・隠しアイテムを求めて港町モクレンを歩こう - 海、船、山羊! -
「やるよ」
「えっ、いらないのっ!?」
「それはこっちのセリフだ。いらないのかよ?」
「いるっ! これかわいいっ、貰っていいのっ!?」
物欲しそうにし過ぎたせいかな。
ホリンが竜の鱗を譲ってくれた。
ホリンだってあんなに欲しそうだったのに、あっさり諦めるんだから意外だった。
「けど疾風の靴は俺にくれよっ。強くなるパンもちゃんと俺に回せよな!」
「うんっ、わかった! ありがとうホリンッ、あたし大事にするっ!」
あたしは竜の鱗を首からつるして、ホリンと一緒に海へと歩いた。
海はもうすぐそこだった。
魚の匂いとばかり思っていたこの匂いは、海から香る独特の匂いだった。
海はアッシュヒルの湖と違って、凄く変な匂いをしていた。
・
港に着くと、ホリンと一緒に大きな大きな大きな海を眺めた。
海は揺れていて、水が行ったり来たりしていた。
小さな水しぶきが脚にかかったので、触ってみるとなんだかベタベタした。
「でけぇな……」
「おっきいね……。それに船って、こんなに大きかったんだね……」
水夫さんたちが港をひっきりなしに行き交っていた。
港の一角には大きな倉庫があって、そこに荷物を入れたり、船に載せたりしていた。
それと船。船は見上げるほどに大きかった。
大きな船のために高い土台が作られて、船と陸地を木製の板が繋いでいた。
アッシュヒルに引きこもっていたら、こんな凄い光景を見ることはなかった。
攻略本さんと出会わなかったら、何も知らないままあたしは無惨に死んでいた。
胸の中で攻略本さんに感謝した。
「なあ、あっち側にも町があるんだな……?」
「あ、うん。あっち側もモクレンだって」
攻略本の地図によると、モクレンは町の中央を河川で隔てられている。
あっち側の海は断崖で、港らしい物はどこにもない。
『あちらは西モクレン、とても治安の悪い町だ。あそこにはあまり近付かない方がいいと思うが……。そうもいかないか』
その言葉をそのままホリンにも伝えた。
ホリン、またあたしのことを心配している。
でもあっちに行かないって選択肢は、ホリンにもないみたいだった。
『河川沿いの道を進むといい。その先に西モクレンに通じる大橋がある。それを渡ればあちら側だ』
これもそのままホリンに伝えた。
「本当にその透明の本が喋ってるのか?」
「そうだよ」
「考えてみたら治安とか、お前が気にする部分じゃないしな……。なら、本当にそうなのか?」
『認識できないならば存在しないのと同じだ。私のことを気にすることはない』
難しい言葉だけど、がんばってホリンに代弁した。
「ぜってー、お前の頭から出てくる言葉じゃないな」
「その通りだけど酷くないその言い方っ!?」
「悪い。けどお前はパン馬鹿だからなー」
「ホリンだって剣馬鹿じゃない。ホリンはいつも一言余計だよ……」
川沿いの道はあんまり使っている人がいなかった。
観光客っていうのかな。
あたしたちみたいにブラブラと町を楽しんでいる人が、ちらほらと見かけるくらいだった。
なんで人が少ないのかなと思ったら、坂道の傾斜の深さだ。
この上り坂は乗り物や台車ではきつそうだった。
「へへへ、都会のやつらは体力ないな」
「あっちはあたしたちのこと、山羊か何かと思ってるんじゃない?」
アッシュヒル生まれのあたしたちには、坂なんて何でもなかったけれど。
町の人驚きの健脚で坂を登っていった。
やがて川の先に大きな橋が現れた。
それが見えるとあたしたちはまた走って、なんだかちょっと揺れるような気もする木の橋を渡った。
見ると町の中央の方にもう1つ橋がかかっていて、そっちは大きな石橋だった。
……あっちが攻略本さんが言っていた大橋だったのかも。
「おっと……気を付けろ、コムギ。この橋、手すりが腐ってるぞ……」
「あはは、底も抜けたりしてね!」
「怖いこと言うなってのっ?!」
「大丈夫だよ。本当に腐ってたら、あたしたちが通る前に他の誰かが川に落っこちてるよ」
西モクレンがだんだん見えてきた。
攻略本さんは治安が悪いって言ってたけど、そんなふうには見えない普通の住宅地だ。
建物の密度が東より低くて、あっちより暮らしやすそうにすら見えた。
「ホリン、前代わろっか?」
「怪我させたらロランさんに顔向けできねーっての。爺ちゃんにもぶっ殺される……」
「そうだったね。アッシュヒルのみんなってやさしいよね」
「お前がみんなに親切だからだろ」
ホリンの気持ちゆっくりとした足取りの後を、あたしは感謝しながら景色を楽しみながら歩いた。
海の方を見ると、川と海が合流するところがある。
そこだけ川の流れが逆向きになっていたりして、世界の不思議さを感じさせられた。