・ホリンと会えない日々 - 完成、体力のジャムパン! -
ロランさんって、なんでアッシュヒルにいるんだろう……。
こんなにやさしくて、強くて、上品で、公平で、お話まで上手な人がどうして、うちの村でホリンなんかの相手をしているんだろう……。
ま、まさかっ、ロランさんがホリンに惚れちゃっているとかないよねっ!?
でも、でもそう考えたら色々納得できる……!
毎日訓練に付き合うってことは、特別な関係だってことだもん!
それにロランさんもホリンも顔が綺麗だから――
「香ばしい香りがしてきたけれど、パンの方はいいのかい?」
「パン……? ああああっ、そうだったっ、あたしちょっと見てきますっ!!」
ついお喋りと妄想に夢中になっていた!
あたしはイスから飛び上がって、厨房のパン焼き窯の前に駆け込んだ。
「よかったぁ……。あ、なんかちょうどいい感じかも……」
窯に入れる前に砂時計を逆さにしておいた。
それを取って目盛りを確かめると、だいたい25分くらいだった。
「こんがりきつね色だね、それに甘くてとてもいい匂いだ」
「はいっ、ロランさんが教えてくれなかったら焦げ色になっちゃうところでしたっ」
やっぱりロランさん、お手伝いさんとしてうちに欲しいなぁ……。
でも、ロランさんってなんかすっごいお金持ちだし。
パン屋のお手伝いなんて、興味あるわけないよね……。
「そうしていると、お母さんにとてもよく似ています」
「えへへへ……嬉しいです! お母さん、あたしの憧れですから!」
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【体力のジャムパン】
【特性】[濃厚][ふわふわ][もりもり][魔法の力]
[体力5~105アップ]
【アイテムLV】3
【品質LV】 8
【解説】効果に個人差あり。体質によって様々な副次的効果が発生。
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意識してあの力で見てみると大成功だった!
鉄壁のメロンパンのときは身の守り100アップまでだったのに、5も上限が増えていた!
これって、あたしが成長したってことだよね!
「本当に似ている……」
「そうですか!? そう言われると、なんか照れちゃいますよ……っ!」
ロランさんはジャムパンの方じゃなくて、あたしの顔ばかりを見ていた。
それもなんだかまぶしそうに、あたしをずぅぅーっと見ている。
「な、なんですか、ロランさん……?」
「ああ、すみません。つい見とれてしまって……」
「みっ、見とれっっ?!」
「君はとてもかわいらしい女性です。君に見とれない男などいないと思います」
ロランさんは穏やかな声で、信じられない話だけど、あたしに見とれながらそう言ってくれた……。
え……え、ええっっ?!
ま、まさか、ロランさん……あたしにその気が……っ!?
こ、これって……
師匠と弟子が入り乱れた禁断の三角関係の始まりなのっ!?
「君のお母さんはもっと美しい人でしたけれどね」
「ロランさんって……もしかして、うちのお母さんの友達だったの……?」
お母さんの話ばかりするから、あたしは興味本位で聞いてみた。
ロランさんはなんだか複雑そうな顔だった。
ちょっと寂しそうにも見えた。
「私は……私は、そうだな……」
「ごめんなさい、言いにくいことならいいんです」
「いや。私は、君のお母さんの大ファンだったのです。あんなにやさしくて、美しい人は他にいない……」
「私もそう思います! えへへへ……なんだか嬉しい!」
ロランさん、もしかして恥ずかしがっているんだろうか……?
うつむいて、そっぽを向いて、困ったように鼻を押さえたり、襟首を整えたりしていた。
「喋り過ぎたかもしれません。よければ試食させてくれませんか……?」
「じゃあ、半分こにしましょう!」
熱々のジャムパンをミトンをはめたままの手で取って、半分に割ってジャムに息を吹きかけた。
ジャムはとても熱くなっていて、冷ますのにちょっと苦労した。
「どうぞっ!」
「あ、ああ……。時々、子供みたいなことをする人ですね……」
「え、なんて言ったんですか? よく聞こえませんでした」
「冷ましてくれてありがとう、いただきます」
「はい、召し上がれっ!」
ロランさんと一緒にジャムパンを口にほおばった!
そしたら――
「あっ、熱っっ?!!」
「フフ……」
ロランさんの目が『そんなに一気に食べるからですよ』って言っている気がした。
でも、美味しい!
小麦の香ばしい良い匂いと、ちょっとザラザラした木イチゴのジャムの甘い匂いが混ざり合って、当たり前だけどメチャクチャ合う!
贅沢に盛り込まれたたっぷりのジャムと、ふわふわのやわらかいパンは最強の組み合わせだった!
「ホリンもですが、将来末恐ろしい人ですね、貴女は……。ここにあるジャムパン全てを、買い占めたくなるほどにとても美味しいです……」
「そ、それは……っ」
それは困る……。
パン1つで体力が最低で5も上がるんだから、全部食べたら、ロランさんの身体がヨブ村長さんみたいなスーパーマッチョになっちゃう!
かも……。
「ホリンは幸せ者です。こんなに素敵な女性が隣にいるのに、どうして私にばかり気にかけてくれるのやら……」
「子供だからですよっ。ホリンは、おっきいけど中身はお子さまなんですっ!」
「それがホリンのいいところです。ですがもう少し、君に気が向くように私からもアプローチしてみましょう」
「そ、そんな必要は……」
して欲しいかと言ったら、して欲しいけど……。
ううん、でも今はそんなことより!
「他のパンも焼いちゃいます! 催しまでに、全部焼いておかないと!」
「手伝いますよ」
「え……いや、でも、十分手伝ってもらっていますし……」
「私は君のお母さんのファンです。貴女はその娘です。どうか私に手伝わせて下さい」
「じゃあ……もう少しだけ、お願いします……」
ロランさん、お仕事の間ずっと微笑んでいた。
楽しそうに働いてくれる彼の姿を見ていると、なんだかあたしまで初心に返れた。
パン作りって楽しい! ワクワクする!
そんな当たり前の気持ちを胸に、あたしたちはバターロールと、バケットと、食パンを村のみんなのために焼いていった。
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