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・保養地バランシアでお宝を探そう! - アモーレとアスパラ -

 そしてあたしは気づいた。

 せっかく手に入れたアスパラパワーのこと、すっかり忘れているってことに、完食してから!


「やっと思い出したのかよ。ほらよ」

「これが、アスパ・ラパワー……?」


 それは筒状の小さくて茶色い瓶だった。

 ふたが付いていて、なんかそれ、引っ張っても取れなかった。


「貸してみろ。……むっ、うっ、むっっ!」

「何やってんだ、お前ら……。それ引っ張るんじゃねーよ、回すんだよ……っ」


「回す……? お、おお……っ!?」

「ホリンすっごーいっっ!」


 ベルさんがふたを回すと、ふたはクルクルとねじみたいに回りながら取れた。

 あたしとベルさんはその不思議な作りに感動した!


「さすがは技師だ」

「いや、ふたの開け方教えただけで、そんなに褒められてもな……」


「しかし、これはなんだ? 甘く不思議な匂いがするが……」

「それに野菜なんか入ってないよーっ?」

 

 見てもわからないこういう時は、経験者を頼ろう!


『そろそろ助けが必要か?』


 そう、攻略本さんを!

 出番を待ちかねていたかのような良いタイミングの一言だった。


「うんっ、説明して! これなーにっ!?」

『それはアスパラの成分を抽出した強壮剤だ。簡潔に言えば、しばらくの間だけ筋力が2倍になる』


「じゃあこれは村長さんにあげればいいね!」

「ちょっと待て! うちの爺ちゃんあれ以上怪物にしてどーすんだよっ!?」

『しかし間違ってはいない。最も物理戦闘力の高い者に飲ませるのがベストだ』


 ベルさんは静かにあたしたちのやり取りを観察していた。

 そういえばベルさんたち村の外の人たちには、攻略本さんの姿は見えないし、声だって聞こえないんだっけ……。


「これ飲むと、筋力2倍だって!」

「ほぅ。しかしそれがなぜ、優秀な剣士であるホリンではなく、その祖父になるのだ?」

「それは……」


 ホリンが言いよどんだ。

 だからあたしが変わりに言った!


「ホリンより村長さんの方が強いから!!」

「わざわざでっけー声で言うなってのっっ!?」

「これは驚いた。だが、ホリンの祖父であるからな、ふっ、強くて当たり前というわけか……」


 やっぱりベルさんとホリンって、ライバルにしては仲が良すぎる気がする。

 あたしはベンチから跳ねるように立ち上がって、二人を最後の宝探しに誘った。


 ホリンから攻略本を奪い返して、先頭を歩いて公園を出た。


「確かアモーレの水だったか。古い言葉だが、直訳すると……愛の水だな」

「なんかうさんくせーな」


「まあ、確かにな」

「愛はうさんくさくなんてないよーっ!」


 攻略本によると、アモーレの水は海辺の廃屋の裏にあるみたい。

 その後はゆっくり海辺を歩くのもいいかも。


 海までちょっと長めの道のりを、あたしたちはまたお喋りをしながらズンズン進んでいった!


「不敗の拳闘士ザ・サンダー・グレード・ヨブ……? それは男心をくすぐる話だな」

「爺ちゃんはさ、全部おかしいんだ……。技のキレがすげーとかそういう次元じゃなくて、魔法を蹴り返すような、メチャクチャな人間なんだよ……」


「ただの変態ではなかったか……」


 ベルさん、それは思ってても口にしちゃダメ……。

 はぁっ、それにしてもさっきのチョコバナナサンド、美味しかったなぁ……。


 あたしもああいうの、作りたいなぁ……。

 作っちゃおうかなぁ……。



 ・



「アモーレの水っ、げっとーっ!」


 ゲット! したんだけど……。

 なんか想像してたのと全然違った……。


 それは茶色い布みたいな紙みたいな変なものでできた不思議な長方形の箱だった。

 大きさは腕を前に伸ばしたくらいの奥行きがあって、中には重い何かがギッシリと詰まっている。


「なぁ、なんかチャプチャプいってないか?」

「言われてみればそうかも……」


「一見は布や皮のように見えるが……これは紙だな。恐らくはここから開けられるのではないか?」

「わっ、なんかピカピカの筒が入ってる!?」


 その筒は薄い金属でできていた。

 綺麗に絵が塗られていて、『愛のスコール』って書いてあった。


「奇妙な材質だが……これは、樽のたぐいなのではないか?」

「え、これが樽っ!? あっ、水の音がする!」

「ちょっと貸してみろ」


 ホリンがあたしの愛のスコールを取った!

 悔しいからあたしはまたあの箱に手を入れて、そこにみっちり詰まっている同じものを取り出して観察した。


「わかった、ここが樽の開け口だ」


 ホリンが木の枝を取って、鉄製の樽を付くと『カシュッ!』って鳴った!

 ホリンがその樽を手のひらに傾けると、乳白色の液体が『シュワワワワワ』って音を立てて出てきた。


「それは炭酸水だな。甘い匂いもする……ホリン、飲んでみよ」

「いやなんで俺に毒味させんだよっ、それ言うなら自分で飲めよっ」

「ホリンが飲まないならあたしが飲むっ!」


 ホリンの手に付いてた甘い匂いのする液体に、あたしは口を付けてすすった。

 ん……なんか口の中がくすぐったい……。


 でもこれ、お砂糖とミルクを混ぜたような……不思議な味がする……。


「あっ、これっ、美味しいっ! 口の中がピリピリするけど……それ以外は甘酸っぱくて美味しい!」


 アモーレの水は、別称・愛のスコールっていうすごく美味しいジュースだった!

 ベルさんも手のひらに移して飲んでみて、ホリンにも薦めた。


「うっ……?! な、なんか口の中がいてぇ……っ!」

「炭酸水だからな。それもかなり強い」

「慣れるとシュワシュワが気持ちいいかも……!」


「いや俺は合わねぇ……なんでいちいちピリピリしながら飲まなきゃいけねーんだよ……っ?」


 アモーレの水はまだまだいっぱいある。

 さすがにちょっと重かったけど、ホリンにホテルまで担いでもらうことになった。


『アモーレの水は、中程度ほど体力を回復させるアイテムだ。傷ついた時に冷やして飲むといい』

「いや順序おかしいだろ、それ……傷ついてから冷やしてどうするよ……」


『単純な話だ。その方が美味い』


 これがあれば怪我をしても美味しく回復!

 これをグビッとできるなら、怪我しちゃってもいいかなってあたしは思った!


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