・保養地バランシアでお宝を探そう! - 爆弾石 -
ところがそのお出かけは、ちょっとした思い出話から宝探しに変わった。
誰かが初めて出会ったあの時の話をまた初めて、そういえば一緒に宝探しをしたねってなって、バランシアにも隠された宝箱ってあるのかなって、あたしが聞いた。
『水を差すのであえて言わないでおいたが、この町には3つほどの宝がある。大した品ではないがな』
答えは攻略本さんが教えてくれた。
あたしはバッグから攻略本さんを出して、宝の場所と、今いる自分の場所を確かめた。
「散歩をして、カフェで冷たいドリンクを飲む計画だったのだが……面白いことになったな」
「あん時の氷の盾なら、こいつの店の地下倉庫で眠ってるぜ。よく冷えるからな、あの盾……」
「武具として使うよりも有用だろう。それで食材の保存が利くようになり、パン屋のレパートリーが増えるならば、氷の盾も本望だろう」
「いや、そりゃどうだろうな……」
ホリンがなんと言おうと、地下倉庫からあの氷の盾は取り出せない。
だって食材が腐ったり、虫が湧いたりしたら困るもん!
あ、それで宝探しだけど。
攻略本の情報によると、このバランシアに隠されているアイテムは3つだ。
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A.爆弾石
B.アモーレの水
C.アスパラパワー
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Aだけはなんとなくわかった。
きっと投げると爆発する攻撃用の道具だ。
BとCは手に入れてからのお楽しみ!
「あっ、あったよっ、赤い箱!」
「やはり我には見えぬな……。む、どうした、ホリン?」
バランシアの町は白い!
ベルさんが言うには、この町は綺麗な景観にするために、大理石か石灰岩か石膏で建てるのがルールなんだって。
その白くて面白い町の中央公園で、あたしはお花畑の真ん中に赤い宝箱が置かれているのを見つけた。
するとホリンがその赤い箱の前に、お花をよけながらずいずいと進んでいった。
それから足下を見下ろして、あたしたちに深く首を傾げた。
「ロベール、お前にはこれが見えないのか?」
「ほぅ。まるで見えているかのような言い方をするな? 我には全く見えぬ」
ホリンは足下を指さしたまま、さらに深く首を傾げる。
ホリンの指は正確に赤い宝箱を指していた。
「おかしいだろ……。本当の勇者はコムギなのに、なんで、俺にまで見えるんだ……?」
「本当に見えるの、ホリン……?」
「これだろ?」
ホリンは赤い箱を抱え上げた。
ビックリだった!
いつの間にかホリンは隠しアイテムが見えるようになっていて、それに触れる!
「見えぬ側からするともどかしい状況だ。ホリンよ、さっさと開けて中身を見せてみよ」
「うんうんっ、開けてみてよ、ホリン!」
ホリンも自分が箱を開けられるか、気になってたんだと思う。
ホリンはすぐに箱のふたに手をかけて、それを押し上げた。
ホリンはその中からゴツゴツした赤と黒が入り交じる石、『爆弾石』を取り出して。
宝箱は光となって消えて、口を開けっぱなしにしているホリンだけがそこに残った。
「フ……さすが我が認めた男だ。ああホリン、その石は決して落としたり、どこかにぶつけたりするなよ。軍でも数個所有しているが、暴発すれば街角1つが吹き飛ぶぞ」
え……。
い……いらない……。
あたし、そんな恐い道具いらないっ!
「お、おおお、脅かすなよなっ、ロベールッ!?」
「脅かしではない、純然たる事実だ。まあ安心しろ、衝撃さえ与えなければ何も問題はない」
「とか言いながらっ、お前らなんでジリジリと距離を取るんだよっ!?」
「だって怖いもんっ!!」
「君子危うきに近寄らずと言ってな。それに近寄る理由は我らにない」
爆弾石を持つホリンの手がプルプルと震えている。
もしホリンがあれを落っことしたら、命の危機だ……。
あたしはさらに一歩ホリンから後ずさった。
「よければサマンサ軍に引き取らせよう。予言が正しければ、すぐにでも使い道がやってくる。これは僥倖と言えよう」
「って言いながら、なんでロベールまでさらに距離取るんだよぉっ!?」
「ソレは本当に危険だ」
「そいつを持ってる俺の気持ちも少しは察してくれよなぁっ!?」
あたしたちは宝探しを一度中断して、みんなで近くの兵舎まで爆弾石を届けに行った。
だけど当然、兵舎の偉いおじさんは……。
「なっ……我々の兵舎で、そ、それを、預かるのでございますか、ロベール陛下……?」
ベルさんに爆弾石を押し付けられて青ざめていた。
「1日だけだ。では任せたぞ」
「ま、待って下さい、陛下っ!? 下手をすれば、この兵舎ごと吹っ飛びますぞっ!?」
「そうならぬように厳重に管理せよ。その石は、サマンサ正規軍の命運に深く関与する品だ。では任せた」
王様ってずるい……。
貧乏くじを引かされた兵舎の人たちは、ぎこちない笑顔でベルさんの後ろ姿を敬礼で見送っていた。
ごめんなさい。
そんなに危険な物とは、あたしもホリンも知らなかった。
でもベルさんは知ってて黙ってた!
王様ってやっぱり、ずるいと思った!