・いざ、モクレンへ! そして海の彼方へ!
知らなかった。
海は凄く広くて、半日で目的地に着くようなものじゃないんだって。
詳しいロランさんが言うには、モクレンから南にあるサマンサまで3日がかかる。
早い船でも2日らしい。
あたしが不在の間、村のパンを誰が作るのか。
その大きな問題は、フィーちゃんとロランさんの立候補により、あっさりと解決しちゃった。
それに今はスライムのロマちゃんのサポートもある。
パン屋の仕事は、気軽に人に任せられる労働じゃなかったけど、ロマちゃんがいればきっと大丈夫だ。
こうして2日の準備期間が過ぎ去り、3日目。
あたしたちはまた、魔女の塔で見送りを受けていた。
ロランさん、フィーちゃん、魔女さん。
この前と同じ顔ぶれだった。
魔女さんが言うには、高い塔からテレポートした方が何かといいそうだった。
「ヒェヒェヒェ……海の向こうとは考えたねぇ……。帰り道に、コムギを海に落っことしてくるんじゃないよぉ……?」
「しねーよ。言われた通り、高いところから飛ぶっての」
魔女さんが言う通り、心配なのは帰り道……。
テレポートに失敗すると、あたしたちは冷たい海にドボンだ……。
「おねえちゃん、お店はソフィーたちに任せて下さいなのです。ロマちゃんと、ホリンさんで、パン屋さんをお守りするでしゅよーっ」
「ありがとう、フィーちゃん! フィーちゃんはやっぱり天使だよ!」
「なぁ、ロランさん? なんかさっきから静かですけど、どうかしたんですか?」
ロランさん、話題に自分の名前が上がったのに上の空だった。
ボーっと南の空を見上げていた。
「ああ、すみません……。ソフィアさんは責任をもって、夜はゲルタの宿で面倒を見ますので、ご安心を。……それと」
「ヒェヒェヒェ……まあ、修行の方はどうにかなるじゃろぅ……」
魔女さんがあたしを見た。
フィーちゃんを借りる分、後でフィーちゃんを成長させてお返ししないと……。
「2人とも後で、サマンサの様子を私に教えてくれますか……?」
「はい、いいですよ!」
「いいですけど、でも、なんでですか……?」
いつも尻尾振っているホリンが、疑うような目でロランさんを見ていた。
「それと、これは妙な要求かと思われるかもしれませんが、私のような男がここにいることは、あちらでは誰にも話さないで下さい」
「全然いいですけど、なんでですかー?」
「ロランさんの知り合いがあっちにいるってことですか?」
気になるのか、ホリンが口をはさんだ。
「念のためです。いいですか、私の話は絶対にしないように。貴方たちを脅かす、災いの種になりかねません」
ロランさんは謎の人だ。
どこからロランさんがきたのか、何をしてたのか、誰も知らない。
聞いてもはぐらかすのがロランさんだった。
「ロランさん、サマンサに居たことがあるんですか?」
「すみません、ホリン……。貴方と私の仲でも、それは言えません……」
引っかかる話だけど、そうしてほしいと言うからそうすることにした。
あたしとホリンは手を繋ぎ、塔の中央で空を見上げた。
今回はアッシュヒルからモクレンにテレポートする。
飛ぶ覚悟を決めて、ホリンにうなづいた。
「じゃ、行ってくるぜ、みんな!」
「いってきますっ、おみやげ買えたら、いっぱい買って帰るね!」
「いってらっしゃいです、おねえちゃん、ホリンさん!」
「ホリン、しっかりとコムギを守りなさい。コムギさんも、どうか気を付けて」
「あはは、行ってきます!」
テレポートが発動した。
青白い奔流が空へとあたしたちを舞い上げた。
目まぐるしく景色が変わり、流星となってあたしたちはモクレンへと疾走した。
3回目のテレポートは慣れが加わったのもあって、そんなに怖くなかった。
景色と速さを楽しむ余裕が出来て、実際――なんだかゾクゾクして楽しかった!
さあいざ、モクレンへ!
そして海の向こうの国、サマンサへ!
大いなる船旅があたしたちを待っている!
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