・隠しアイテムを求めて港町モクレンを歩こう - 海賊ユリアン -
「海賊……?」
『ああ、彼は海賊だ』
「海賊……海賊って、何?」
『船を襲う山賊だ。だが彼の場合は――』
「海賊ユリアン! それって、どこかで見たような……あっ!?」
ここじゃなくて奥のページだったと思う。
パラパラと色鮮やかなその本のページを飛ばして、それからキャラクター紹介って部分で手を止めた。
「あったっ、海賊ユリアン! この人だ!」
そこにユリアンさんの絵が載っていた。
初期案っていう、ユリアンさんにそっくりの別人も描かれていた。
『そうだ、彼は我々の仲間だった。私は彼と共に、魔王を倒した』
「それって、超凄い人ってことじゃないっ!」
ユリアンさんのキャラクター紹介には、箇条書きでこんなことが載っていた。
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海賊ユリアン
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年齢:36
職業:海賊(元貴族)
レベル:35
詳細:
オーソドックスな戦士タイプ。
加入は遅いが全キャラクターの中で最も会心率が高く、パーティの主力に加える価値は十分。
魔法は使えないが、短銃による追撃も優秀。
初期装備:
・船長の剣
・ロングコート
・短銃
初期ステータス:
力 147
身の守 95
体力 130
素早さ 143
賢さ 79
魅力 137
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体力130。ホリンが負けるのも当然だった。
ユリアンさんが本気を出していたら、あたしだって追い抜かれて先を行かれていた。
ユリアンさんはあの時、あたしたちにペースを合わせてくれていた。
『彼は頼れる男だった。能力も人柄も一流だった。口はあの通り悪かったがな』
攻略本さんの声は少し悲しそうだった。
なんでかなって想像したら、攻略本さんはあたしにしか見えない、聞こえないって事実を思い出した。
攻略本さんはもう、友達にも会えない。
「会えてよかったね」
「ああ、元気そうでよかった。というのは妙な言い方か……」
あたしはページを戻して、またモクレンの地図を眺めた。
攻略本さんはそれっきり何も言わなかった。
「おいコムギ、きたぞー」
「あ、開いてるから入ってー!」
「いや閉めろよっっ?!」
せっかく鍵を開けておいたのに、ホリンが怒り顔で部屋に飛び込んできた。
「いいか、コムギ……。ここは、アッシュヒルじゃ、ないんだ……。わかるか……?」
「うん、わかってるよ?」
「全然わかってねぇっ! 鷹の目のあのおっさんだって、治安が悪いって言ってただろっ、頼むから鍵だけはちゃん閉めろっ!!」
……なんで?
って言ったら怒るから止めておこう。
「行く? お宝探し」
「おう、付き合ってやるよ!」
ホリンは他にも何か言いたそうだった。
でもなかなか言い出さないから、バッグを攻略本さんだけにして宿を出た。
棍棒? 重いし邪魔。
真っ先に見たい港は南だけど、まずは町の北側に進んだ。
北側はあまり人が多くないみたいだった。
「ところでコムギ、次の隠しアイテムはなんなんだ?」
「あっ、見つけたよ! あそこの木の陰みたい!」
15分くらいブラブラしたら、目当ての物を裏通りで発見した。
ホリンと一緒に駆けて、いつもよりずっと小さな宝箱を開けた。
「……おい、そんだけか?」
「うん。これでモクレンの北側は終わり。港の方に行こ!」
『A.3G』をお財布に入れて、あたしはくるっと反転して歩き出した。
さっきの宿屋さんが1人2Gだから、だいぶ得しちゃった!
「それ、後回しでもよかったんじゃないか……?」
「ダメだよ。全部綺麗に拾わないとなんかスッキリしないもん」
「そういうもんか?」
「そういうものだよ」
「わかるような、わかんないような……。その本が見えてるお前からすると、そうなのかもな」
大通りに戻って海に向かって歩いた。
それが一番大きな道で、通りには荷物を持った人や荷運び用の家畜が行き交っていた。
やっぱり不思議な光景だ。
陸地の端っこにあれだけの荷物を集めて、物で詰まったりしないんだろうか。
「なんかこの町、魚臭ぇな……」
「魚の干物の匂いがするね」
でも魚の匂いだけじゃない。
嗅いだことのない不思議な匂いが、歩けば歩くほど強くなっていった。
お店には見たことのない食べ物がいっぱいだ。
それに魚も大きくて、赤くて目が金色の魚までお店に並んでいた。
「おい、前を見ろ……。もうしょうがねぇな……」
「あ、ごめん……。あ……」
ホリンが前を歩いて、あたしの手を引いてくれた。
子供扱いされてる感じだけど、実際よそ見ばかりしているし、今はありがたくホリンを頼った。
「ねぇ見て、あの店、色んな色の粉を売ってる!」
「おや。これは香辛料だよ、お嬢ちゃん」
「へーー!」
「後にしろ、後に。荷物がいっぱいになるだろ。それより次の隠しアイテムは?」
「その先。右に曲がったところのお花畑」
「花畑……?」
攻略本の地図だとお花畑に見えた。
早く見てみたくなってホリンの手から逃れると、あたしは往来の中を走った。
でもそこに花畑はなくて、あったのはお花の咲く広場だった。
休憩している人や、食べ物を売る露店が立っていた。
「もしかしてこれが『公園』ってやつか……?」
「でもうちの村のお花畑の方がおっきいよ?」
「必要もないのに張り合うなっての。それに、町の中にこれだけの花と木があるんだからすげーんだろ」
「確かに不思議な感じかも」
モクレンには木や土が少ない。
道はレンガで舗装されちゃってるし、木もあまり見かけなかった。
モクレンの人たちはなんでここにだけ、自然を集めているんだろう。
もっと増やせばいいのに。
「ホリン、あの草見える?」
「いや、どの草だよ……」
「光ってる草」
「んなのあるわけねーだろっ?!」
つまりホリンに見えないってことは、これが[H.セクシー草]だ。
あたしは桃色のスズランみたいに綺麗な花を、引っこ抜くのも可哀想な気がして根っ子まで掘り返した。
「何もないところから花が現れた……。ホント不思議だな、その力……」
「凄いのはあたしじゃないよ、攻略本さんだよ。鉢植えを買って帰ろ」
「戻るのか? ま、干からびたら困るしな……。一度そうすっか」
鉢植えがなかったから小鍋を買った。
そこに道ばたの土を入れて、セクシー草さんを植え替えた。
宿に戻って、陽当たりのいい窓辺に小鍋を置くと、あたしたちはまた港の方に出発した。
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