・素早さのサーモンサンド - 静寂 -
時間が空いたのでフィーちゃんと水辺で肌を清めた。
天気が悪かったからちょっと肌寒かったけど、フィーちゃんとの水浴びは最高だった!
もう17歳なのに、8歳も歳が離れた子と子供みたいに泳いでしまった!
「おねえちゃん、綺麗なのです……」
「そういうフィーちゃん天使だよっ、天使!」
「天使はおねえちゃんなのですよっ! コムギおねーちゃんが一番綺麗なのです!」
「ありがとう、フィーちゃんっ!」
フィーちゃんとの水浴びはまるで天国のようだった!
清潔になったあたしたちは、楽しく爽やかな気分でお店に戻った!
「あ、ロランさん!」
「先ほどはどうも。とても楽しいひとときでした」
ロランさんがお店にきていた。
休憩中のあたしみたいに窓辺にイスを運んで、そこから薄暗い曇り空を見上げていた。
「こちらこそ! よかったらまたあそこに連れてって下さい!」
「ええ、喜んで。誘っていただけたらいつでもご案内しますよ。ソフィアさんもこんにちは」
「こんにちわなのです! あ……っ」
フィーちゃんが何かに気づいて、ロランさんに寄って行った。
「さて、お待たせいたしました。ゲルタが山桜のスモークチップを切らしていたようでして」
「わぁ、いい匂いがするです!」
フィーちゃんがロランさんの服の匂いを嗅いでいる。
あたしも近付いて同じようにしてみると、確かにロランさんから薫製独特のいい匂いがした。
「ここは私にではなく、スモークサーモンの方に注目していただけると……」
「あ、すみません、つい……」
ロランさんが笹の葉で包んだスモークサーモンを見せてくれた。
カウンターの上で、あたしが釣ったサーモンが切り身になっていた。
全体が美味しそうなピンク色に焼けていた。
スモークサーモンにはいくつもの切れ目が走っている。
ロランさんの手が身を分けると、身の内側は半生だった。
脂の乗った鮮やかなオレンジ色が凄く美味しそうだった。
「一口分に切ってきました。どうぞ、貴女が釣った魚です」
あたしとフィーちゃんは薄切りのスモークサーモンを貰った。
もちろんすぐに食べた!
サーモンらしいとろけるような脂の味わいだ。
薫製にするだけで、こんなに美味しくいい匂いになるなんて!
これは生と焼きのいいとこ取りをした、最高の贅沢だった!
「お口に合ったでしょうか? 何か感想を――」
「美味しいのですっっ!!」
「ビックリ……。これから加工しちゃうのが惜しいくらい、凄く美味しいです……」
「そうですか、それはよかったです」
ロランさん、なんだかホッとしたような顔だった。
いつも大人の落ち着きと自信を持っている人が、不安そうな顔をするなんてなんだか新鮮だ。
「半身はこちらでいただきましたので、宿にきて下さればお出ししますよ」
「そうですか! じゃあ、たまには夜の酒場に寄ってみようかな……」
「お待ちしてます。では、私はもう行きますね。風車でホリンが私を待っていますから」
「あ、待ってロランさん!」
ロランさんが背中を向けてしまった。
あたしは引き留めるように彼の服のすそを引いた。
やさしい微笑みと一緒に、ロランさんが振り返った。
「あの、あたしのわがままに付き合ってくれて、本当にありがとうございます……」
「いえいえ。サーモンサンドのお裾分け、楽しみにしていますよ」
「もちろんです! いっぱい、ロランさんに持って行きますね!」
ロランさんが店を出ていった。
ホリンのことが気になるのかな……。
鈍色の空を見上げながら、駆け足で風車の方に去っていった。
ホリンの風車、まだ止まったままだ。
こんなに風がない日は珍しい。
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