・カツサンドで村人をセクシーにしちゃおう! - ふわふわの中のサクサク! -
「あ、忘れてた! そういや俺たち、カツサンドを作ってたんだったな!?」
「なんで忘れてるし……。つまり、ホリンはカツの部分なんていらないってこと?」
「いるに決まってるだろ! 頼む、俺をセクシーにしてくれっ!!」
さっきおやつにした食パンの耳は、カツサンド作りの余り物だ。
あたしは耳を落とておいた食パン20枚のうち半分を、調理台に並べた。
軽くバター塗った。
その上に千切りのキャベツを乗せた。
そしてさらにその上に主役であるトンカツを乗っけた。
それからホリンお気に入りのタルタルソースを、たっぷりと盛った!
「ねぇ、ホリン……。これ、なんかヤバくない……?」
「おう……こんなのよ、絶対美味いに決まってるだろ……」
壮観だった。
材料集めから調理まで、たくさんの手間暇をかけただけあった。
あたしは合計10個のトンカツのタルタルソースがけを食パンではさんで、セクシーカツサンドを完成させた。
今すぐ食べたい……。
セクシーさが上がる効果はかなり不安だけど、あたしもこれをお腹いっぱい食べたい……。
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【誘惑のカツサンド(タルタル)】
【特性】[濃厚][ふわふわ][さくさく][お肌とぅるとぅる][魔法の力]
[セクシーさ1~75アップ]
【アイテムLV】1
【品質LV】 5
【解説】効果には強い個人差がある。野暮ったい者には焼け石に水。
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だからセクシーカツサンドを鑑定してみた!
すると作ったのはあたしなのに、勝手に新しい名前を付けられていた!
でも【解説】を見たら一安心だった。
あたしもホリンも、野暮ったい村人からきっと大丈夫だ!
「くれるよな……? ここまできて、くれないなんてことねーよなっ!?」
「そんな意地悪しないよー! はい、どーぞ、ホリンッ!」
「ありがとうコムギ! 俺、美味しく食べて、セクシーになるよ、ロランさんよりっ!」
ロランさんに憧れる気持ちはわかる。
けど、目標が高すぎないかな、それって……。
ホリンが大きな口で、あたしのカツサンドをほおばった。
美味しいとは言ってくれなかった。
あたしのことすら忘れて、夢中でカツサンドをがっついていた。
「んっっ、んぐっっ……?!!」
「お肉が入ってるのに、そんな勢いで食べるからだよ……。はい、お水」
陶器の計量カップだけど、苦しそうだったから水をくんで渡してあげた。
「ふ、ふぅぅ……っ。つい美味すぎて、我を忘れちまってた……」
「美味しかった?」
「ああっ!! モクレンで食べたコートレットの3倍は美味いっ!!」
「そ、そんなに……っ?」
ホリンの食べっぷりが調理者として嬉しくて、自分のことを忘れていた。
あたしはカツサンドを手に取った。
あたしは地味だから、これを食べても大した効果はきっとない。
香ばしい匂いがたまらないカツサンドを、あたしも大きな口で食べた。
ふわふわの中に、サクサクが包まれていた!
酸味のあるタルタルソースが、揚げたお肉と凄く合った!
「ん、んんーっっ?!」
「ほら飲めよ」
わかっていたはずなのに、あたしはホリンのように喉を詰まらせていた。
ホリンが口を付けた計量カップのお水で、詰まった喉を流した。
「ねぇホリン! これっ、美味し過ぎないっ!?」
「おう、お前の過去最高傑作だと思うぜ! ……あ、ところでよ?」
「やった、その評価素直に嬉しい! それでなーにっ、ホリンッ?」
「俺、セクシーになったか?」
「ううん、全然!」
「ぜ、全然って……。もうちょっと穏やかな言い方をしろよ、お前……」
カツサンドをついばみながら、ホリンの顔や肢体を観察した。
ホリンは元からカッコイイ。
育ちもあってちょっと荒っぽいけど、あたしには王子様にだって見える。
でもセクシーになったかと言われたら……。
うーん……?
「失敗作か……?」
「最高傑作って言った口でそれ言うっ?!」
「だって、お前にもあんまり変化ないしな……」
「うーん……。確かに」
胸に触れてみた。お尻にも、腰にも。
いつも通りの感触だった。
くびれが大きくなる効果を、あたしも少し期待していたかもしれない……。
『そんなものだ。セクシーさが少し上がったところで、実感できるほどの大きな変化はない』
そんなあたしたちを見るに見かねたみたい。
かたわらの攻略本さんが助言をしてくれた。
「ホリン、今攻略本さんがね――」
彼の言葉を伝えると、ホリンはがっかりしていた。
それからホリンは服の胸を開いて、あたしにはまぶしいあの胸板を自分で確かめた。
「やっぱ生えてねぇ……。ああ、欲しいのになぁ、胸毛……」
「そんなのホリンにはいらないってばっ!」
「いるんだよっ! 家族みんなあるのに、なんで俺だけないんだよーっ!?」
「知らないよ、いつかそのうち生えてくるんじゃない……?」
「お、そうだ! 頼むコムギ、胸毛が生えるパンを作ってくれよーっ!!」
「やだ。絶対、やだ」
あたしたちは誘惑のカツサンドを完食した。
見た目以上にガッツリで、食べ終わってみればお腹が苦しくなっていた。
「2つ目を食べれば、もしかしたら……」
「ダーメ。余ったらあげるけど、これからゲルタさんのところに届けないと」
「……なぁ、なんでゲルタのおばちゃんなんだ?」
「お昼にトングを届けてくれたから、ゲルタさんにお礼がしたいの」
「あんなおばちゃんをセクシーにして、意味とかあるのか……?」
「うん、あるよ。昔みたいにちやほやされたいって、言ってたし」
あたしはカツサンドが崩れたり、乾いたりしないようにバスケットに積めた。
さあ、ゲルタさんのところに届けよう。
「ホリンもくる?」
「行く。けどそん中の1つ、俺の分だからな……? 予約だからなっ?」
「まだ食べる気なんだ……」
ホリンと一緒にお店を出た。
だいだい色の明るい夕日が、辺りを暖かな色に染めていた。
もうそろそろ、あの酒場宿に村の人たちが集まってくる頃合いだった。
「ロランさんにも食べてもらおうぜ。もしかしたら、スーパーセクシーなロランさんになるかもしれねーしっ!」
「ロランさんは元からセクシーだと思うけど……」
「なら、俺は?」
「……それは、えと、知らないよ……」
脳裏にあの白い胸が浮かんで、あたしは頭を振り払った。
あたしがホリンに変化を感じないのは、元からホリンに魅力を感じているから。
なのかもしれない……。
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