・いざ黄金郷へ! - 天翔る海賊船 -
人と荷物でいっぱいの海賊船は、あたしたちが体験したあの快速が嘘のような鈍足で港をゆっくりと出航した。
あの日乗せてもらった時よりも左右の揺れが激しくて、あたしはついつい……隣にいたホリンにしがみついちゃってた。
「大丈夫か? 恥ずかしがってないでしっかり掴まってろよ?」
「は、恥ずかしがってなんていないってばーっ!」
ホント、ホリンは一言余計!
『恥ずかしがってないで』を抜いてくれたら、やさしくてカッコ良かったのに……。
「文句があるならユリアンとイベリスに言えよ」
「え、なんで……? ひゃっっっ」
高波に船がまた揺れて、あたしはホリンの胸に飛び込んでいた。
恐る恐る視線を上げると、ホリンはまるでお兄ちゃんみたいにあたしのことをやさしく見つめている。
そういえば小さい頃のホリンって、すっごくやさしかったな……。
今は対等だけど、昔はよくこういうお兄ちゃんの顔であたしのことを見ていた。
「金儲けだよ、金儲け。あいつら、ありったけの交易品を船に積んでいやがった。俺にサマンサまで運ばせて、売りさばくつもりだ」
「あはは、なんだ、そういうことなんだ! ユリアンさんもイベリスちゃんもちゃっかりしてるね!」
「笑い事じゃないっての。転覆してもしらねぇぞ、あいつら」
「いいじゃん! 商売のことはわかんないけど、ホリンががんばればそれだけイベリスちゃんのハンバーガーが美味しくなるんだよ! 損ないよ!」
そうあたしが伝えると、ホリンもイベリスちゃんとインスさんの力になりたかったのか、『まあそう考えると悪くないか』って言って笑った。
「おいホリン、そろそろアレの出番だ。彼女とイチャ付いてねーでやってくんな。俺たちの大豪遊のためにな!」
「お前らいくらなんでも積み込み過ぎだってのっ!」
あたしたちの船旅はもうちょっとで終わる。
海賊さんたちが甲板の人たちに、船の中央に集まるように誘導して、安全が確認させるとその時がきた。
「先に言っとくけど、腰抜かすなよ、爺ちゃん」
「ぬわっはっはっはっ、空など飛び慣れておるわっ!」
「んなわけねーだろっ! じゃ、いくぜっ、舌噛むなよ、お前らっ! ……高速移動魔法、テレポートッッ!!」
ホリンのくせに何カッコ付けてるんだか。
そう最初は思ったんだけど、あの青白い光が船全部を包み込むと印象が変わった。
ホリンのテレポートの魔法は、荷物と人でいっぱいの海賊船を空中に浮かび上がらせて、そして――
「くっ、高度が上がねぇ……っ、こうなったらこのまま行くぞっ!」
「えっ、この高さでっ!?」
「スリルがあっていいじゃねぇか! やってくんなっ、小僧!」
「ホリンだっつってんだろ!!」
海面から4,5mくらいしか浮き上がっていないのに、ホリンはこれ以上の上昇を諦めて、空飛ぶ船を発進――ううん、発射させた!
「ぬおおわああああああーーっっ?!!」
すると凄い勢いで白い雲が流れていった!
沢山の人が悲鳴を上げて、一番声の大きな村長さんの叫びが甲板にとどろいた。
普通にしていられたのはあたしと、ホリンと、フィーちゃんと、ユリアンさんくらいだった。
「ご来船の皆様、もう普通に歩き回って大丈夫だぜ。ホリンの野郎がヘマしねぇ限りな」
「プレッシャーかけんなってのっ! そもそもお前らが荷物積み込み過ぎたからっ、こうなってんだろがっ!」
「口の減らねぇ小僧だ。次は船二隻で頼むぜ」
「海賊なら自分の力で航海しろよっっ!?」
どうやらしばらくは大丈夫そうだ。
甲板のみんなはそう気付くと、みんなの興味は嵐のように流れゆく白雲と、どんどん遠くなってゆく陸地と、風圧が海面に描き出す船の軌跡に集まっていった。
「ぬ、ぬは……ぬはは……っ、さ、さすがはこのワシの孫じゃ……! じゃが、ちと……手を貸してくれるかのぅ、ムギちゃんや……」
ちょうど近くにいたユリアンさんと一緒に村長さんを助け起こすと、そこにはちょっと震えながらも嬉しそうにしている村長さんの姿があった。
「飛び慣れてるんじゃなかったのかよ、フィーの方がまだ度胸あるぜ」
「わしゃ老人じゃぞっ! 少しは労れいっ、バカ孫めっ!」
海賊船は空を――ううん、海面の少し上を滑るように翔けて、あたしたちを海の向こう側の世界へと運んでいった。