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・ホリンと会えない日々 - メロンプワァン -

 村長さんが迎えに来た!


「ほれ乗った乗った! ロラン殿も乗った!」

「わ、私もかい……? ご年輩に――」


「いいから乗った乗ったっ、てやんでぃっ!」


 あたしとロランさんはジャムパンと一緒に、村長さんが牽引する大きな台車に乗せられた。


 爆走だった。


 この人には体力のジャムパンなんて必要ないんじゃないかって、そう思うくらい元気な脚力と体力が、あたしたちを村の東に連れて行ってくれた。


「村長さん、いったい貴方の身に何があったのですか……」

「ガハハハッ、これがムギちゃんのメロンプワァンの力よっ!」


「いえ、私もホリンも食べましたが、そんな力は何も……」

「おうっ、跳ねるぜ!」


 道の小さな窪みを村長さんが力業でねじ伏せた。


 震えながら杖を突いて、毎日一日がかりで村を巡っていた村長さんがこんなに元気になるなんて、誰だって首をかしげて当たり前の光景だった。


「本気でぶつかったら、私の方が負けそうです……」

「ガハハハッ、謙遜はよしな、ロラン殿!」


「いえ、謙遜抜きの本気で言っているつもりなのですが……」


 この二人が戦ったらどっちが強いんだろう。

 その疑問はあたしとホリンの胸の中に当然あった。


 ホリンは最終的にロランさんが勝つと言うけど、私にはヨブ村長さんの鋼鉄の肉体をどうにかできるとは思えない……。


 体質によっては最大で100も身の守りが上がるパンを、あんなにいっぱい食べたのだから。


「おうっ、見えてきたぜ、ムギちゃん!」


 彼方に広場があった。

 広場にはお祭りの飾り付けが用意されていて、近づくにつれてあたしはその大げささに震えた。


 たかがパンの試食会のために、家々からイスとテーブルが運び出され、七色に染められた鳥の羽根飾りが広場を彩っていた。


「大丈夫です、貴女のジャムパンにはそれだけの価値があります」

「村の者はみんなムギちゃんのパンを食べているからのぅ。新作と聞けば、テンション上がるに決まっておるわいっ!」


 広場に着くと、もうお酒の匂いが漂っていた……。


「待ってたよ、コムギちゃん!」

「お先にいただいているよ!」

「ジャムを練り込んだパンだって!? 早く食べさせてちょうだいよ!」


 みんなもうお祭り気分だった。

 大人の半分くらいはもうほろ酔い以上の状態で、水で薄めたブドウ酒を陽気に飲み交わしていた。


「や、やり過ぎだよ、村長さん……。って、ロランさんも何普通にお酒飲んでるんですかーっ!?」

「ははは、いや、勧められてついね……」


 見るとちっちゃな子供たちも3人いた。


 大人たちのバカ騒ぎにちょっとあきれてたけど――

 台車から会場にジャムパンが運ばれると、それが笑顔に変わった!


「わぁっ、甘い匂い!」

「パンやのおねえちゃんっ、これがジャムパン……?」

「うんっ、そうだよ! ふわふわのパンの中に、たっぷりのジャムが入ってるの!」


「わぁぁぁーっっ♪」


 子供たちの喜びの笑顔を見て、あたしは2つのことを思った。


 1つはパン屋としての純粋な喜びと感動。

 もう1つは、絶対に子供たちを死なせたくないってこと。


「さ、1人1つずつだよっ、召し上がれっ!」


 あたしが声を張り上げると、みんなが納品用のトレイに群がって、次々とジャムパンが消えていった。


 誰もそのパンに、体力+5~105の力があるとは気付かないだろう。


 ……村長さんみたいなことが起こったりしないか、あたしは緊張半分、喜び半分でみんなの食事をうかがった。


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