・ステータス「セクシーさ」って必要?
嵐が去った。
嵐の被害はあたしたちの想像よりも少し小さかった。
建物の被害は、民家1つと納屋2つの屋根。
それと大風車のプロペラが2枚。
破けてしまった部分を、予備の帆と交換することになった。
畑の方の被害はもっと小さかった。
ホリンと村長さんはこの報告にホッと安堵していた。
あたしたちのアッシュヒルは、嵐1つで生活が壊れかねない。
危うい環境にあるんだって、あらためて実感した。
やっぱり嵐って、怖い……。
もう2度とこないでほしい……。
あれからしばらくの間、村は嵐についての話題で持ちきりだった。
『ムギちゃんや……』
『なーに、村長さん?』
『屋根の張り替え工事はワシらでやるから、もう帰って休んでくれんかのぅ……』
『え、酷い、仲間外れにするのっ!?』
『爺ちゃんは無理しねーで休めって、言ってんだよ……』
あたしだって屋根が飛んだ納屋を直したかった。
困ったらみんなで助け合うのがうちの村だ。
『私がコムギさんを家まで送ります。しかしホリン、貴方がこの役を交代してくれてもいいのですよ?』
『きつい仕事は俺に任せて下さい! コムギ、ロランさんに迷惑かけるんじゃねーぞ!』
なのに仲間外れにされてしまった……。
あたしは全然大丈夫なのに。
やさしいロランさんとお喋りをしながら、ショボショボと家に帰った。
・
「ただいま、攻略本さん……」
『やはり追い返されたか。おかえり』
「うん……」
『無理をしないで部屋で休め。眠れないのならば、話し相手くらいにはなる』
攻略本さんを抱いてトボトボと階段を上がり、枕元に彼を置いた。
でも横になる気になれなくて、窓辺のセクシー草さんの様子を見に行った。
スズランに似た桃色の花弁がかわいい。
それにこの花、いつまで経っても花が散らない。
夜になると、ほのかに光るところも大好きだ。
鍋に入れて連れてこられたセクシー草さんは、今はレンガの鉢植えに移されて窓辺に置かれている。
『その花について、何か疑問でも?』
「うん……あのね、攻略本さん。……アッシュヒルを救うのに、セクシー要素って、必要……?」
『ふむ……』
パンの材料にしなきゃいけないのに、この花に愛着が湧いてしまった。
かわいい……。
ずっとここに飾っておきたいくらい、凄くかわいいお花だ……。
村のみんなのセクシーさと引き替えに、この花をすり潰す必要って、本当にある……?
「っていうか、セクシーさとか絶対っ、戦いで役になんて立たないでしょっ!?」
『君がそう望むならばそうすればいい』
「でも……」
『魔物がこちらに見とれて動きを止めるなどの、多少の影響はあったが、それも希なことだった』
確かに、ちょっと微妙と言えば微妙だ。
だけどその一瞬に救われる人がいるかもしれない。
そう思うとまたあたしは悩んだ。
『重要な能力ではない。村の復興を待ち、またホリンと遠征に出るといい』
「ありがとう、攻略本さん。じゃあ、そうしちゃうっ! この子は使わない!」
セクシー草を使った新作パン、セクシーカツサンドは没になった。
・
その2日後、あたしはいつものように夜明け前に目覚めた。
枕元の攻略本さんに挨拶をした。
窓辺のセクシーさんにも同じことをしようと近付くと、あたしは衝撃の悲鳴を上げることになった。
窓を開けると、セクシーさんが惨たらしく散っていた……。
昨日はあんなに元気だったのに、セクシーさんがカラカラに干からびていた……。
だけど鉢植えの底に何かある。
黄色くて三日月のような形をした物が、たくさん落ちていた。
『セクシー草が種を付けるとは、珍しいこともあったものだ』
「あっ、種! そっか、これセクシーさんの種なんだっ!?」
セクシーさんは散っちゃった。
でも2cmくらいの種が数えて17個も実っていた!
「やった、この種をお庭に蒔けば、もっともっとセクシーさんを増やせるってことだよね!?」
『無事に育つかわからないが、試してみる価値はあるだろう』
「うんっ、朝の仕事を終わらせたら、ダンさんに相談してみる!」
『ダンさんなら確実だろう。ところでこれは提案なのだが、あの鑑定の力を、その種に使ってみてはどうだろうか』
あ、そっか。
あたしはセクシーの種に注目した。
眉をしかめてジッと見た。
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【セクシーの種】
【特性】[少し鋭い][セクシーさ+1~2]
【LV】1
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『どうだ? 花にならなければ――』
「あるっ、これ食べたらセクシーさが上がるって!」
『そうか、それは素晴らしい。今日は忙しくなりそうだな』
「うんっ! 今日はセクシーさんの子供たちをお庭に植えてっ、セクシーカツサンドも作るっ!」
あたしは階段を駆け下りて、また駆け戻った。
『思い出してくれて嬉しい』
「ごめん、攻略本さんのこと忘れてた……!」
今度は攻略本さんを抱えて、あたしはもう1度階段を駆け下りた。
今日も元気いっぱいでがんばっていこう!
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