちらこそユリアンの知り合いか……? なるほど、先ほどの話にあった男女か」
ユリアンさんはこの人のことを認めていた。
だったら、きっと信じても大丈夫な人だ。
「コムギ、俺が王さまの視線をそらすから、お前はその間に隠しアイテムを回収しろ……。他にねぇ……」
「ん……わかった、今回の旅はホリンの言う通りにする」
「俺たちは町を回るだけです。それだけでもいいなら、ご一緒しますか、陛下……?」
「クククッ、隠さなくてもよかろう。先ほどの光景と同じことをするのだろう?」
「み、見間違えじゃねぇっすかね、それ……っ」
「では行きましょう、王様!」
「外でその呼び名は困る。我のことはベルと呼べ」
「わかりました、ベルさん!」
「お前は聞き分けよすぎだっての……っ! すみません陛下、コイツ田舎者なんです!!」
「田舎者で結構ではないか」
「そうだよそうだよっ、田舎者で何が悪いのよ!」
失礼なホリンと、仏頂面だけど話の分かるベルさんと、隠しアイテム探しに町へと出た!
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ベルさんの挿絵、あります。お楽しみに!