・海のゆりかご - 海賊船で海賊戦 -
「声おっきいよ、ホリン。待っててね、すぐ出してあげるから」
「お前、閉じ込められてたんだよな……? どうやって外に出たんだ……?」
「ずばり、パンの力で!」
「……はぁっ?」
ホリンは冗談だと思ったみたい。
でもあたしがビスケット・ナイフを取り出して、それで鉄格子を斬り始めると、口があんぐり開けっ放しになった。
あっちは青銅だったけど、こっちはなんか鉄っぽい手応えと匂いだった。
でもその鉄はキコキコと、パンで作られたナイフに削り取られていっている。
「お前のパン……もうなんでもありだな……」
「しかもいざとなったらこれ、食べられるんだって」
「お、おおっ、鉄格子が、パンで切れた……」
「へへーっ、どうだーっ、参ったか!」
「おう、参ったわ……。心の底からお前には降参だ……」
ホリンのやつ、両手両膝を地面に突いていた。
降参のポーズかと思ったけど、安心して力が抜けたようにも見えた。
「なぁ、コムギ」
「なーにー?」
「フレイムで鉄をあぶってから切ればいいんじゃないか?」
「あんまり熱くするとビスケットが焦げちゃうよ」
『確かにあの青銅の格子も、フレイムで焼けば融かし壊せたかもな』
そんなこと後から言われても困るんですけど!?
鉄格子を1本抜き取ると、後は自分でやると言うのでホリンにビスケット・ナイフを渡した。
「えっと、次はどうしよう……」
「盗られた装備と荷物ならあそこだ。全部持って強行突破だ!」
「え……。でも、あの海賊さん……いい人……じゃないかもしれないけど、そんなに悪い人じゃないよっ」
「普通の人は、俺たちをこんなところに閉じ込めたりしないっての」
ホリンが指さしたところに、あたしたちの荷物が集められていた。
竜の鱗も無事だった。あたしはそれを首に戻して、しょうがないし棍棒を握った。
「よっし、階段見張っててくれっ」
「キャッ、ちょぉっ、いきなり脱ぐなぁっ?!」
ホリンのやつ、なんかシマシマのボロ着を着せられていた。
それをあたしの前で脱ぎ捨てた!
見せろって言ってもいないのに、男の子の上半身をさらした!
「なんだよ、女みたいな声上げるなよ」
「あたしは女だってばっ! わっ、うっわぁぁーっっ?!!」
ホリンが下まで脱ごうとしたからあたしは階段に逃げた。
すると大変、さっきの海賊さんが下りてきた!
「おいクソガキ、あんまり調子乗ってるとブッ殺すぞ。あんまうるさくすると、兄貴が味見する前に、俺が――」
「えいっっ!!」
「フゴォッッ?!!」
なんかホリンに変なことするつもりみたいだし!
あたしは階段の陰から、やっぱり悪い人だと思って海賊さんに棍棒を叩き付けた。
「ナイススィングッ、コムギッ」
「ああああ……やっちゃった……ぁぁ……」
「悪者をやっつけたんだから堂々としろよ!」
『ホリンに賛同しよう。人は立場により善人にも悪人にもなる。善人の資質はあったのかもしれないが、彼は立派な悪人だ』
ホリンが鉄の鎧と雷神の剣、鱗の盾を身に付けてあたしにバッグを渡した。
ずっしりと重かった。
「悪い、荷物持ち頼む」
「うん、わかった。あたしも何1つ渡したくない!」
女の子を荷物持ちにするのどうかと思うけど、今はそれどころじゃない。
あたしだって盗られた物は全部持って帰りたかった。
「そだ、この船の番、今この人だけだって」
「なら急いでここを出ようぜ! 俺についてこい、コムギ!」
「助けてもらっておいて威勢がいいんだからっ!」
「だったら汚名返上させてくれ!」
ホリンと一緒に船の階段を駆け上がった。
大きな船で、甲板まで階段を3つも上ることになった。
「おい、さっきアイツ1人だって言ってなかったか……?」
「わー……タイミング悪いね、あたしたち……」
甲板に飛び出したら、ちょうど仲間の海賊さんたちが戻ってきたところだった。
分厚い剣が次々と海賊さんたちの腰から抜かれて、ホリンがあたしを背中の後ろにかばった。
「脱走か。おいガキども、俺のかわいいペッティちゃんは無事か?」
「え、誰?」
「おめぇの面倒を見させておいたウスノロだよ、エルフちゃんよぉっ!」
変な名前……。
って言ったらますます怒らせるかな。
「アイツならコムギに棍棒で顔面ぶん殴られてたぜ!」
「ちょ、バラさないでよぉーっ?!」
「俺のペッティちゃんにっ、なんってことしやがんだこのクソアマァッッ!!」
敵の数は……ざっと20人くらい。
ちょっとヤバい。
いくらホリンが村1番に強い若者でも、この数はヤバい……。
「そうだホリンッ、テレポートで逃げようよ!」
「悪い……。もう今日の分は使っちまったんだ」
「え、いつ!?」
「船の中で……。頭、ぶつけた……」
テレポートの弱点は天井。
そんなのこんなところで知りたくなかった。
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