・初航海! 港町モクレンから船に乗ろう! - 初航海は海賊船! -
前に乗ったときも驚きだったけれど、ユリアンさんの海賊船は大きくて凄く立派だった。
この世にこの船に勝てる船なんていない。
そう思わずにはいられないほどに、その船は速くて強くてかっこよかった!
「なぁ、ユリアンさん、なんで横風なのにこの船、前に進んでるんだ……?」
「ああ、お前そういや技師って言ってたな」
「おう。俺の専門は風車とか、馬車の車輪とか、農具とか、そういうのばっかだけどな」
「いいか、小僧、コイツは三角帆って言うんだ。横からの力を、前への力に変える魔法の帆さ」
あたしには原理はよくわからない。
現在、モクレンを出港した海賊船は、横からの風を魔法の帆で受け止めて、すいすいと海の上を前進していた。
「恐れられている理由がわかった気がする。こんな船に追いかけ回されたらと思うとゾッとする」
「頭上にはためくこの白帆は、獲物を狩るための翼さ」
船の針路には風を待っている大型の商船が2隻見えた。
今は風向きが悪く、その船たちは帆をたたんでいた。
そんな中、赤いヘラジカの旗を掲げる海賊船が向かい風をものともせずに迫ってくる。
商船はあたしたちに驚いて、四角い帆を張り直して右手に逃げて行った。
「なんか向こうの船、メチャメチャビビってないか……?」
「なんで逃げるんだろ」
「それはな、コムギ……。この船が海賊船だからだってのっっ!!」
「失礼な連中だぜ。敵国以外は狙わねぇ主義だってのによ」
「そりゃ逃げるだろ……」
彼方にまた船が何隻か見えた。
しばらく見ていると、どの船も針路を急反転させて離脱していった。
ユリアンさんたちは、海の上では陸以上に恐れおののかれていた。
「なんか悪い気がするね……」
「そりゃ、海賊船に乗れば海賊に襲われる心配はないだろうけどよ……。なんか、乗る船を間違えた感じがするぜ……」
「ハハハハッ、もう乗っちまったんだ! 気にしたってしょうがねぇだろ!」
風をつかんだ帆はぐいぐい速度を上げていった。
船の下では紺色の海が波にうねっていた。
寄せては返すその独特の水音を耳に傾けていると、自分が別世界にいるんだって実感がわいた。
「ところで、帰りはあの魔法で戻るのか?」
「そうだぜ。テレポートの魔法を使えばアッシュヒルまで一っ飛びなんだ」
「まさか海も越えられるのか……?」
「いけるって、魔女のばあちゃんはいったぜ」
「そりゃすげぇ……。今度よ、船ごと俺たちを南国に飛ばしてくれよ、ホリン」
「いや、船は置いてけよ……」
「無理か?」
「無理に決まってんだろっ、普通に考えろよっ!?」
ユリアンさんとホリン、やっぱり気が合う。
歳は離れてるけど、まるで同年代みたいに気兼ねなく言い合っていた。
ホリンって……意外に同性にモテるタイプなのかも……。
「残念だな……。船ごと飛ばしてもらえりゃ、こっちも黄金交易でぼろ儲け確実だったのによ」
「ホリン、がんばって!」
「お前1人を無事に運ぶだけでも、こっちは精一杯だっての!」
『……いや、理論上は可能だ。これからのホリンの研鑽次第だろう』
えっ?
攻略本さん、それ本当……?
テレポートの魔法って、そんなになんでもありの魔法なの……?
「ん、どうしたんだよ、コムギ?」
「ううん、なんでもないよ、ホリン」
ユリアンさんの前で言うのは止めておいた。
ユリアンさん、良い人だけどちょっと強引だし。
もしホリンが船を空から落っことしたりしたら大変だった。
「まあ安心しろ、サマンサ行きなら心配はない。サマンサの新しい王とも会ったことあるぜ」
「お、王と海賊が知り合いなのか……っ!?」
「なんなら紹介するぜ。野心的で面白い若造だった」
「い、いらないですよっ、そんなのっ!」
「ただの田舎者を王に紹介してどうすんだよ……」
「小僧もお嬢ちゃんも、ただの田舎者じゃあねぇだろ。……おっと、ちょいと仕事をしてくるぜ」
ユリアンさん、あたしたちが船の上で不安にならないように気にかけてくれたのかも。
だけどそこに海賊さんがやってきた。
ユリアンさんその人と一緒に船倉へ下りていった。
潮風のなびく甲板に、あたしとホリンが取り残された。
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ホリン視点編、始めました。
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