・次なる目的地は港町モクレン! いざ冒険の旅へ! - 大地を征く -
ホリンと一緒に街道を大股で歩いた。
あたしたちの進路には爽やかな朝日が浮かんでいて、木々や岩の陰影がこちらに向けて長く伸びていた。
「そういえばお前、鎖鎌は……?」
「ダンさんにあげちゃった。だってあれ、重いし、かわいくないし、鉄臭いんだもん」
「あげたってお前な……。あれ、結構高いやつなんだぞ……」
「だから?」
「なんでお前は、なんでもかんでも人にほいほいあげちまうんだよ……」
「それ、あたしから雷神の剣をねだったホリンが言う?」
「うっ……。そこを突かれると、うぅ……ぐうの音も出ねぇけどよぉ……」
あたしの手には棍棒がある。
不思議と重さはそんなに感じなくて、なんだかちょうどいい。
「それにホリンが守ってくれるんでしょ。鎖鎌なんてなくても大丈夫だよ」
「おう、お前に怪我なんてさせたら、爺ちゃんとロランさんにぶっ殺されちまう!」
ホリンは必要もないのに雷神の剣を掲げた。
金色の金属光沢が白い朝日に照らされて、キラキラと艶やかに輝いていた。
大事に手入れされているのが見るだけでわかった。
あげた身としてもそれが嬉しかった。
「ロランさん……最近お前にやさしくないか……?」
「え……? あー、言われてみればそうかも。お店も手伝ってくれるし……」
ホリンのロランさんなのに、嫉妬しちゃうかな……?
「ロランさん、お前を見る目が……。なんか変だ……」
「き、気のせいだよ、ホリン……。ロランさんがやさしいのはいつものことだし……」
「そうだけど、お前を見る目がなんか、やさし過ぎる……? なんでだ……?」
そんなのわかるわけない。
ロランさんはああ見えて40過ぎのおじさんだし、あたしたちが子供に見えるだけじゃないかな。
でも、師弟を挟んだ禁断の三角関係の可能性も、あ、あるのかな……?
「あっ、スライム!」
お喋りをしていたら、スライムの群れが街道を塞いでいた。
えっと、棍棒を構えて……それから……。
「前に出るなっ、俺がどうにかする!」
「で、でもっ、ちっちゃいけど10匹くらいいるよっ!?」
「下がってろ!」
「う、うん……わぁぁっ?!」
ホリンが雷神の剣を使った!
雷をスライムの群れの真ん中に落として、ホリンは敵を自分に引きつけるために突撃していた!
体当たりをしてくる敵をホリンが斬り払って、雷神の剣で次々とスライムを宝石に変えていった!
ホリンがあっという間にスライムを全滅させちゃった!
「カッコイイ……」
相手、ちっちゃなスライムだけど……。
でもあたしなんて一歩も動けなかった。
あんなに滑らかな身のこなし、あたしには一生できる気がしない。
「お、俺……俺、つええ……。修行、今日までがんばってきて、よかった……」
でもホリンはホリンだった。
そこでクールに決めれば超カッコイイのに、自分で自分の活躍に感動していた。
「スライム相手にそんなに感動しなくても……」
「でも強かっただろ、俺! 俺、今スッゲーかっこよかったよな!?」
「はー……。せっかくかっこよかったのに、台無しだよ、ホリン……」
「へへへっ、ありがとよ!」
ホリンはあたしに見せつけたいのか、カッコイイけど隙だらけで大げさな動きで、踊るように剣を乱舞させてていた。
あたしはスライムが変化した豆粒みたいに小さな宝石を拾って、村の子供たちへのおみやげにした。
「行こうよ、ホリン」
「ああっ、モクレンまで俺に任せとけ! 俺が全部やっつけてやるよ!」
「ホリン、調子に乗りすぎ……」
まるで小さな男の子だ……。
ホリンはあたしの前を歩きたがって先頭を譲らなかった。
あたしは並んで歩きたいのに、ホリンは前にぐいぐい出て新しい敵を探していた。
「敵、いたか!?」
「いないと思うけど……」
「安心しろ、俺が守ってやるからな!」
「はぁ……っ」
ちょっとかわいいかなと思っちゃう反面、かなり頼りなく感じた……。
あたしたちは荒れた広野を進んで、やがて森林道へと入ることになった。
進めば進むほどに道が暗くなっていって、頭上を見上げれば木々が空を覆い尽くすようになっていた。
「あれ……。ホリン、あれ見て、なんかローブをきた人たちがこっちにくるよ」
「な、なんだありゃぁ……っ」
抹茶色のローブを着た人たちだった。
みんな同じ杖を身に付けていて、ゆらゆらと揺れながらこちらに歩いてきている。
みんな痩せていて、みんな顔色がちょっと悪かった。
人数は……8人いる。
「こんにちはー、ブラッカに行くんですかー?」
あたしは挨拶をした。
なのにホリンがあたしを道外れの木陰に引っ張り込んだ!
そしたら『トスッ……』て音が聞こえて、なんだろうなって木陰から顔を出したら……。
それはアイスボルトが木に突き刺さった音だった。
「バカッ、顔を出すなっ! あいつらはマホウツカイって名前のモンスターだよ!」
ホリンにまた引っ張られて木陰に潜んだら、木が氷の矢でハリネズミみたいになっていた!
「あんなの人間にしか見えないよ!?」
「あんな顔色の悪い人間がいてたまるか!」
今度の敵はスライムとは格が違う。
魔法攻撃をしてくる敵が8体もいる!
さすがのホリンもちょっとだけうろたえていた。
でも……。
「ふふーん、ここは魔法使いのあたしの出番かな! ホリンは隠れて見てるといいよ!」
「こ、こらっ、お前は俺が守る――」
「今度はあたしがホリンを守ってあげる!」
「な、なんだってーっ?!」
あたしはホリンに代わって、遠距離攻撃をしてくるモンスター・マホウツカイへの反撃を開始した!
女の子を守りたいっていう、ホリンの男の子らしい気持ちもわかるけど、あたしもホリンを守りたい!
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