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・隠しアイテムを求めて港町モクレンを歩こう - 黒胡椒! -

 西モクレンの住宅街に渡ると、あたしたちは町の花壇に向かった。

 その中に赤い宝箱を見つけて、その中から『C.黒胡椒』をゲットした。


『遙か海の向こうの王がそれを欲しがっていた。王に譲ると、引き替えに船をくれた』


 攻略本さんは懐かしそうだった。

 でもあたしには縁のなさそうな話だし、これはピザパンに使っちゃおっと。


『それでも構わないだろう。黒胡椒と船の価値が釣り合うはずもない。彼は胡椒を名目に、我々を支援してくれたのだ』


 つまりツンデレの王様がいたってことかな。


 勇者の復讐の旅。

 辛い思い出ばかりなんだと思っていたら、いい思い出もあるみたいでちょっと安心した。


「コムギ、俺の後ろを離れるんじゃねーぞ」

「うん、わかった。なんか、なんとなく貧しそうになってきたね……」


「大声で言うんじゃねーよ、そういうこと……っ」

「あ、ごめん」


 奥に進んで行くと、平和な住宅街が段々おかしくなっていった。

 建物が少しずつボロボロになっていって、ゴミとかが道に散らばるようになった。


 昼間から働きもせずにブラブラしている感じの人たちも多くなって、なんだか怖い雰囲気かもしれない。


「あそこの井戸みたい」

「井戸……? 井戸の中に入るのか?」


「わかんないけど、とにかくやってみるしかないよ!」


 住宅街の外れに、誰も使っているように見えない古井戸があった。

 滑車はまだ生きていて、ロープも切れていない。


「この井戸、枯れてるぞ……?」


 ホリンが井戸を使って見せてくれた。

 水音がしない。滑車を回して桶を上げても中には砂が入っているだけだった。


「ここで間違いないのか? 他の井戸じゃないのか?」

「ここのはずだけど……。あ、中に入らないとダメだとか……?」


「勘弁しろ……」

「へへへ、下りたら戻れなくなったりして」


 ホリンが諦めてロープから手を離した。

 よく考えたら、ホリンがやっても意味がないのかもしれない。


 あたしは井戸のロープに手をかけた。


「お、重……っっ!?」

「さっきまで軽かったぞ? ほら……ありゃ、凄ぇ重いな……?」


「引っ張り上げてみようよ、ホリン!」

「おうっ、なんだろうな、この手応え!」


 重いロープを引いて、井戸の底から何かを引き上げた。

 そんな気はしていたけど、それは赤い宝箱だった。


 桶に入るくらい小さなそれを取り出すと、ホリンがひっくり返った。

 ホリンには見えないから、突然手応えが軽くなったせいだった。


「ごめん、宝箱が入ってたって言っとけばよかった」

「いいさ、それより中身は……っ!?」


「中身はわかってるよ。お金」


 箱を開けるとホリンにも見えたみたい。

 分厚い100G金貨が10枚、箱の中に束ねられていた。

 あたしたちは『G.1000G』を手に入れた。


「は、早く隠せよ、それ……っ!」

「じゃあホリンがバッグ持って。これ凄く重いよ」


 バッグに金貨の束を詰めてホリンに渡した。

 底が抜けないかちょっと心配だ。


「冷や冷やしたぜ……。ここの連中に見られたら、何をされるかわかんねーし……」

「なんでモクレン町の人たち、ここの建物を直してあげないんだろ?」


「うちの村が特殊なだけで、外の世界では自分の金で直すのが普通なんだよ……」


 残る隠しアイテムは『B.疾風の靴』『D.守りの種』『E.迅速の実』の3つだ。


 ホリンと細かいことを言い合うのも疲れたし、あたしは次のお宝目指して前を歩いた。


 ホリンが前を行かせてくれたのは、町の雰囲気がまた変わってきたからだと思う。


 暗い雰囲気の住宅街から、なんだか馴染みがいのある農村地帯に景色が変わっていった。


 休耕地の真ん中に宝箱があった。

 そこには『D.鉄壁の種』が入っていた。


「これでまた鉄壁のメロンパンが作れるね」

「やったぜ! けど、爺ちゃんにはもう食わせるなよ……」


「なんで?」

「これ以上あのジジィを強くしてどうすんだよ……っ」


「それはホリンの都合でしょ」

「家族として、あれ以上元気になられたら困るんだって……っ!」


 でも村が滅びるよりずっといい。

 そう口にすると雰囲気が暗くなるから、言わない方がいい。


「残りはあと2つだっけか。問題なく全部今日中に集められそうだな……」

「そうだね、終わったら町で遊ぼうよ」


「当然だろ。で、残りはどこにあるんだ?」

「うん、えっとね……。あ、海賊の根城だって」


 なんかホリンの顔が凍り付いた。

 なんか凄く葛藤とかしてるみたいで、口をパクパクさせたり、しきりに頭を横に振っていた。


「メダカごっこ?」

「コムギ……残りのアイテムは、諦めようぜ……」


「え、なんで?」

「なんでもクソもねーよっ!? 海賊の根城に、どうやって入るってんだよっ!?」


「さっきのユリアンさんに頼むとか」


 当然、ホリンはギョッとした。

 でも納得もしたみたいだった。


「アイツが、海賊……?」

「うん、あの人は海賊ユリアン。あの人に海賊の根城の見学、お願いできないかな……?」


「いや、仮にアイツが海賊だとして……」

「うん?」


「どこのバカ海賊が自分の根城の見学を許可するってんだよっっ?!」

「ダメかなぁ……? ユリアンさんなら『いいぜ、お嬢ちゃん!』って言ってくれそうだけど」


 それに勇者の仲間だし。

 攻略本さんも信頼しているみたいだし。

 あの人、荒っぽいだけで絶対いい人だ。


「頼む、コムギ……引き返そう……」

「ええ~、でもユリアンさんって、悪い人じゃないんだよ……?」


「だったらなんで俺たちの旅に乱入したんだよっ!?」

「街道を2人で行くあたしたちを、心配してくれたのかも」


 そう伝えると、ホリンは反論しかけて止めた。

 ホリンなりに考えて、それはあり得るとうなずいていた。


「だけど素性がわかんねーだろ……」

「それがね、攻略本に載ってたの。あの人、元貴族なんだって」


「貴族が、なんで海賊やってんだよ……?」

「さあ……?」


 ホリンは迷った。

 迷った上で、あたしの手首を乱暴に握った。


「俺は反対だ。宿に帰るぞ、コムギ」

「まあ、しょうがないっか……。どこに行けばユリアンさんにまた会えるかもわかんないし」


「俺はお前を守らなきゃいけないんだ、リスクは取りたくない。諦めよう」


 どっちにしろここに残ってもしょうがない。

 あたしはホリンの手から逃れて、肩を並べて道を引き返した。


 ホリンはあたしを守りたいと言う。


 だけど、疾風の実と疾風の靴、この2つは今回の旅の本命だ。

 たとえ海賊の根城にあるとしても、どうにかして手に入れたい。


 だって、アッシュヒルの未来には破滅が待っているんだから。

 少しでも多くの人たちを救うには、危険を承知で進まなければいけないこともあると思う。


 でも、どうやって海賊の根城に入ろう……。

 ユリアンさんと連絡さえ付けばなぁ……。


 そうすれば何も悩むことなんてないのに。


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