・ただのパン屋、超VIP待遇される - エルフのシーツ包み -
ジャグジーで楽しんだその後は、フィーちゃんと一緒に寝室のベッドでお昼寝した。
このスィートルームっていうところのベッドは、長さだけでもなんとフィーちゃんの背丈2つ半もある。
それにこの寝室も、ただ寝るだけの場所のはずなのになんでか広くて、あたしにはちょっと落ち着かなかった。
だけどベッドシーツ!
このシルクのベッドシーツだけは凄く気に入っちゃった!
「スリスリ……このスベスベ……。はふぅぅっ、持って帰りたいのです……」
「わかる……。こんなにおっきいんだから、半分切り取ってってもいいかなぁ……?」
「それはダメなのですよー……おねーちゃん……。絹は、しゅごく、高いのです……」
「ええっ、そんなに……?」
「たぶん……これ、コムギおねーちゃんのバケット、1万個分くらいすると思うのですっ!」
「た、高ぁっ!?」
あたしたちはシルクのおっきなベッドシーツにくるまって、至福の時を過ごした。
あたしのパン、1万個分もするかと思うと、破いちゃったりしないか少し不安にもなったけど……。
「ずっとこの中にいたいのです……」
でもやっぱり気持ちよかった。
「あたしも……。スベスベがいっぱい……ふふふふ……」
美味しいお昼ご飯もいっぱい食べたし、ジャグジーも楽しかった。
なんだか今、気持ちがかつてないほどに、ゆるゆるになってる……。
なんだか、急に、うとうと、してきて……。
でも、お部屋には、フィーちゃんが……。
「すぴー……すぴー……」
あ。フィーちゃんも寝てるみたいだし、あたしも寝ちゃおう……。
・
「これは……なんの現場ですの……?」
イベリスちゃんの声がしたような気がして、あたしは目を薄く開いた。
すると世界は白かった。それにスベスベで、気持ちよかった……。
なのにイベリスちゃんはあたしの身体をコロコロと転がして、気持ちいいスベスベを奪った!
「やっぱりムギちゃん師匠でしたわ! そうなるとこっちは……まあっ、フィーちゃん!」
同じようにフィーちゃんもシーツの中から出されて、まどろみながらイベリスちゃんを見ている。
「あ、おはよ、イベリスちゃん」
「ビックリしましたわ……。一瞬、誰かがお亡くなりになられたのかと……」
「ほへ……」
フィーちゃんはまだ寝たりないみたいで、またミノムシみたいにシルクのシーツで自分を巻いて寝てしまった。
「使い方は間違っておりますけど……やはりフィーちゃん、かわいいですわ……」
「だってこのシーツ、すっごく気持ちいいんだよ……?」
「気持ちはうちもわかりますけれど……。淑女にはちょっと、まねできませんわ……。あっ、それよりムギちゃん師匠っ」
あたしもフィーちゃんと同じようにミノムシになった。
だけどすぐに、イベリスちゃんに転がされて元に戻されてしまった……。
「ロベール様とホリン様が到着しましたわ」
「あ……そう……」
「いえ、実は2人とも、この寝室の外で待っておりますの。お2人はコムギ様と一緒にお出かけしたいそうですけれど……」
「ごめん、今はシーツの方がいい……」
「そうですか……? ロベール様から、プレゼントもあるそうですけれど……」
「え、プレゼントッ!?」
プレゼント。楽しそうなその響きに、あたしはシーツの中で転がって、ベッドを飛び上がるとイベリスちゃんの両肩にしがみついた!
「意外に現金ですのね、ムギちゃん師匠……!」
「だって楽しそう! 起こしてくれてありがとっ、さあっいこーっ!」
「いえ、うちはインセンスとこの宿を回りますわ。サマンサの最高級ホテルのノウハウを、研究するチャンスですのよ」
「イベリスちゃんは偉いなぁ……」
「ムギちゃん師匠には負けますわ。後でうちとも遊んで下さいね」
「わかったっ、じゃあまた後でねっ!」
攻略本さんの入ったバッグを取って、あたしは寝室を飛び出した。
するとそこには本当にベルさんとホリンが待っていた!
「ベルさんっ、おはよ! じゃなくて、久しぶりーっ!」
「おい、お前ベルさんの前なのにでっかい寝癖付いてんぞ……。あ……?」
ホリンに言われて頭を押さえると、後ろ髪が元気に跳ねていた。
だけどベルさんはそんなこと気にせずにあたしの前に出て、足下に片膝を突くと、あたしの手を取った。
ベルさんの情熱的な眼差しがあたしを見上げて、それから彼の唇があたしの手の甲に押し当てられた。
「ホリンから話を聞かされて以来、一日千秋の想いで貴女の来訪を待っていた。……単刀直入に言おう。頼む、コムギ、我の妻になってくれ」
「え、ええええーーっっ?!」
再会早々、ベルさんにプロポーズされた……。
黄金の国の王様で、美しい銀髪で、変装のために理知的な銀縁メガネをかけたベルさんに、あたしは燃え上がるように情熱的な目で見上げられた!
更新が不安定ですみません。