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・スライムのいるパン屋さん - ロマちゃん無双 -

 昨日はビックリだった!

 でも昨晩、ロマちゃんは最高級の枕だってことにあたしは気付いた!


 ひんやりぷるぷるのロマちゃんは気持ちよかった。

 それに弾力のある感触が気持ちよくて、ずっとモミモミと手慰みにしちゃうほどだった。


 その日は丘の向こうの鶏舎から、鶏が鳴き声を上げるよりも早くに起きた。

 ロマちゃんが攻略本さんを頭に乗せて、代わりに厨房へと運んでくれた。


 今日は先に水瓶の水を入れ変えよう。

 ロマちゃんと一緒に湖に向かって、1往復した。


 あと2往復だ。

 そう思いながら小さな水瓶を床に置くと、ロマちゃんがそれを頭の上に乗せていた。


「もしかして、代わりにくんできてくれるの……?」


 まだ辺りが薄暗い上に、体の大部分が水瓶の影になっていたから、ロマちゃんの返事はよくわからない。

 ロマちゃんは水瓶を抱えて、ノソノソと家の外に出かけていった。


 おかげで手が空いた。

 あたしはお昼の分のパンの仕込みを始めた。


「あ、お帰り! ありがとうロマちゃん、凄く助かるよ!」


 生地を練っているとロマちゃんが帰ってきた。

 打ち粉で手を綺麗にすると、あたしは小さな水瓶を受け取って大きな水瓶に移した。


「大変じゃなかったら、もう1往復お願いできる……?」


 ロマちゃんはうなづくようにぷるんと縦に跳ねた。

 小さな水瓶を持ってお店を出ていった。


「ヤバい、これ凄く助かる……! かわいくて、枕にもなって、ぷにぷにで、働き者って最高じゃない!」


 何もかもを独りでやっていたから、あたしにはちょっと朝の仕事を手伝ってもらっただけでも感動だった。


「あ、そうだっ!」


 やがてロマちゃんが水くみから帰ってくると、あたしはロマちゃんを打ち台に乗せた。

 パンを捏ねたりできないかな、この子……。


「あのね、これがあたしの仕事なの! こうして小麦粉と水を捏ねて、パンの生地を作るの! よかったら、やってみる?」


 また縦に、大きくロマちゃんが揺れた。

 今捏ねている生地を半分にして、ロマちゃんに渡した。


「こうやるの。これは食パンの生地だから、いっぱい捏ねないとふわふわにならないんだー」


 ポインポインと、ロマちゃんが生地の上で跳ねた。

 あたしの見よう見まねで、器用にパン生地を捏ねたり、伸ばしたりしていた。


「上手上手! 凄い、スライムってパンとか捏ねられたんだねっ! 軽く衝撃かも!」


 これ、楽だ……。

 これがあたしが欲しかった理想のお手伝いさんだ……。


「完成したらロマちゃんにも焼き立てを食べさせてあげるね! 一緒にがんばろう!」


 ロマちゃんのおかげで、朝のお仕事がどんどん進んだ。

 あたしがパンを焼く準備をするかたわらで、ロマちゃんが生地を捏ねてくれる。


 おかげでいつもよりもずっと早く朝の仕事が終わった。

 太陽が山から顔を出しかけた頃には、もううちの店に出来立てのパンが並んでいた。


 さあ朝ご飯にしよう。

 熱々の食パンにバターを塗った。

 チーズを乗せた。


 それに余っていたタルタルソースを挟んで、ロマちゃんに差し出した。


 ロマちゃんはそれを、大きな口で一飲みにしちゃった!


「わーー……スライムって、こうなってるんだ……」


 ロマちゃんの中で、タルタルチーズサンドが少しずつ溶けてゆくのが見えた。

 ロマちゃんは嬉しそうにプルプルと身体をリズミカルに揺らしていた。


「ロマちゃんのおかげでなんか手が空いちゃったなー。これならもう2種類くらい、パンを増やしてもいいかも」


 よし、それ今日からやろう!

 タルタルソースを使い切っちゃおう。


 あたしは食事が終わったら、タルタルソースが中に入った『タルタルロール』を作ることにした。



 ・



 ロマちゃんと一緒に生地を捏ねていると、店の方から物音がした。

 接客に出ようとすると、それはホリンだった。


 あたしたちに唖然としていた。

 剣に手をかけて、ロマちゃんに目を丸くしていた。


「な……なにやってんだ、お前……?」

「おはよ、ホリン」


「な、なんでスライムがここにいてっ、パンを捏ねてんだよっ!?」

「ゲルタさんから預かったの。それであのねっ、この子ねっ、お店のお手伝いをしてくれるんだよっ!」


 ホリンが顔に手を当てて、まるで疲れたときのロランさんみたいに目元を揉みほぐした。

 それからロマちゃんを見て、また同じことを再開させた。


「何よ、その反応……。ロマちゃんに挨拶くらいしてよっ」

「お前……もう、何でもありだな……」


「違うよ、この子はゲルタさんのファン! でも酒場に置いておけないから、うちで暮らしているの!」

「つまりお前のパンの力ってことじゃねーか……」


「そんな話より先にロマちゃんに挨拶してよ! この子、こう見えて凄く頭がいいんだから! ……あっ、こらぁーっ!」


 ホリンがロマちゃんを指で突っついた。

 ロマちゃんは嫌々と身をよじらせた。


「お、こいつ気持ちいいなぁ……。へーー、よろしくな、桃色スライム!」

「ロマちゃんだってば! えと、ロマネ……ロマネ、コロネ……? とかそういう名前なんだから!」


「お前も覚えてねーんじゃねーか……」

「う、うるさいなーっ。買い物ならさっさとして帰ってよ、今忙しいんだからっ!」


「買い物はする。けど提案もある。……しょうがねぇし、今やってるその仕事手伝ってやるよ」

「提案って? てか、手伝ってくれるの……? ホリンがっ!?」


「嫌なら出直す」

「いるいるっ! じゃあ、バターを溶かすの手伝って!」


 今日は楽ちんの日だ。

 ホリンに細かな仕事を全部お願いして、あたしたちは追加のパン生地の仕込みを終わらせた。


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