・カツサンドで村人をセクシーにしちゃおう! 後日談 - セクシー無双 -
村の雰囲気がちょっと変わった。
ゲルタさんが若返ったあの日から、村の中心部に人がたくさん集まってくるようになった。
疑うまでもなく、そのきっかけはゲルタさんだ。
みんなゲルタさんに会いたくて、あの酒場宿に集まってきていた。
夜の酒場は大盛況。
酒場いっぱいにお客さんがやってきて、みんな楽しそうに笑ったり歌っていた。
けど意外なのは客層だ。
酒場のお客さんは女性の方が多かった。
ゲルタさんの推測によると、それはつまりこういうことらしい。
まず、ゲルタさんを目当てに若い男の人たちが酒場に集まる。
すると酒場が凄く賑やかな場所になる。
酒場に行けば、みんなに会えるって共通の認識が生まれる。
そこに家々から縦笛やリュートが持ち込まれて、歌が奏でられて、さらに酒場が盛り上がる。
女性は歌と楽器とお喋りが大好きだ。
男性が好むバクチを酒場では禁止している。
だからこうなった。
男ばかりになると思いきや、意外にも女の方が多くなったとゲルタさんは喜んでいた。
あたしが見る限り、そう言うゲルタさんは凄く幸せそうだった。
自分のお店が毎晩あんな大盛況に包まれるなんて、店の主からすれば夢みたいな光景だろう。
あたしもついつい知っている顔を探して、ゲルタさんの酒場に立ち寄ることが増えていた。
ホリンもあたしも朝が早いから、そんなに店に長居はできなかったけれど……。
『ゲルタさん、半月後にまたきます。我々は必ずご希望の品物を取り揃えて戻りましょう。素晴らしき里、アッシュヒルに!!』
『私も必ず……。いや、それにしても本当に素晴らしい村だ。こんなに明るい村は他に見たことがない』
あの商人さんたちは、今日の朝に村を去っていった。
必ずくると約束してくれたそうだ。
ゲルタさんの若返りは、なんと外の町との流通の強化をもたらすことになった!
それからもう1つ。
ここからが、この話の本題なのだけど――
「我々の護衛までさせてしまって悪いな、ロラン」
「いえ、こちらは暇人ですので」
ゲルタさんとロランさんは、商人さんたちを山腹まで送っていった。
この人たちが約束通り半月で戻ってきてくれるなら、村としてはとても助かることだった。
「ロランのことは気にしなくていいよ、その男は本物の暇人さ」
「ええ、そういうことですので、お気づかいなく。……おや?」
もうちょっとで山腹というところだった。
だけどゲルタさんたちは、モンスターに囲まれてしまったそうだ。
「ス、スライム、か……。いや、だが、数がやたらと多いな……?」
それはモンスター界の最弱種族、スライムの群れだった。
小さいのが50匹はいたんじゃないかって、ゲルタさんは言っていた。
「ロバをやられたくはないですね。皆さんはロバの護衛を」
「あ、ああ……っ! あんた、頼りになるな!」
「そして私は――はて? 何か、スライムたちの様子がおかしいですね……」
「アンタにビビってんじゃないのかい?」
だけどスライムはいつまでも経っても襲ってこなかった。
人を囲んでおきながら、なぜか固まっていたそうだった。
「私に、というよりも……貴女に注目しているように見えますが?」
「はぁ? アンタ、スライムまでアタイに見惚れてるとでも、言うつもりかい?」
「その可能性は十二分にあり得ますね」
そう、スライムたちはゲルタさんに見惚れていた!
ゲルタさんがずいずいと前に出ると、正面のスライムたちが後ずさった!
「おやまぁ、ませたスライムたちだねぇ……。すまないけどアンタたち、ちょっとそこをどいてくれないかい?」
するとスライムたちは、ゲルタさんに言われるがままに道を開いた。
「これは驚きましたね……」
歴戦の剣士であるロランさんも、素直なスライムにとても驚いていたそうだ。
「スライムに人の言葉が通じるなんて……」
「おお、さすがはゲルタさんだ!」
「ゲルタさんの前には、スライムも我々も皆同じ、そういうことですな!」
「アンタたち、話がわかるじゃないかい。ありがとよ」
その時、ゲルタさんはサービスのウィンクをスライムに飛ばした。
するとスライムたちは、興奮で沸騰したかのように薄桃色になったそうだ。
「あっはっはっ、案外かわいいやつらだねぇ! なら、これでどうだい?」
反応が面白くなっちゃって、ゲルタさんはさらに投げキスを飛ばした。
でもそれがいけなかった。
スライムたちはコテンッとひっくり返った。
それからすぐに弾けるように、水色の宝石へと変わっていた。
「投げキスだけでスライムを倒したっ!?」
「うぉぉぉぉーっ、羨ましぃぃーっっ!!」
「ゲルタさんの魅力に耐えきれなかったか。スライムには、我々のゲルタさんは刺激が強すぎたようだな」
この話、聞いただけじゃよくわからない……。
ますますわからないのは、この後の超展開だった。
「いえ、1匹だけ生き残っていますね」
「よかったよ。アンタ、大丈夫かい?」
生き残った1匹が起き上がった。
ゲルタさんはそのスライムの前にひざまずいて、やさしく気づかった。
「ん、なんだい? 何かアタイに言いたいことでもあるのかい?」
起き上がったスライムは、仲間になりたそうにゲルタさんを見上げていた。
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