・素早さのサーモンサンド - 完成、スモークサーモンサンド! -
「あのあの、サーモンサンド、完成させてから帰りたいです! ソフィーは、何すれば、いいですかー?」
「あ、そうだね。じゃあ、フィーちゃんにはフライパンをお願いしようかな」
厨房に戻った。
かまどにフレイムの魔法を放って、フィーちゃんにはバターを溶かしてもらった。
その間にあたしはスモークサーモンをざく切りにした。
それをフライパンに移した。
サーモンとバターが混ざり合うと、天にも昇る香りになった!
「薄切りにして挟んでも美味しいかもしれないけど、今回は崩しちゃおう!」
「はいです!」
「あ、そうだ。黒胡椒も入れちゃおう!」
「こしょ……?」
小袋から胡椒の実をすり鉢に少し移して、細かく挽いた。
十分に挽いたら、フライパンの上に全投入! 香ばしいような独特のいい匂いが――
「へくちゅっっ!!」
したんだけど、急に鼻がムズムズしてくしゃみが出ていた……。
あたしは1回で済んだ。
だけどフィーちゃんは丸くなって、何度もかわいいくしゃみをすることになった。
「な、なんか、鼻にくるね、これ……」
「は、はふぅ……。こしょは、くしゃみの出る、魔法の実なのですかー……?」
「あははっ、でも面白かったねっ!」
「お姉ちゃんは、いつもいつも明るいのです……」
でも黒胡椒が混じると、ますます美味しそうな香りになった!
あたしはフィーちゃんの代わりにサーモンの身を崩した。
フレーク状になってきたら火を止めた。
マヨネーズの残ったボウルにその身を移した。
混ぜ合わせて、パセリを加えた。
水にさらしていたタマネギを取り出して、水分を十分に切ってからまた混ぜ合わせた。
「ふぅ……これも手間がかかって、定番メニューにはならないなぁ……」
「でもでも、しゅごく美味しそう……。生のタマネギとも絶対合うですよーっ!」
「うんっ、後はこの種を食パンで挟めば完成! あっ……」
「どうしたですかー、お姉ちゃん?」
フィーちゃんの前だったからつい、疾風の実を入れ忘れてた……。
よし……。
「お姉ちゃん、それなんですかー?」
「隠し味だよー」
「それも見たことないやつなのです。なんて名前なのですかー?」
「えっと、これは……。これは、バビューンの実だよ!」
「……ほへ?」
軽く火で煎ると、疾風の実はしゃもじで押すだけでサクサクに砕けた。
その甘香ばしい匂いのするサクサクをサーモンサンドの種に入れれば、今度こそ完成だった!
「おねえちゃんのピザパン、食べたらまほーを覚えたです」
「え……っ、あー、うん。そうだねー、不思議だねー?」
「これも、不思議な力あるですか……?」
「あはは、あったらいいねー!」
なんでごまかすの?
フィーちゃんが不思議そうにあたしを見ている。
あたしは食パンの耳を落として、サーモンサンドの種をふわふわのパンで挟んだ。
あたしとフィーちゃんの2人分を作った。
お皿に並べて、それを居間に運んだ。
「どんな力があるか、楽しみなのです」
「えっと……。そのこと、内緒にしてくれる……?」
「えへへー、おねえちゃんと、フィーの一緒の秘密ですね~♪」
フィーちゃんの天使の笑顔にあたしはしばらく見とれた。
天使だ、天使がいる……。
一緒にパンを捏ねて、新作パンの調理まで手伝ってくれる。
そんなフィーちゃんは天使だ……。
「さあ、食べましょう、いただきますですっ!」
「あ、ずるいっ、いっただきまーすっ!」
完成したサーモンサンドに食いついた。
その味わいは、今日1日の苦労に見合うだけの価値あった。
バターで炒めたスモークサーモンがマヨネーズとからむと、脂っこいサーモンがぐっと食べやすくなっていた!
「しゅごい……お姉ちゃん、パン屋さんの天才なのですよ……。こんなに美味しいサンドイッチ、初めてなのです!」
「おとと……っ、フィーちゃん、端っこから漏れてるよっ」
「わっわっ、もったいないのです……っ! じゅるる……っ!」
フィーちゃんは夢中になって食べてくれた。
少し辛みの残るシャキシャキのタマネギも、マヨネーズとサーモンと合わせると最高のスパイスだった。
「たのもーっっ!!」
「ピェッッ?!」
「話は聞かせてもらったぞいっ! ムギちゃんや、後はこのワシに任せぃっ!!」
「はわぁっ、出たのですよぉーっ?!」
ところがうちの厨房に村長さんが飛び込んできた。
豪快になった村長さんと、小心者のフィーちゃんは少し相性が悪かった。
「ホリンから聞いたぞい、ジャムパンの時みたいに、村東部の連中に新作を振る舞いたいんじゃろ? ならワシに任せいっっ!!」
「なんでっ、そこでモリモリのポーズを取るですかーっ!?」
「ワシが筋肉をっ! 見せたいからじゃぁーっっ!!」
「えっと……それじゃあ、すぐに作っちゃうので、お願いできますか……?」
「筋肉、怖いのです……」
まずは村長さんの分を作った。
村長さんはご老人なのでマヨネーズにためらうかと思ったけれど、案外あっさりと食いついてくれた。
「ムギちゃんや……」
「はい、なんですか?」
「絶品じゃ……。特にこのタマネギの辛みと、サーモンのはーもにぃが……っ、むぅんっ!!」
「フィーもそう思うです……っ。むぅ―んっ!」
「そしてこの高蛋白な味わい!! 筋肉がっ、筋肉が喜びの嬌声を上げておるぞぉぉーーっっ!!」
「はうわっ?!」
「フィーちゃんがビックリしちゃうから、そのくらいにしてあげて下さい」
ロランさんの分、ゲルタさんの分、ホリンの分。
直接渡したい人の分だけ残して、ありったけのサーモンサンドを村長さんに預けた。
これで村東部のみんなが少しだけ素早くなる。
それって逃げ足が早くなるってことだ。
凄くいい効果だと思う!
「ソフィアや、空が暗くなってきておる。ついでにワシが塔まで送っていこう」
「あ、本当。すっかり外も暗いね……」
気が付けばもう夕方だった。鈍色だった空がさらに濃い暗色に変わっていた。
「大きな声、出さないでくれますか……?」
「すまんすまん、代わりにワシの筋肉を――」
「それもいらないですぅぅーっ!!」
村長さんにうちの台車を貸した。
フィーちゃんは村長さんが牽く台車に後ろ向きに座った。
「今日は楽しかったです。お姉ちゃん、また遊んで下さいです」
「またねーっ、フィーちゃん!」
フィーちゃんは大きく手を振りながら運ばれていった。
もしよろしければ、画面下部より【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をいただけると嬉しいです。