・初航海! 港町モクレンから船に乗ろう! - ハンサム! -
テレポートの高度から見た海は果てしなく広大だった!
海面が白い朝日を浴びてキラキラと絶え間なく揺れていた!
でもそれは一瞬で終わってしまった。
あたしたちはモクレンの西門の前に着陸した。
「ホリンのテレポート、あたし気に入っちゃったかも! 今の海、凄く綺麗だったね!」
「お前、雷と風にはビビるくせに、高いところは平気なんだな……」
「最初は怖かったよ? でも落っこちないってわかったら、なんだか楽しくなっちゃった!」
「こっちはお前を落としたりしないか気が気じゃなかったっての……」
「大丈夫だよ、ホリンなら!」
ホリンって重度の心配性だと思う。
そんなホリンの手を、あたしは勇気を出して引っ張った。
「早く行こ! うかうかしてると船が出ちゃうかも!」
「お、おい……っ、人前で手とか繋ぐなっての……っっ」
「えーっ、なんでー?」
「だって、田舎者っぽいだろ……っ!?」
「田舎者じゃない、あたしたち」
ホリンの抗議を聞かなかったことにして、モクレンの西門を抜けた。
通りがかりの何人かが、そんなあたしたちにやさしそうな目を送ってくれた。
「もう勘弁してくれ……」
「なんでー?」
「メチャクチャ目立ってるだろっ、俺たち……っ」
「テレポートでビューンッて飛んできておいて、それって今さらじゃない?」
「そ、それはそうなんだけどよ……っ」
さらにホリンを引っ張ってぐいぐい歩いた。
この前のレストランにまた寄りたいけど、それは船次第だ。
なのでまずは、港の酒場に行こう!
「まずは港に行くんだよな?」
「うんっ、せっかくきたんだし、お世話になったお礼しないと!」
「なら馬車を使おうぜ。あそこの広場、馬車駅みたいだ」
「えき?」
「いいからついてこい!」
ホリンは逆にあたしを引っ張った。
馬車が止まっている広場にあたしを連れて行ってくれた。
「港の『赤鯨』って酒場まで頼む」
「なっ……赤鯨亭だってっ!? 悪いことは言わないっ、あそこの連中とは関わらない方がいい!」
そこで不思議な形をした馬車に乗った。
車輪が2つだけで、屋根はあるけど窓がなくて、それに座席が2人分しかない黒い馬車だった。
「店の前じゃなくてもいいから頼むよ、おっさん」
「あいつらの知り合いなのか……?」
「そうは見えないだろうけど、一応そうだ」
「……わかった。だが気の荒い連中だ、気を付けた方が……」
「わかってるよ」
それに乗ってみた。
「わぁぁっ、速い、速いよこれ……っ!?」
「本当に速いな……。ロランさんが言った通りだ……」
黒鹿毛の大柄な馬があたしたちを引いてくれた。
最初はゆっくりだった。
けれど大通りに出ると、大型の馬車をぐいぐいと追い抜いていった。
「お客さん、ハンサム馬車は初めてか?」
「うんっ、初めて!」
「へぇ、そうかい。エルフっていうのはかわいいねぇ……」
「ありがとうございます! へへへ、褒められちゃったっ!」
嬉しくて隣のホリンに振り向いたら、なんかホリンのやつがしかめっつらをしていた。
「……そこのハンサムな彼氏さんには、たまに乗ってやってるのかい?」
「あたしが? ホリンに? なんで?」
「おい、おっさん……。その下ネタ、赤鯨の連中に言いつけてやってもいいんだぜ……」
「うっ?!」
「この子はあいつらのお気に入りなんだ。変なことは言わない方がいいぜ」
「か、勘弁してくれよ、お客さんっ! あいつらの機嫌を損ねたらぶっ殺されちまう!」
ホリンと馬車のおじさんが楽しそうに笑い合ってた。
歩きの時は結構な距離だったのに、ハンサム馬車に乗ったら港まですぐそこだった。
「楽しかったよ、おっさん」
「あ、ああ……。けどあの子、何者なんだ……?」
「ただのパン屋だよ」
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