・ただのパン屋、超VIP待遇される - 最高級のおもてなし -
「サマンサ風パエリアでございます」
美味しい!
美味しいけどなんだろう、このもちもちしている穀物……?
エビと貝の出汁がこのもちもちに吸い込まれて、口の中に海の香りが広がるぅー!
ぱえりあ! すっごく美味しい!
「パタタス・ブラバスでございます」
芋っ、これほくほくの揚げ芋だっ!
これにはロマちゃんもニッコリ!
トマトとマヨネーズとコショウとタマネギを使ったソースがかかってて、ちょっと辛いけどほくほく!
すごくほくほく!
ほくほくのポテトさいこーっ!
ぱたたすぶらぶら! 美味しかった!
「デザートのクリームブリュレでございます」
おおおおーーっっ、なにっ、これーっっ!?
熱々のカリカリの中に、甘いトロトロが入ってるぅ!?
このトロトロのやつ、カスタードソースって名前なんだって!
パンッ、今すぐパンが欲しいっ!
このカスタードソース、甘くてやわらかいパンと絶対合うと思う!
「チョコレート・チュロスでございます。お好みでお砂糖をかけてどうぞ」
これはわかるっ、揚げたパンだ!
細くしたパン生地を揚げて、それに溶かしたチョコレートかけたんだ!
これならあたしにも作れる!
後でシェフさんにレシピを聞かなきゃ!
お、美味しい……。
チョコとパンの組み合わせが最高っっ!!
バランシア一番のホテルのランチは、最高級って言うだけあった!
気付いたらお腹がはちきれそうなほど、デザートをおかわりしちゃってた……!
「ぷぇぇ……もう、食べられない、のです、よ……」
「あ、あたしも限界……うぷっ……」
お腹いっぱいになると、あたしたちは食堂を出て、従業員さんに部屋へと案内された。
フィーちゃんとは途中の階段で別れて、あたしは建物の一番上の連れて行かれて、おっきな扉の向こうのエリアに入った。
「どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ下さい。何かあれば、そちらのベルを」
「えっ、ちょ、ちょっと待ってっ、あたしの部屋はっ!?」
「こちらがコムギ様とイベリス姫のお部屋でございます」
「……え?」
「この階の全てが、コムギ様とイベリス姫のお部屋でございます。テラスには小さなジャグジーもございます。では、ごゆるりと……」
…………え?
「ちょ、ちょっと待ってっ、あたし困るっ! みんなと同じ部屋がいいっ!」
「申し訳ありません、それはロベール陛下とご相談下さい。では……」
ちょっ、えっ、待っ……!
いやに長く深々としたお辞儀をして、ホテルの従業員さんは出て行ってしまった……。
こんな場所を貸し切っちゃうだなんて、ベルさんってお金持ち過ぎだよ……っ。
あたしは自分の部屋――ううん、部屋だらけでよくわからない階をさまようことになった。
やがてさっきの従業員さんが言っていたテラスってところに出て、そこに綺麗な水たまりを見つけた。
なんか汗かいちゃった……。
これがジャグジー?
ジャグジーって、要するに水浴びの場所、ってことなんだよね……?
でもなんか、ここ豪華過ぎて落ち着かない……。
白くて綺麗な大理石がいっぱいで、なんか黄金でキンキラで、ちっちゃな宝石みたいなのも散りばめられている……。
「ロベールはアンタの気を引きたいんだよ」
「フィーは目がつぶれそうなのです……豪華過ぎて……」
入ってみようかなって迷ってると、ゲルタさんとフィーちゃんがやってきた。
2人の顔を見たら凄くホッとした……。
ご飯は美味しいけど、何もかもが別世界だったから……。
「なんならあたいと部屋を交換するかい?」
「い、いいのっ!?」
「あっはっはっ、冗談だよ。もうちょっとすりゃ、あの姫さんもくるんだから落ち着きな」
「うん……そうだね……って、なんで脱いでるのーっ!?」
「そんちょーさんの病気、伝染ったですかーっ!?」
病気って、フィーちゃん……。
すっごく迷惑ではあるけど……。
「せっかくのバカンスさ、楽しもうじゃないか」
「お……おわぁぁ…………」
お、おっきい……。
すごくおっきいおっきい……。
同じ生き物とは思えないくらい、おっきいなぁぁ……。
「触るかい?」
「い、いいですかーっ!?」
ゲルタさんは本気にしたフィーちゃんを笑って、ジャグジーに入って大の字になった。
「取り合えず入んなよ。ホリンに汗臭いって言われてもいいのかい?」
「言ったらパンチしますっ、さすがに!」
誰よりもバカンスを満喫するゲルタさんの姿を見ていると、なんだか肩の力が抜けていった。
豪華で綺麗だからって、水たまりは水たまり。それにアッシュヒルの湖の方が綺麗だ、絶対!
あたしとフィーちゃんは服を脱いで、ゲルタさんの左右にちっちゃく収まった。
「もっと足広げなよ」
「広げませんよぉーっ!」
「あたいはアンタたちのおしめを換えてやったこともあるんだよ? 今さら何を恥ずかしがるのさ」
「全部ですっ、全部恥ずかしいですっっ!!」
「でもでも、ジャーグジーって、気持ちいいのです……」
それはそう。あたしは冷たく気持ちのいい水に浸りながら、サマンサの空を見上げた。
昼間から働きもしないで、あたしは何をやっているんだろう。
お店、大丈夫かなぁ……。
村のおばさんたちがロマちゃんと一緒に、どうにかしてくれるって言ってたけど……心配……。
まさか今ごろ火事になったりしてないよねっ!?
「ソフィー……修行しなくて、いいのでしょうか……」
「あたしもお店が心配……」
「アンタたちねぇ……。旅行の間はそういう話およし。あたいだって店が心配になるじゃないかい」
と言いながら、ゲルタさんは足であたしの足を引っかけた。
「え、なんです、え……っ!?」
「もっと足開きな。人の目なんて気にすんじゃないよ」
「こ、こここっ、困りますぅーっ!」
「ここなら誰もこないよ、ほらっ」
「そういう問題じゃありませんよぉーっっ!?」
「はわわ……っ、ソフィーはそろそろ、退散するのです……わぁぁぁっ!?」
あたしとフィーちゃんとゲルタさんは、おっきなジャグジーで足を大きく広げて、最高級のお部屋を満喫した。
気持ちいい……。
でもお仕事したい……。
仕事や修行から離れられないあたしたちに、いつだって面倒見のいいゲルタさんは、リゾートの楽しみ方を教えてくれた。
ちょっと強引に……。