・次なる目的地は港町モクレン! いざ冒険の旅へ! - 赤い鷹 1/2 -
「あれっ、見てホリン! 立派な馬車!」
「うわっ、なんだありゃ……成金趣味だなぁ……」
彼方に赤い何かが見えていた。
近付いてみるとそれは赤塗りの馬車だった。
馬車は4頭もの馬に引かれて、モクレンの方にゆっくりと進んでいた。
「ちょっとホリン、聞かれたらどうするのよ……?」
「悪い、つい口に出てたわ。あれ、たぶん貴族様の馬車だ、迂回して進もうぜ」
「え、なんで?」
「なんでって、貴族にからまれたら面倒だろ」
「貴族様があたしたちに興味なんて持つわけないよ」
あたしはホリンの提案を無視して馬車の後ろを追った。
「待てってっ、お前はエルフだろ……っ」
「だから?」
「もし貴族に見初められたらどうするんだよ……っっ」
「ないない!」
「あるからこっちは心配してるんだよっ!」
あたしは後ろを振り返ってホリンに笑った。
それって、ホリンがあたしに魅力を感じてくれているってことだ。
でもでも、今は馬車への好奇心の方が勝っていた!
あたしは馬車に併走すると、中をのぞき込むように少し距離を取った。
「んんー……よく見えない……。あ……」
窓の覆いが上げられて、中の男の人があたしを流し目で見た。
あれ……この人、貴族様じゃない……?
期待していた外見じゃなかったけど、凄く個性的な人だった。
燃えるような長い赤毛が肩の辺りまで伸びていて、ツヤツヤとしたレザーのロングコートを着ていた。
左耳の側に深い刀傷が走っている。
その流し目があたしに興味を持って正面を向くと、鋭い鷹のようになった目があたしをジッと凝視した。
「すんませんっ、おい行くぞっ、コムギ……ッ」
ホリンがあたしの腰を押して馬車を追い抜かせた。
鷹の目をした赤い人は、そんなあたしたちを目で追っていた気がする。
馬車の姿が遠くなると、ホリンが深いため息を吐いた。
「中の貴族がスケベ貴族だったらどうするつもりだったんだよっ!?」
「ううん、中の人、貴族じゃなかった」
「なんでわかるんだよ……?」
「顔に刀傷があった。あと、服装? お金持ちそうだけど、貴族様みたいな格好じゃなかったよ?」
「……言われてみれば、なんかメチャクチャ目つきの悪いやつだったかもな……?」
「あの人、何者だろ……?」
あたしがそう言うと、ホリンがまた難しい顔をした。
またあたしのことを心配しているみたいだった。
・
比喩抜きの駆け足の旅を楽しむと、やがてあたしたちは監視所って呼ばれる施設に着いた。
「ほ~~、あんな山奥に村があったのか~」
「うん、アッシュヒルっていうの。大きな風車と湖、それと花畑が自慢なの!」
「おい、恥ずかしいからあたしの村自慢はその辺にしろ……」
軍人さんが多かったけど、あたしたちみたいな旅人もいた。
「おじさんはこの先のモクレンの生まれだよ。近くの村で材料を仕入れて、ここで商売をしているんだ」
屋台が1つだけ立っていて、そこではお喋りなおじさんが飲み物と軽食を提供していた。
あたしとホリンはそこでアップルとオレンジジュースを買った。
「おじさんのジュース、凄く美味しい!」
「おい、おっさん。モクレンってどんなところなんだ? 海ってどんな場所なんだ?」
「海? 海ならもう見えているよ。ほら、あそこにある青いのが海だ」
地平の彼方で何かが光っていた。
でも遠くて全然わからない。わからないけど……。
「なんか、大きくない……?」
「ま、まさか……あれ全部……あれ全部が海なのか、おっさん……っ!?」
「君ら純朴だねぇ……。ほら、これはサービスだ」
おじさんはリンゴジュースの絞りカスをくれた。
美味しい……。
それにリンゴなんて食べたの久しぶり……。
「ところで……新婚旅行かい?」
「ブッッ……?!」
ホリンがオレンジジュースを吹いた。
あたしも危なかった……。
危うく喉につっかえるところだった……。
「かわいいお嫁さんでおじさん羨ましいよ。うちのかみさんなんてもう、オークだよ、オーク」
「た、大変そうっスね……」
ホリンがあたしに目を送ることはなかった。
胸を叩きながら、顔を赤くしてまた何度かむせていた。
あたしはお弁当のハムチーズサンドを食べながら、そんなホリンの姿を見つめた。
ホリンが否定しないから、あたしもそういうことにしておいた。
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