・男だけの旅 - きゃばくらって何? -
ただ、人払いを願ったはずのその席には、予定外の人物が同席することになっていた。
「貴方が噂の大魔法使いホリンね……。うふふ、会いたかったわぁ……とっても……」
「ど……どうも、ロベールくんの友人の、ホリンです……」
場所は王族たけが近付けるお城の最深部、禁裏と呼ばれる場所にある庭園。
そこにベルさんのお母さんが現れてしまった。
「海賊ユリアン、貴方もお久しぶり」
「お久しぶりだ、前皇后。しかし悪ぃが、この話は――」
「わたくしのロベールと、貴方たち2人を一緒にさせるわけにはいきませんわ。そうね、そこのホリンを借りていってもよろしいかしら?」
「い……っっ?!!」
「しょうがねぇ、持っていきな」
「ちょっ、勝手なこと言うなってのーっっ?!」
「うむ、詳しい話はユリアンから聞こう。だが母上、ホリンは我の友人、おかしなことをしたら喩え母上であろうとも――」
「まあ恐い、そういうところは誰に似てしまったのかしらね……? さ、ついてらっしゃい、ホリン」
「う……うす……っ」
ホリンは恐いと評判のベルさんのお母さんに袖を引かれて、庭園を離れて居間へと連れ込まれたんだって。
どんな人だった? ってあたしが聞くと、笑っているのに目が笑っていない人だったって、そう言ってた……。
「田舎のなんの後ろ盾もないただの娘。しかも異種族エルフが伴侶では困るの。教養のない貴方にも、それくらいはわかるでしょう、大魔法使い様……?」
「そんなことはないです。コムギは確かにバカだけど、どっかの誰かさんより、よっぽど母親に向いている人ですよ」
話の内容は教えてもらえなかった。
わかっていたけど、凄く嫌な人だったって言ってた。
「まぁ、男ってどうしてこうバカなのかしらね」
「バカで結構です」
「よくお聞きなさい。私のロベールと、貴方のコムギの関係を、邪魔してあげると言っているのよ?」
「余計なお世話です。そんなこと言ってると、しまいにはベルさんもキレますよ?」
「それは困るわ。そう困るのよ……。コムギとかいう田舎者が現れてから、あの子は私の言うことに逆らうようになったの……」
「それはきっかけがコムギだっただけでしょう。ロベールなら遅かれ早かれ、親離れしていたはずです」
それとホリンは言っていた。
ベルさんがあんな人の腹から産まれたのが信じられないって。
あんな親を持つことになったベルさんがかわいそうだって。
あたしに言っても仕方ないのに、やたら熱くなってた。
「バカね、本当にバカ、おバカさんなのね……。恋敵を意中の相手のところにエスコートするなんて、本当におバカな大魔法使い様……」
「なんと言われようと指図は受けないです。それよりもそっちこそ子離れしたらどうですか、オバさん」
ともかくホリンが嫌な人の相手をしている間に、ユリアンさんがベルさんに計画の段取りを伝えてくれた。
やっと前皇后から解放されたホリンは、疲れ果てた足取りで庭園に引き返した。
「戻ったか、ホリン。その様子だと、母が迷惑をかけてしまったようだな……」
「お、おう……。俺……あの人、苦手だ……。考え方が合わねぇっていうか、何一つ理解できねぇ……」
「母に何を言われたのだ?」
「俺とコムギが邪魔だってよ……」
「邪魔なものか。お前は我の親友だ、ずっとここに居てくれても構わない」
「嫌なこったっ、早くこの城を出てたいっての、俺はっ! なんなんだよ、あの人はっっ?!」
ホリンは怒り心頭でユリアンさんとお城を出て、ロランさんの待つ海賊船に戻った。
そして夜になると船にやってきたベルさんと合流して、ロランさんを残して3人は夜のサマンサに繰り出したそうだ。
・
「へーー。ででっ、ユリアンさんとベルさんと、どんなお店に行ったのーっ!?」
「え……っ?! な、なななっ何もっ、何も何も普通の店だってのっっ!!」
ホリンがしてくれた旅行話は、こうして聞いていると凄く聞き応えがあった。
やっぱりあたしも一緒に行けばよかったと思うくらいに、聞いているだけでワクワクした。
でも男同士の旅に女のあたしは邪魔かな……?
「なんでそこでドモるの……?」
「し、知らねぇ……っ、俺はどこにもっ、どこにも連れて行かれてねぇ……っっ!」
「あやしい……」
ユリアンさんに、どんなお店に連れて行かれたんだろ……。
もしかしてあたしが一緒に行ったら、邪魔になるようなお店……?
「と……とにかくっ、出発の日が決まったからっ、後はみんなでモクレン港に集まってっ、船ごとあっちに飛ぶだけだからなっ!?」
「いつ?」
「8日後! 行きはモクレンまでみんなで徒歩だからなっ、早起きしろよっ!」
よっぽど後ろめたいことでもあるのか、ホリンは要点だけ伝えると、逃げるようにうちの店を飛び出して行った。
そんなホリンの後ろ姿を、あたしは窓辺に寄って丘の上に消えるまで見守った。
あと8日待てば、サマンサ旅行が始まる。イベリスちゃんともまた会える。
ハンバーガー屋さんの準備の話、たくさん聞かせてもらおう!
はぁ、開店が楽しみだなぁ、ハンバーガー屋さん……。
『ホリンのことは大目に見てやってくれ。私も以前はユリアンに、あちこち連れ回された経験がある……』
あたしがホリンのことを心配しているのかと勘違いしたのか、攻略本さんが声をかけてくれた。
「ほんとっ、ユリアンさんとどんなお店に行ったの!?」
『……薄着の美人が、酒を注いでくれるような店だ』
「へーー。なんか、普通……?」
なんでホリン、そんな面白いことをあたしに隠したがるんだろう……?
『ホリンは君が嫉妬すると思ったのだろう』
「なんで? あたしも綺麗なお姉さんと遊びたい。お酒は好きじゃないけど」
『ならばホリンを誘ってみるといい。一緒にキャバクラに行こう、と言ってみるといい』
「きゃばくら、って名前なんだー? うんっ、じゃあそうしてみるっ!」
それが攻略本さんの冗談であり、ホリンへのちょっとした意地悪だと気付いたのは、その日の夕方のことだった。
・
「い、いいいっ、いかねーよぉーっっ?!!」
「あははっ、恥ずかしがらなくてもいいのに!」
あたしにきゃばくらに誘われて困り果てるホリンの顔が、あたしには凄く面白かった!
サマンサ旅行、楽しみだなぁ……!