・次なる目的地は港町モクレン! いざ冒険の旅へ! - フクロウ亭 -
「こんにちは、宿屋のお姉さん!」
「あれ……あなたたち、この前の幸せそうなカップルじゃない」
「別にカップルじゃねーし」
ホリンが照れてくれなくて、ちょっとだけ『イラッ……』とした。
そりゃ、確かにカップルじゃなくて、ただの幼なじみだけどさ……。
「男の子なんてこんなもんだよ。それで、もしかして今日も泊まっていってくれるのっ?」
「ううんっ、そうじゃなくて……これ、あげる!」
「え……わっ、美味しそうなパンじゃない!?」
「悪ぃ、宿屋の姉ちゃん。コイツ、田舎者なんだよ……」
「ホリンもでしょー! この前、凄く楽しかった、だからこれお礼! 食べて!」
最初お姉さんは不思議そうにあたしを見ていた。
でも明るく笑って、あたしが差し出した自慢のバケットとバターロールと食パンを受け取ってくれた!
「ねぇ彼氏……。この子、メッチャいい子じゃん……」
「いやメッチャお人好しなだけだって……」
「今どきこんな子ないよ! エルフ族って、みんなこんなに性格いいのっ!?」
「人間もエルフもなんも変わんないって。コイツだけ、うちの村でも輪をかけて頭お花畑なだけでよ……」
2人の話はよくわかんなかったけど、ホリンがあたしをバカにしている気がして足元を蹴っておいた。
お姉さんはあたしのバケットにかぶりついて、かわいい笑顔を浮かべた!
「コムギのパン、美味しい!!」
「やった! わざわざ持ってきてよかったーっ!」
「んんー……でもこんなに美味しい物貰っちゃうと、何かお礼しないと……。2人は何をしにブラッカにきたの?」
「ブラッカには寄っただけっす。俺たちブラッカを抜けてモクレンに行く予定なんだ」
『港町モクレン』
あたしもホリンも噂でしか聞いたことがない。
世界には『海』と『港』と『船』っていうのがあって、なんか凄い方法で人と物が世界を行き来している。
そう攻略本に載っていたけど、全然よくわかんなかった。
とにかくモクレンには、海と港と船がある!
それをホリンと一緒に早く見たい!
「モクレン方面に行くの……? あっちはモンスターがたくさん出るから、二人旅は危険だよ……?」
それも知っている。
攻略本さんに載っている情報だと、アッシュヒル側よりも強いモンスターが出るみたい。
「キャラバン隊の出発を待った方がいいかも。彼、なんだかちょっと頼りなさそうじゃない……?」
そう言われてつい、あたしは宿屋のお姉さんと一緒にホリンを見た。
ロランさんやヨブ村長、巨人になったダンさんと比べると……。
「な、なんだよ、その目はよーっ!?」
「ねぇ、彼氏、本当にコムギを守れる? 自信がないなら、知り合いのキャラバンを紹介するよ……?」
ホリンはあたしの鉄壁のメロンパンと、知恵のピザパン、それにあの後には体力のジャムパンも食べている。
見た目はちょっとヘタレだけど、弱いなんてことは絶対ない!
ホリンは強い。
ただ村長さんとダンさんとロランさんが、桁違いに強いだけ!
「心配してくれてありがとう、でも大丈夫! ホリンはこう見えて村の若者で一番強いの!」
「おい、なんか微妙に引っかかる言い方だな……」
だって村で4番目に強いって説明しても説得力ないし。
ホリンもヘソを曲げちゃうもん。
「ちゃんとコムギを守ってね、彼氏!」
「おうよ! ……って、彼氏じゃねーっつのっ!」
「そんなこと言ってると誰かに取られ――あっ、いらっしゃいませー♪」
これ以上はお仕事の邪魔かな。
新しいお客さんが入ってきて、お店がバタバタしてきたのであたしたちはフクロウ亭を出た。
ブラッカの町を東に進んでゆくと、東門で兵隊さんに止められた。
お姉さんと同じように二人旅は危険だって教えてくれた。
あたしたちは大丈夫ですと断って、モクレンに続く街道を歩いていった。
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