・隠しアイテムを求めて港町モクレンを歩こう - アシカ亭 -
攻略本によると、アシカ亭の地下にはカジノっていうのがあるらしい。
そこでは色々なゲームができるって説明書きがされていて、ウサギの格好をしたお姉さんもいるってあった。
せっかくきたんだし。
せめて面白い格好をしたお姉さんだけでも一目見てみたかった。
「遠路遙々お越し下さりとても嬉しく思います。ですが――見ての通りの有様でしてな」
「あはは……。残念……」
でもアシカ亭はまだなかった。
この攻略本に載っている情報は、アッシュヒルが滅びたその後の世界のことだってことを、あたしは忘れていた。
あたしたちの世界では、まだアシカ亭の地下と1階の半分くらいしか出来上がっていなかった。
「こちらをどうぞ、お嬢さん」
「……わっ、綺麗!」
訪ねてきたあたしに、オーナーを名乗るおじさんが銀ピカのメダルをくれた。
表には100って数字が入っていて、裏には翼のある女神様がいた。
「開店しましたらどうぞ、我が宿にお越し下さい」
「ありがとう、オーナーさんっ! あたし、必ずホリンと泊まりにくるねっ!」
「すんません、コイツ田舎者なんです」
ホリンは無視した。
『田舎者で何が悪いのよ!』って言ってやりたかったけど、騒いだらそれこそやさしいオーナーさんに失礼だ。
「いえ、こんなに愛らしいエルフのお嬢さんが、開店前に訪ねて下さるなんて嬉しいことです」
品の良いオーナーさんにまたねと手を振って、すぐそこの宿屋町って呼ばれる通りに早足で向かった。
エッチなホリンが隣に並ぼうとするから。
「えっと……どうしよっか?」
「うちの村には宿屋なんて1つしかないのに。モクレンってすげーんだな……」
そこは大きな宿屋さんでいっぱいだった。
特に商人さんが多かった。
あと盾と剣をもったおじさんや、いかにもな姿をした魔法使いのお姉さんもいた。
でもよくわからなかったのは、頭に赤いほっかむりをかぶったシマシマのシャツを着た人たちだ。
「あの、そこのお兄さん。お兄さんって、何をしてる人なんですか?」
「あ、なんだぁ? 姉ちゃんそっちこそエルフじゃねぇか、珍しいなぁ」
「ちょっ、知らん人にいきなり声をかけるなってのーっっ!」
ホリンは無視した。
なんで人に声をかけちゃけないのかわからなかった。
「エルフですけど、何か?」
「ダハハッ、俺たちゃ水夫だ。あ、わかんねぇか? 船乗りだよ、船乗り!」
「船乗りってなんですか?」
「そこから説明しなきゃダメか、姉ちゃんっ?!」
親切な船乗りさんから、水夫のなんたるかを教わった。
世界中を旅しているなんて羨ましいってあたしが言ったら――
「そんな華やかなもんでもないけどよ、考えてみりゃ凄ぇことかもな、へっ!」
なんだかんだ自慢げに喜んでいた。
その後、水夫さんは仕事があると言って宿屋町を去っていった。
「そこの宿にしようぜ……」
「うん、悪くないかも」
なんだか疲れた顔のホリンと、熊ネズミ亭って宿屋さんに入った。
名前の割に軒先に背の低い花々が飾られていたりして、なんだか入りやすそうな雰囲気だった。
「宿泊?」
「はい、あたしはコムギ、こっちはホリン、ここに泊めて下さい!」
中も素朴な雰囲気でよかった。
受付のおじさんはなんだかちょっと暗い雰囲気だけど……。
「そう。未婚?」
「コ、コイツと俺がかっ!? んなっ、んな関係じゃねーよっ!」
ま、さすがに夫婦には見えないよね……。
「なら別々の部屋。初日の宿泊料は半額だ」
言われてあたしとホリンは顔を向け合っていた。
ホリンもてっきり、ブラッカの宿みたいに同じ部屋に泊まるつもりだったみたい。
「半額って、1日しか泊まらなくても半額でいいんですか?」
「いいよ。それで、泊まるの、泊まらないの?」
ホリンがあたしにうなずいた。
宿の人はなんか愛想が悪いけど、半額は魅力的だった。
「泊まります」
「先払いだ。……これ、部屋の鍵」
お金を払って、鍵をそれぞれ持ってあたしとホリンは宿の3階に上がった。
廊下は窓が2つしかなくて薄暗い雰囲気だった。
「あ、あたしここだ」
「俺は2階みたいだ。準備が終わったらまたくる」
「わかった、それまで少し休んでるね」
ホリンのやつ、2階なら2階って言えばいいのに。
ホリンが階段を降りて行くのを確かめてから、鍵を差して部屋の中に入った。
「うーん……ここからだと海は見えないかぁ……」
ここは建物がひしめいている。
窓を開けてみても見えるのは海ではなくて隣の宿の壁だった。
でも下に見える往来の方は、旅人の行き来を見下ろせてちょっと楽しいかも。
『アシカ亭の3階からならば、海が見えたのだがな』
「そうなんだ。うーん、惜しいなぁ……」
たくさん走ったし少し疲れた。
あたしはバッグから攻略本さんを取り出して、胸に抱いてベッドに飛び込んだ。
アッシュヒルと風の匂いが全然に違う。
なんだか魚を焼いたときの匂いに似てる。
目を閉じて、やわらかなそよ風を浴びながら少し休んだ。
『何を調べる?』
「この町のこと。ホリンと歩く前に予習しておかなきゃ」
それに満足したらベッドの上の攻略本さんを手に取った。
町の紹介ページからモクレンの項目を開いた。
この先のお宝回収のルートを考え直して、それから本の中の海の部分をみた。
町の南に港っていうところがあって、そこから船っていうのに乗ると、海の向こうの町に行けるって説明が載っていた。
「陸は魔物だらけだが、不思議と海には現れない。モクレンが発展しているのはそのためだ」
「へー、そうなんだ……」
一文一文を舐めるように読んだ。
読んでいる人を楽しませようって気持ちが文章から伝わってきて、あたしもなんだかワクワクした。
だけどあたしはその文章の中にある一文を発見して、ベッドから飛び起きた。
『海賊ユリアンの故郷』そう書いてあった。
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