・海のゆりかご - 赤い海賊旗 -
「ビビんなよ、コムギ。今の俺たちなら勝てる!」
「そ、そうかな……?」
『危険な橋だがやるしかあるまい。ホリンを信じろ、彼を抜ける者はこの場にいない』
船長って言うのかな、1番怖い人が海賊のサーベルを抜いた。
「野郎どもっ、ペッティちゃんの仇だ!! ぶち殺せ!!」
「殺してませんってばーっっ!」
海賊たちが奇声を上げて突撃してきた。
ホリンは前に出てそれを迎撃した。
「落ちろ、稲妻!!」
あ、ホリンったらずるい。
突っ込んできたところにホリンは雷を落とした。
「卑怯だぞテメェ!! 俺のペッティちゃんを陵辱した上に甲板を……っ、お、お前ら何やってんだっ、早く火を消せーっ!!」
「コムギ、そこのマストにフレイムを撃ってやれよ?」
「え、そんなことしたら、火事になるよ……?」
「火事にしてやるんだよ、そしたらそっちに手一杯になるだろ」
「えっと……。じゃあ……フレイムッ!!」
なんかこっちが悪いことしているような気がしてきた。
あたしは一番太いマストに向けて、しばらく燃え続けるコスパ最高の魔法フレイムを撃った。
「お、おおおおっ、俺の船がああああーっっ?!!」
ホリンの言った通りになった。
海賊さんたちはマストに飛んでいって、フレイムを消そうとバケツリレーを始めた。
「ぶっ殺してやる!!」
「だ、だって、ホリンがやれって言うから……っ」
「かかってこいよ、おっさん!」
「海賊を舐めるな、クソガキ!!」
ホリンと船長の戦いが始まった。
船長はホリンの雷神の剣を紙一重でかわして、反撃の突きを撃ってきた。
海賊のリーダーだけあって、船長は強かった!
剣と剣が打ち鳴らされ、空を斬り、ホリンが大怪我をしないか見ていておっかなかった。
「ロランさんほどじゃないな」
「なんだぁ?」
「ロランさんと比べたら、お前なんて犬のうんこだ!」
「誰だよ、そのロランってクソ野郎はよぉっ! 俺は最強だぁぁっっ!!」
意図していたかは怪しいけど、ホリンは凄く上手くやった。
挑発に我を忘れた船長はホリンに飛び込んでいって、怒り任せにサーベルで斬り付けた。
それをホリンは滑り込むように身を落とし、盾で受け流した!
「痺れろっ!!」
「ギャーーッッッ?!!」
ホリンが人を斬るんじゃないかと怖かった。
でも雷神の剣の力を使って、船長を痺れさせて勝負を付けた。
「船長が……船長がやられた……」
「あのガキ、田舎者臭いけどやたら強いぞ!?」
「か、囲め! 囲んでみんなで叩きのめせ!」
ホリンは突撃しなかった。
あたしの前に引き返して背中で守ってくれた。
海賊たち全員が密集して、ホリンとあたしの前に立ちはだかっていた。
『コムギ、ここはフレイムで敵の注意を背後に――』
だけど彼らがあたしたちと激突することはなかった。
爆音が響いた。
海の向こうから物凄い爆音が響いたかと思ったら、船が激しく揺れていた!
「わ、わぁぁっっ?!」
凄い揺れだった。
ホリンはあたしを守ろうと背中に手を回して、壁に手を突いて激しい揺れを堪えた。
揺れと爆音は1回だけじゃなくて、さらに第二波が飛んできた!
何かが空を斬る音がした。
何かが奥の甲板に落ちて、それが爆発した!
「か、海賊だぁぁーっっ!!」
「海賊はお前らだろ……」
「違うっ、俺たちは交易の片手間に奴隷売買をしているだけの、ただの武装商船隊だ!」
「それを海賊って言うんじゃねーの……?」
海の方角を見ると、赤いヘラジカの紋章を掲げる船があった。
艦首の下に大きな筒上の物がついていて、そこから黒い煤が上がっていた。
「あ、あの紋章は……っ!? ま、まさか……」
「に、逃げろっ、捕まったら生きたままサメのいる海に突き落とされるぞ……っ?!」
「やつらを相手にするなんてお断りだっ、て、撤退っ、撤退だテメェらっ!!」
本物の海賊船がこっちにくる。
自称武装商船の人たちは逃げまどい、船を捨てて海に飛び降りていった。
あたしたちを逃がさないために、彼らは陸と繋いでいた板を自分たちで外していたから……。
「俺たちも逃げるぞ、コムギ」
ホリンは焦ってあたしの手を取った。
なんかちょっと勇ましく見えた。
でもあたしはホリンに首を横に振ってみせた。
「そんなことする必要ないよ、ホリン」
「あるに決まってるだろっ!?」
あたしは海賊船の方を向いて、自由な方の左手を大きく振った。
金糸を使ったヘラジカの紋章がカッコイイ。
「見てよホリンッ、あの赤毛っ、ユリアンさんだよ!」
「な……なんだってぇーーっっ?!」
船の先には黄金の女神像が飾られていた。
そしてその女神像の隣に寄り添うように、海賊ユリアンが船の先に立っていた。
揺れる船の上だというのに、ちっともふらついたりしていなかった。
「マ……マジで、マジであのおっさんだ……。か、かっけぇ……」
「あはは、確かにカッコイイ!」
ホリンがロランさん以外の人に憧れるなんてちょっと驚きだ。
でも実際、本物の海賊たちを従えたユリアンさんは凄く格好良かった!
少しすると船と船を並ばせて、颯爽とこっちに飛び移ってきた。
あの陸と船を繋ぐ板なんて、ユリアンさんには必要なかった。
「ようガキども。俺に用事があるんだってな?」
「えっ……? なんで、そのこと知ってるんですか……?」
「年頃の若い男女がよ、うちの根城を見学したいと騒いでたそうじゃねぇか。しかも片方は世にも愛らしいエルフ族とくる。そんなにかわいい子は他にいねぇなぁ、ホリンよぅ?」
「な、なんで俺に振るんすかっ?!」
「彼氏だろ?」
「ち、ちげーってのっ!」
わかってて言ってるみたい。
ユリアンさんは動揺するホリンを見て、大声を上げて豪快に笑った。
「そういうわけでお2人さんよ。俺と一緒にくる度胸がもしあるなら、海賊の根城見学にご招待するぜ」
「本当ですかっ、じゃあ行きますっ!」
即答すると、今度はあたしの方が大声で笑われた。
「おい彼氏よ、彼女の方が度胸あんじゃねぇか……!?」
「そんなこと、アンタに言われるまでもないよ……。コムギは、度胸がありすぎるところが問題なんだよ……」
船と船を繋ぐ板が海賊船からこっちにかけられた。
あっちの船の方がずっと大きくて、見上げるほどの高さからユリアンさんたちの部下があたしたちに笑っていた。
「お前ら気に入ったぜ! 男は度胸! 女も度胸があるに越したこたぁねぇ!」
「あたし、そんな肝っ玉キャラじゃないんですけど……」
『いや、君はいつだってやさしく勇敢だ』
そんな、攻略本さんまで……。
「引き上げだテメェらっ、彼氏彼女を俺たちの楽園にご招待してやんなっ!」
「へいっ、船長!!」
「お客さんなんて、あの大物貴族を人質に取ったとき以来のことですね!」
あたしたちは海賊船に乗った。
船に乗ってみると、みんな明るくて、声が大きくて、なんだか気の合う人たちだった!
世の中には凄く悪い人たちがいる。
それはしょうがないし、今回のことがあったから認めるしかない……。
でもこの船のみんなみたいに、凄く悪そうに見えて、凄く良い人たちもいる!
あたしはユリアンさんに、何度も何度もお礼をした!
彼の船は銅張りの装甲と沢山の大砲、4本のマストを持つ立派な大型船だった。
陸地を遠く離れ、とある小島の入り江までやってくると、船はその先の洞窟の中へと入っていった。
そこが海賊の根城、ポート・ヘイブンだった。




