・ホリンと会えない日々 - 最強の農民! -
「おいダン、お前も飲め!」
「男なのになんで酒飲まないんだ、お前は?」
「ほらダンッ、せっかくコムギがパンを焼いてきてくれたんだよ、あんたも食べな!」
そんな中、いつもお世話になっているダンさんの大きな姿を見つけた。
観察してみると、ダンさんはお酒を拒んでいた。
困り顔でしきりに東の方を見ながら、不器用に誘いを断っている。
「オ、オレ、仕事、戻りたい……」
「働いてばかりいないで、たまにはパーッとやろうぜ、ダン!」
「お、お酒、困る……。オレ、苦いの、苦手……」
「そんだけでかい図体してて、なんで酒がダメなんだよ、お前は!?」
わ、私のせいだよね……。
よぉーしっ!
「ダンさんっ!」
「おお、コムギ! 今日はありがとなあっ、このジャムパンってやつ、最高の酒のあてだ!」
「そ、そうですか……? あたし、お酒飲めないので……」
ダンさんと酔っぱらいの間に入った。
近付いてみると、ダンさんはやっぱり山のように大きかった!
手足が長くて、たくましくて、ちょっと汗くさい……。
でもそれは働き者の証だ。
ダンさんはあたしと目が合うと、あたしの方がずっと年下なのに頭をペコペコ下げてきた。
「コムギ、あ、ありが、とう……」
「ごめんね、ダンさん。あたしのせいでお仕事の邪魔しちゃって……」
「う……ち、違う。オレ、不器用……集まり、苦手、なだけ……」
「ダンは開拓が生き甲斐の人ですからね。畑仕事の方はどうですか?」
見るに見かねてか、ロランさんも隣にきてくれた。
酔っぱらいたちは新しい話題を見つけたようで、この場から離れていった。
「ロラン、様……きょ、恐縮、です……」
「なんで君は私に様なんて付けるのです……? 一日中ブラブラと遊び歩いている私より、貴方の方がよっぽど立派な人間でしょう」
「オレ、働くしか、出来ない……。ロラン様、と違う……。ロラン様、会えて、光栄……」
確かに、ロランさんって、ロランさんって言うよりロラン様だ……。
ロランさんはどこかの大貴族だって噂をする人もいる。
二人が話している間に、あたしはダンさんの分のジャムパンを取りに行った。
これから開拓に戻るなら、あたしのジャムパンで元気になってほしい!
「ダンさんっ、ご迷惑でなかったらどうぞ!」
「美味しいですよ、これを食べないなんて人生の損です」
敬愛するロランさんがそう言ったからか、ダンさんがまだ土がこびり付いていた手で、あたしからパンを受け取った。
不思議そうにその甘い匂いを嗅いで、一口かじった。
「お、おぉぉ……」
「ど、どうですか……? これ、ダンさんの作った小麦粉を使っているんですよ……?」
「オ、オレの……?」
「はいっ! ダンさんの畑の小麦が1番なんです!」
するとダンさんが笑った。
不器用に笑って、自分が作った小麦の味を確かめるようにジャムパンを何度も口に付けた。
「コムギ……」
「なあに、ダンさん?」
「今日は、良い日……。オレ、とても嬉しい……」
「ダンさんががんばっているからだよ!」
ダンさんは働き者だ。
いつも東部の手付かずの森を切り開いている。
それを平坦に均して、新しい畑を作るのがダンさんのライフワークだ。
「美味しい……。美味しいパン、いつも、ありがとう……」
素朴で不器用だけど、ダンさんは素敵な人だった。
ところが――
「ちょ、ちょっと待って下さい、彼の様子が……なっ?!」
「わっ、わぁぁっっ?!」
パン屋とコムギ農家のちょっと良い話って感じになっていたのに、とんでもないことが起きた!
ダンさんが……
ダンさんが大きくなった……。
え、何を言っているのかわからない?
うん、あたしもわからない……。
村で1番大きなダンさんの背がグンッと伸びた!
これって2mくらいある気がする……。
明らかにこれ、一回り大きくなってる……!
これって……あたしのジャムパンのせい……だよね……!?
「ありゃぁ? おめぇダン、なんかでかくなってねぇかっ!?」
「あ、れ……? コムギのジャ、ジャムパン、食べたら……変……」
「こりゃいいっ、俺の残り食えよっ!」
「ちょ、ちょっとぉーっ?!」
酔っぱらいの男の人が、ダンさんの口に体力のジャムパンを押し込んだ。
ダンさんは吐き出さずにそれを食べて、飲み込んだ。
するとまたちょっと大きくなった!
「あ、れ……?」
「みんな大変だ! ダンにコムギのジャムパン食べさせてみろよっ、どんどんでかくなるぜ、コイツ!」
大人たちはみんな出来上がっていた。
次々と食べかけや、トレイに残っていた予備のジャムパンがダンさんの口元に運ばれていった。
「こ、困、る……ングッッ?!」
ダンさんもダンさんだ。
彼は口に一度入れた物を吐き出さなかった。
律儀に全部食べていった。
次々とダンさんはジャムパンを食べさせられ、そして――
「ウォォォォーッッ、ダンが巨人になったっっ!?」
「アッハッハッハッ、あらやだよぉ~、あたしったら酔ってるのかしらねぇ~!」
ダンさんがまたドカンと大きくなって、なんと元の二倍の背丈の巨人に大変身していた……。
「ど、どうしよう……あたし、取り返しの付かないことしちゃった……。あ、あたしのせいで……」
ダンさんがひざまずいた。
さらに大きくなった手で、あまりに太い2本指であたしの方に手を置いてくれた。
「オレ、気に入った……。これで、仕事、はかどる……。あり、がとう、コムギ……」
「えぇぇーっ!? ダンさんはそれでいいのーっ!?」
「気に、いった……」
「ホ、ホントに……? でも、困らない……?」
「そうさ困ったねぇ~、それじゃ家に入らないじゃないかい?」
「ガハハハッ、ならやることは1つだ、皆の衆っ! 明日からワシらでっ、ダンのための家を建てようではないかっ!」
村長さんが指揮ると、なんかそういうことになっていた。
ダンさんも楽しそうだった。
「男として、憧れるものではありますね」
「ロランさんまで……。そういうものなんですか……?」
「ええ。それに彼は仕事が生き甲斐の人間なのです。仕事がはかどるなら、外見などどうでもいいのでしょう」
「それはあたしもわからなくもないかも……」
ダンさんは村の東部を開拓している。
そういった意味では、フィーちゃんに次ぐ最前線に立つ人だ。
遠い未来に村を襲撃する魔物たちも、まさか村の入り口で巨人が農作業をしているとはきっと思わない。
なら、ダンさんが死んじゃうより、ずっといいかな……。
迷いながらそんなことをつれづれと考えていると、なんだかお祭り会場の雰囲気がまたザワザワとし始めた。
真顔になった数人がロランさんの前に駆けていった。
「大変だ、ロランさん、ヨブ村長っ!」
「む、何事じゃっ!?」
「モンスターだっ、モンスターの群れが村の中に入り込んでる!」
「なんじゃとぉーっっ?!!」
村長さんは威勢良く声を上げ、ロランさんは物静かに敵の居場所を聞き出した。
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