・初航海! 港町モクレンから船に乗ろう! - 勇者の旅の軌跡 -
「なんか凄いことになっちゃったね……」
「ああ……。俺たち今、海賊船に乗っちまってるんだよな……」
ホリンと一緒に海原の彼方を眺めた。
海の向こうに陸地が見えない。
どこまでもどこまでも、青い海が果てしなく続いていた。
「なぁコムギ……。世界って、でかすぎないか……?」
「うん、あたしも思った……。あたしたちって、アッシュヒルの周囲のことしか知らなかったんだね……」
あたしたちはただただ海を眺めて、その広大な世界に立ち尽くすしかなかった。
大きな波が船にぶつかって、あたしとホリンがよろけるまでは。
あたしはホリンの胸に飛び込んでいた。
ホリンの腰に両手を回してしまった。
まるで甘えるみたいに、彼にひっついてしまった……。
「ご、ごめんなさい……っ、あ、あたし、足が揺れて……っ」
「わかってる、わかてるから……お、おぃぃっ!?」
また船が大きく揺れて、あたしはホリンの腰からずり下がってしまった。
ホリンはズボンを押さえていた。
「ご、ごごっ、ごめんホリンッ!」
「お、落ち着けっ、落ち着いて俺のズボンから手を離せ……っ!」
「た、大変っ、ホリン、パンツ見えてるよっ!?」
「だから離せて言ってるんだよぉーっっ?!」
ホリンには悪いけど、必死でズボンを押さえるホリンは面白かった!
だからもう平気だったけど、もう少しだけ意地悪をしてからホリンの腰から離れた。
「あははっ、ホリンの方が女の子みたい!」
「公衆の面前でズボン脱がされたい男がどこにいるよぉっ!?」
「公衆……?」
ホリンの指を追うと、帆のところに海賊さんが3人、見張り台に1人。
ニヤニヤとあたしたちのドタバタ騒動を眺めていた。
「わぁぁぁーっっ?! み、見てたのっ!?」
「惜しかったなぁ、ホリン?」
「何がだよっ!?」
「なんか見てて焦れったいな。早く押し倒せよ?」
「するかバカッ!!」
「押し倒す……? あたしを倒して、どうするの?」
あたしが聞くと、海賊さんたちがなんとも言えない顔をした。
それからホリンに同情したみたいだった。
「おい、彼氏。……心中お察しするぜ」
「これじゃ過保護にもなるよな……」
「純情な子はかわいいけど、純情過ぎるのも厄介だな……」
あたしは純情で、ホリンは大変らしかった。
帰ったらゲルタさんに『押し倒す』の意味を聞いてみよう。
ホリンはなんでか海賊さんたちに囲まれて、肩を叩かれたりやさしくされていた。
ホリンの方は困っているように見えた。
「お前ら暇そうじゃねぇか」
「ゲッ、おかしら……っっ?!」
少しするとユリアンさんが戻ってきた。
仕事をさぼっていた海賊さんたちは、逃げ出すように持ち場に戻った。
見張りの人はスコープを海原の彼方に向けた。
「おいミック、下りてこい」
「す、すいやせん、おかしら……」
「説教じゃねぇよ、下りてこいって言ってるだけだ」
「余計に怖ぇですよ、おかしら……っ」
「違ぇよ、そこの2人と仕事を交代しろって言ってんだ」
「え、あたし……?」
「俺たちに見張りの仕事をさせる気か?」
ホリンがそう聞くと、ユリアンさんが口元を歪ませた。
高いマストの上から見張りの水夫さんが下りてきた。
さあどうぞと空に手をかかげた。
「海の上は暇だぜ。ホリン、お前さん高いところは苦手か?」
「あたしやる! ニックさん、そのスコープちょうだい!」
見張りのニックさんからスコープを預かった。
あたしはマストを登っていった。
「えらく勇ましいお嬢ちゃんだな……」
「俺はいいと思いますぜ、ああいう物怖じしない女」
「おいっ、気を付けろよ、コムギッ!?」
見張り台まで登り切ると、上の方は風が強くなっていた。
大型船の見張り台から見下ろす海原は、白い輝きが増して見えた。
結構、揺れたけど……。
「雷はダメなのに、高いところは平気っておかしくないか……?」
「また同じこと言ってる。こんなに綺麗なのに!」
ホリンも上がってきた。
見張り台の風除けにしがみついて、あたしとホリンはスコープを貸し合った。
船影なし。陸地もなし。
甲板から見る海は平面で、見張り台から見下ろす海は立体だった。
沢山の白い三角帆が足下で風をたくわえて膨らんでいた。
「さすがに狭いな……」
「うん、それにちょっと寒いね……」
だからくっついてもしょうがない。
あたしたちは見張りの仕事をがんばった。
すっかり海を見飽きて、もういいぞとユリアンさんが呼びにくるまで。
あたしたちはずっとくっついて過ごした。
船旅は少し退屈だけど、でも楽しい旅だった。
果てしなく広がる海。
世界のあまりの広さに、あたしたちは驚き、感動した。
『私も初めての船旅は、この船だった。またこれに乗れる日がこようとはな……』
さあ、海の向こうの国、サマンサがあたしたちを待っている。
到着が待ち遠しかった。
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