・次なる目的地は港町モクレン! いざ冒険の旅へ! - 赤い鷹 2/2 -
「店主、水をくれ」
「へい毎度! ひっ、ひぇ……っ?!」
お店のおじさんが変な声を上げるから、いったいどんなお客さんがきたんだろうと顔を上げた。
そしたらそれは、さっきの赤毛の人だった。
「よう、奇遇だな」
「あれ、お兄さんさっきの馬車の人ですよね……? 馬車はどうしたんですか……?」
鷹の目のお兄さんはあたしの質問に即答せずに、隣の即席ベンチにドッカリと腰掛けた。
近くで見るとこの人、よくわかんないけど都会の人って感じで、カッコイイ……。
「降りた」
「なんで降りたんだよ。馬のが楽だろ、おっさん」
「ちょっとホリンッ、初対面の人に失礼な言い方しないでよっ」
何が気に入らないかわからないけど、ホリンの言い方は挑発的だった。
「随分と楽しそうにしている若者を2人見かけてな、馬車でおとなしくしているのが面倒になったんだよ、若造」
「だからなんだよ、俺たちに構わないで先に行けよ、俺たちは忙しいんだ」
「ふん……ホリンといったか。なぜ俺が、貴様の指図を受けなきゃならん」
え……。
な、なに、この状況……?
なんでホリン、こんなに喧嘩腰なの……?
「何やってるの、ホリン! 失礼だよ、そういうのっ!」
「だって見るからに怪しいだろ、こんなのっ!」
「失礼なガキだ。おい、テメェら、どこからきた?」
ホリンも口が悪いけど、鷹の目のお兄さんも凄く荒っぽい口調だった。
ホリンがますます警戒しちゃうのも無理もなかった。
さっきまで貴族様の馬車に乗っていたから、もっと上品な人だとあたしも思い込んでいた。
「アッシュヒル!」
「答えるなってのっ?! 外の人間をもっと警戒しろって、あれだけ出発前に言っただろがよぉっ!?」
「よく吠える番犬を飼ってるな。それで、行き先は?」
「噛みつくぞ、この赤毛野郎!!」
「モクレン! ホリンが失礼でごめんね、お兄さん!」
赤毛のお兄さんはニヒルに笑った。
敵意をむき出しにするホリンには、親しみを込めた笑いを送ったように見えた。
「ユ、ユユユッ、ユリアン様……ッッ、お、お水をお持ちしました……っっ」
「おう、そこ置いとけ」
この人、ユリアンって名前なんだ。
でもお店のおじさん、なんであんなに震えているんだろう。
ユリアンさんはおじさんにお金を爪弾いて、お水を一気に飲み干した。
「おい、おっさん何者だよ……?」
「礼儀のなってねぇ若造だ。おまけに恐れ知らずとくる……」
「だからなんだってんだよ、俺たちに構うな」
ホリンがユリアンさんを威圧した。
いつものホリンとは思えないくらい恐い顔だった。
ユリアンさんはそんなホリンに鷹の目の強面で見つめて、不敵に笑った。
「いい根性だ。お前みたいな跳ね返り、俺ぁ好きだぜ」
「すみません、ユリアンさん……。ホリン、ユリアンさんは悪い人じゃないと思うよー?」
「いやどう見たって怪しいだろっ!? 店のおっさんだって震え上がってこっち戻ってこねーし!」
そんなホリンの肩にユリアンさんが手を置いた。
いきなりのことだったから、ホリンもちょっとビックリしていた。
「テメェら、港町までマラソンすんだろ? 俺も付き合わせてくれ」
「はぁ!? お前1人で行けよっ!?」
「頼むよ、1人旅は心細いだろ」
「乗ってきた馬車に御者がいるだろ……!」
「帰らせた。諦めて俺に付き合え、若造」
なんで馬車があるのに、ユリアンさんは歩きを選ぶんだろう。
あたしもそこが不思議だった。
「おいおっさん、俺たちをただの田舎者だと思うなよ……? 俺たちについてこれると思ったら、大間違いだからな!」
ホリンはジュースとパンを胃に流し込むと、あたしの手を引いて立ち上がった。
走ってユリアンさんを振り切るつもりみたいだ。
「よっしゃ、行くとしようぜ」
「余裕こいてられるのも今のうちだぜ! いくぞ、コムギ!」
「あ、うん……」
ホリンに引っ張られて、あたしはモクレンの町を目指して走り出した。
ユリアンさんは同じように駆けて、あたしたちの後ろに張り付いている。
「どうしたんだよ、コムギ? 不満か?」
「ううん、そういうわけじゃないけど……」
ユリアンって名前、どこかで聞き覚えがあるような気がしてきた……。
でも、どこでだっけ……。
「アイツ怪しいぞっ、目付きも悪いしガラも悪いっ! アイツには関わっちゃダメだ!」
「え、悪い人には見えないけど……?」
「店の人震えてただろっ、どう見たって悪党に対する反応だってのっ!!」
「うーん……そうなのかなぁ……?」
「そうなんだよっ!」
必死で守ろうとしてくれるってところだけはよくわかった。
だからあたしも不満を引っ込めて、ホリンと一緒に街道を走った。
ユリアンさんは悪い人じゃないと思うけど、ホリンがあたしを守ろうと手を引っ張ってくれるのが嬉しかった。
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