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・ただのパン屋、超VIP待遇される - 保養地バランシア -

 向こう側の大陸が見えてきて、サマンサの港が肉眼でわかるくらいになると、テレポートの魔法は船を海面に降下させた。


 まるで水切り遊びみたいに、船は海面の上を何度も跳ねた。

 だけどテレポートの魔法の力があたしたちを守ってくれて、吹き飛ばされたりすることはなかった。


「ぬおおおおおおーーっっ?!!」


 恐怖のあまりに腰を抜かす人たちが続出したけど……。


「はっ、情けない連中だねぇ」

「酒場の姐さん、アンタ女海賊に向いてるぜ」


「嬉しいお言葉だけど、あたしゃ丘の上で男を待つ方が性に合ってるのさ」

「そうかぁ? 俺の目にはそうは見えねぇなぁ」


 とにかくだけど、テレポートとユリアンさんの海賊船は、無事にサマンサの港にあたしたちを送り届けてくれた。


 途中で勢いが鈍ってしまって、人と荷物でいっぱいの船が港に接岸できたのは、海面に下りてからだいぶ後になったけど。


 だけどその辺りことは割愛して、あたしたちはカラッと暑い南国の国、サマンサの大地を踏んだ。

 桟橋の向こう側には、サマンサの兵隊さんたちが整列して、あたしたちに凄く大げさな最敬礼で迎えてくれている。


「はわわわっ、ソフィーたち、何もしてないですよーっ!?」

「別に俺たちを捕まえにきたわけじゃねーよ。ようっ、久しぶり!」


 ホリンとユリアンさんがその兵隊さんの前に向かってゆくと、なんかどこかで見た顔が前に出てきて二人を迎えた。


 えっと、あれは確か……。

 この前もベルさんに付いてアッシュヒルやってきた……えと、グナイシオ、将軍、だっけ……?


「スイセン王国からの援軍感謝いたします。我が君ロベールは皆様の来訪を感謝、歓迎しております。ようこそ、サマンサへ」

「堅苦しい話は城で頼むぜ。俺らは赤鹿海賊団は、この件で既に十分元取ってんだ、気にすんなって」


 ユリアンさんはホリンの頭を子供扱いして叩いて、ホリンはそれをうっとうしそうに追い払った。


「おいコムギ、俺たちは城に行く。お前らは先に休んでてくれ」

「え、あたしはいいの……?」


「こない方がいい」

「あの城には歳食った毒蛇がいるからなぁ……。一足先にバカンスを楽しんでてくれや、お嬢ちゃん」


 段取りがもうそういうふうに決まっていたのかな……。

 そこにイベリスちゃんとインスさんも加わって用意された馬車に乗ると、彼らは兵隊さんたちに護衛されて出立していった。


「アッシュヒルの皆様はこちらに。ロベール王は皆様への日頃の感謝を込めて、我が国自慢の保養地バランシアにご招待いたします」


 海賊さんたちはこれから積み荷の搬出があるんだって。

 残されたあたしたちただの村人は、それぞれ4頭立ての立派な馬車に乗せられて、サマンサのあの防壁の方に運ばれた。


 防壁を抜けた馬車は港町サマンサを出て、広い荒野を走る街道を右手に曲がった。

 するとその向こう側に、緑のある海辺の町が見えてくる。


 昔、この辺りであたしたちは刺客に襲われて、ベルさんとわたしは金鉱山の地下に飛ばされてしまった。

 あの時出会った骨のお化けをやっつけるのが、あたしたちのメインストーリーだ。


 ただしそれはいつになるかわからない。

 あたしの来訪がきっときっかけになると、そう攻略本さんは推測している。


「わーっ、あんな町あったんだぁ……」

「バランシアは美しい町ですよ。あまり大きくはありませんが、必要な設備や店は全てそろっています、コムギ様」


 一番豪華な馬車に、あたしとグナイシオ将軍と2人で乗っている。

 なんかあたし、特別扱いみたい……。


「えーっ、そんな呼び方されても困るよーっ!? グナイシオさんだって、グナイシオ様って言われたら困るでしょっ?」

「それはそうなのですが……。しかし一言だけ言わせて下さい。私はグナイシオではなく、イグナシオという名です」


「あ、あれ……? ご、ごめんなさいっっ!!」

「いえ、こちらこそ長い名前で申し訳ない」


 やって来て早々やっちゃった……。

 申し訳なくてあたしはそれっきり言葉が出てこなくなってしまった。


「早馬を出して昼食の準備をさせております。味は期待してよろしいかと」

「本当っ!?」


 やったっ、ご飯っ、ご飯っ!

 早起きしてよかったーっ、あたしもうお腹ぺこぺこ!


「ロベール陛下は、サマンサ最高級の食事でもてなせとのご命令です。皆様は最高の国賓にして、援軍であると」

「さ、最高級っ!?」


「はっ。またコムギ様とイベリス姫には、特一等の客室を『ロベール陛下が』ご用意いたしました」


 なんか今、ベルさんのことを凄く強調したような……。


「ご覧下さい、コムギ様。これが保養地バランシアの中央公園です」

「わぁっ、かわいいお花!」


「アレはマグノリア。別称、モクレンですな」

「へーーっ、おっきくてかわいいお花!」


 あたしはマグノリアの花の木や、見たこともない南国の木々に囲まれた公園を抜けて、大きな宿泊地に運ばれた。


 白くて綺麗な大きな建物と、大理石の穴に作られた水たまりと、いくつもの小さな建物が広い庭園の中にある。


「バランシアホテルへようこそ。『ロベール陛下はコムギ様のために』当ホテルを貸し切りになされました」

「そ、そうなんだ……」


 もしかしてそう言えって、ベルさんに指示されてたりするのかな……?


「コムギ様がサマンサに滞在して下さるなら、『ロベール陛下は』いつでも最高級のもてなしをすると言っておられます」

「あの……もしかしてそう言えって、ベルさんに言われて、たり……?」


「いや、自分の判断です。ロベール陛下は、コムギ様と出会って成長なされた。自分はホリン殿よりも、ロベール陛下をおすすめいたします」


 こ、困る……。

 気持ちはわかるけど、なんて返せばいいのかわからないし……。


 それにあたしとベルさんって……。

 たぶんだけど、きっと、再従兄弟(はとこ)だ……。


「ホリンも好ましい男ではありますがね」

「え、そう……?」


「情に厚く公平。同性から見ると、そこが彼の美徳ですな。品位には欠けますが、なかなか頼りがいのある男かと」

「うん……いつもなんだかんだ、助けてもらってるのは、本当かも……。あっ、お花畑!」


「すぐそこがホテルのエントランスです。馬を止めろ、コムギ様が降りられる!」

「お、大げさだってば、もーっ!」


 馬車の扉が開かれると、あたしはすぐそこのお花畑に駆け寄った。

 お花畑の前にはおっきな建物があって、それがホテルっていう宿泊場所らしい。


 何もかもが色鮮やかに映る南国の日差しの下で、白い花弁でいっぱいのお花畑が風にそよいでいた。


 それとなんか、美味しそうな匂いがする……。

 後続の馬車がやってきて、フィーちゃんがあたしの隣にやってくると、フィーちゃんも匂いに気付いたみたい。


「お花綺麗! なのですけど、お腹、すいたのですよ……」

「オ、オレ……ここ、落ち着かない……」

「うむ、ダンよ、ワシもじゃ。ここは一つ、ワシの筋肉でも見て、心を落ち着かせるがよい……」


「い……いら、ない……。ぬ、脱がない、で……っ、人、前……っ」

「止めるな、ダンよ! こんな立派な場所っ、脱ぐがねばやっておられぬわーっっ!!」


「ダ、メ……ッ。ここ、アッシュヒル、違う……っ!」


 いきなり上着を脱ぎだす村長さんと、それを止めようとするダンさんの、静かな戦いがあった。


 だけどそれは見なかったことにして、あたしたちはホテルの食堂へと、フィーちゃんと並んでエスコートされていった。

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