・海賊の楽園 - 岩礁を走るな! -
「義賊を気取ったことは一度もねぇ。俺は好きでこの商売をしてんだ」
「えっと……。そういうことにしておく、って言ってるよ……?」
「ちっ……未来を知っている未来の俺の友人か……。やりにきぃな……」
「攻略本さんを信じてくれるんですか……?」
「信じるぜ。そっちの方がずっと面白ぇしよ、それに……」
「それになんだよ、おっさん」
ホリンの憎まれ口を叩くような問いかけに、あたしは内心ホッとした。
おとなしくて素直なホリンなんて、そんなのホリンじゃないもん。
「海の上で生きていると、もっとぶったまげるようなことが山ほど起きる。……さ、次のお宝を探しに行こうぜ!」
「へぇ……。なぁ……おっさん、海賊って楽しいのか……?」
「まあまあだ」
2人とも信じてくれるなんて、あたしと攻略本さんからすればラッキーだった。
あたしはページをめくって、次の宝物の場所を確かめた。
最後の1つは浜辺にある。
そう伝えた。
「島の浜辺なら1つだけだ。さっきの入り江に戻ろうぜ」
道を少し引き返した。
だけどこのまま去るのも少し惜しい。
あたしは振り返って、白妙の射し込む地底湖をしばらく目に焼き付けた。
攻略本さんと出会ってあたしの人生は変わった。
村の外にこんな世界が広がっているなんて知らなかった。
これからも旅を続けてゆけば、もっともっと凄いものが目の前に現れるのだろう。
勇者――ううん、攻略本さんの人生は、凄く悲惨だったけれど、そこまで絶望的なものではなかったのかもしれない。
2人の後を追いかけて、ホリンと並んでユリアンさんの背中を追った。
何か話していたのかな。
ホリンが横目であたしをのぞき見ていた。
「あの、何か話してたんですか?」
「な、何も――」
「男同士の猥談だ、知らねぇ方がいいぜ」
「そっちが勝手に始めた話だろっっ?!」
「あのー……わいだん、ってなんですか……?」
「お前は知らなくていいっ!!」
えっと……なんとなくどんな話か察した。
ホリンがあたしに聞かせたくない話となると、たぶん……エッチな話……?
「純粋過ぎる彼女を持つと大変だなぁ、ヒハハハッ!」
「あ、あたしだってちょっとはわかるよっ!」
そう言っても、ホリンもユリアンさんもちっとも信じてくれなかった。
「さあ入り江に着いたぜ、最後のお宝を見せてくれ。……なぁに、横取りなんてしねぇから安心しろよ」
「このおっさん、本当に勇者の親友なのか? 性格ねじくれ曲がってるぜ……」
攻略本の地図と、浜辺の形を見比べた。
あの奥の岩場の先かもしれない。
「おっと、そこは滑るから気を付けな。海の岩は鋭利だ、転んだら血塗れだぜ」
「お前鈍臭いんだから気を付けろよ、いてっ?!」
「その一言余計なところを直しな。そうすりゃ……」
ユリアンさんが悪い顔をしてホリンに耳打ちした。
そしたらなんかホリンが真っ赤になってあたしを見た!
「んなっ、んなこと俺がするわけねーだろっっ!!」
「あの時あの子にもっとやさしくしておけばよかった。後からそう思うのが人間だぜ」
ユリアンさん、すっかりホリンが気に入ったみたい。
ホリンの肩にのし掛かるように腕を回して、すっごくウザがられてた!
2人がはしゃいでいる間に、あたしはチクチクする岩場を乗り越えてその先の砂浜に下りた。
赤い宝箱がそこにあった。
開くと中に小さな木の実が1つ入っていた。
『E.疾風の実』は親指くらいの直径だった。
出っ張りが小鳥のくちばしに似ていて、ちょうど目にあたる部分が少しへこんでいた。
「本物の疾風の実じゃねぇか……。ソイツ、都会のオークションに流せば5万Gは手堅いぜ……」
「へっ、おっさんには売らないぜ。これは村のみんなを強くするために使うんだ!」
疾風の実を袋にしまった。
あたしは岩場の上で待っていたホリンの手を借りて、向こう側に戻った。
あたしの身体をホリンは軽々と引っ張り上げてくれた。
「これでいいのかよ……?」
「おう、上出来だ」
「2人とも何話してるの?」
「な、なんでもねぇよ……っ」
「見るに見かねてちょいとな。おう、それよりホリン、さっきの靴履いて見せろよ」
「あ、あたしも見たい! 疾風の靴!」
言われてホリンが靴を履き替えた。
ホリンの足の大きさに合うかわからなかった。
けどちょうどピッタリだったみたい。
「浜辺の向こうまで競争しようぜ」
「余裕こいてんなよ、おっさん」
「じゃあ、あたしがスタートの合図するね。いくよーっ、よーい……ドォォンッ!」
軽い気持ちだった。
けれどあたしが声を上げると、ホリンの足が砂塵を巻き上げて飛んでいった。
「い、痛っっ?!」
「な、なんだぁぁーっっ?!」
ホリンの後ろ足は、あたしたちに砂粒を力いっぱい叩き付けた!
ユリアンさんも追うのを止めて、あたしを舞い上がった砂塵の前から遠ざけた。
「あだっっ?!」
砂の向こうからホリンの悲鳴が聞こえた。
ほんの少しして砂塵が晴れると、遙か向こうの岩場の前で、ホリンが砂浜にひっくり返ってた。
「ホリンッ、大丈夫っ!?」
「いててて……。な、なんだよ、今の……っ!?」
「凄まじい靴だな。50万……いや、100万G以上の価値があるぜ、そいつ」
「やらねーぞ」
「そこまで堕ちちゃいねぇよ」
でもこの靴、上手く使いこなせばホリンを最強の戦士にしてくれる思う。
もちろん売るなんてあり得ない。
「よっと……とっ、とっ、とっ、とぉぉっっ?!!」
「履き替えた方がいいんじゃねぇか?」
ホリンが軽く跳ねてこっちに戻ってきた。
かと思ったらあたしたちを素通りして、奥の岩礁にぶつかりそうになっていた。
「し、死ぬかと思った……」
「あたし、それいらない……。約束通り、ホリンにあげるね……っ!」
「俺も履けって言われても断りてぇとこだな。ちょっとのミスで大怪我は割に合わん」
「へ、へへへ……なら俺が貰った! 言ってももう返さねぇからなっ!」
「ホリン、勇気あるね……」
「……お、やっと宴の準備ができたみてぇだぜ」
若いコックさんが浜辺に飛んできた。
憧れの眼差しでユリアンさんを見上げる彼の姿は、ちょっとホリンに似ていた。
ホリンも共感を覚えたのか彼に目を向けていた。
靴を履き替えるのを忘れて、また岩壁にぶつかりかけてたけど……。
ともあれ、これでモクレンでの冒険は終わりだ。
攻略本さんの親友であるユリアンさんとも出会えた。
悪い人には騙されちゃったけど、結果はいい感じだった!
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