・男だけの旅 - 海賊船 -
翌朝、ホリンはモクレンの西門を出て、付近の小高い丘に登った。
そしてあのすっごく楽しい魔法、テレポートを使って天翔る流星となった。
行き先は海の彼方。
でも陸地ではない。
海を進む海賊ユリアンの船を目指して、テレポートの魔法はいつかの日よりも海を低く翔けた。
「てっ、敵襲っ、敵――あっ、ああ……っっ?! お、おまっ、ホリンじゃねーかよぉっっ!?」
「てぇへんだおかしらぁーっっ、ホリンとロランの兄貴が空から降ってきやしたぜーっっ!!」
きっと凄い迷惑かけたんだろうな……。
まさか航海中の船に、空から人が飛んでくるとか思わないもん……。
「はぁっ、テメェらご禁制品に手ぇ出したんじゃねぇだろなっ!? いくらあの野郎でも、海のど真ん中に――い……居やがる……」
赤い髪に鷹のように鋭い目をしたカッコイイおじさん、ユリアンさんはホリンたちの姿を見て、しばらく立ち尽くすことになったそうだった。
「どうもお久しぶりです、ユリアン。我々アッシュヒルの民は、あの日の救援を今でも恩義に感じています」
そう、みんながユリアンさんたち海賊に感謝している。
ロランさんはあたしのパンが詰められたバスケットを、ユリアンさんの前まで行って差し出した。
「……ありゃ、あのお嬢ちゃんはいねぇのか? おいホリン、ついに振られたか?」
「失礼なこと言うなってのっ、ただの別行動だよっ!」
「へぇ……ホントかねぇ? あのくらいの歳の子は、他の男にコロッといってもおかしくねぇぜ?」
「コ……コムギはそんなんじゃねぇっ!」
「ハハハハッ、おいおいなんだよ、身に覚えでもあんのかっ!?」
「ユリアン、純情な若い者をそうからかうものではありませんよ。それよりもこれを」
ロランさんはスイセン国王からの書簡をユリアンさんに渡した。
するとユリアンさんは、途端に顔付きを変えていたんだって。
だってユリアンさんにとって、スイセン王家は特別な存在だから……。
「陛下からか。はっ、つくづく人使いの荒いお人だ……。ま、おかげでこっちは荒稼ぎさせてもらってるがな」
「協力願えますか、ユリアス提督」
「はぁ? そりゃ誰のことだ? 俺たちゃ自由気ままな独立愚連隊、赤鹿海賊団だ」
「そうでしたね」
えっとそれとね、なんかよくわかんないんだけど……。
ホリンが言うには、ユリアンさんは正確には海賊じゃないんだって。
海賊だけど、正しくは国王の許しを得た『しりゃくせん団』ってやつなんだって。
「そういやおめぇ、前王と交流があったな……」
「ええ、ユリアスという男とも間接的にいくつか」
「……あんときゃ、悪かったな。俺が身内の計画を知ったのは、全てが終わった後だった」
それとなんか、ロランさんとユリアンさんの間には込み入った事情があったんだって。
「今もなお忠義を尽くす貴方を誰が責めるのです」
「さてな、知らねぇ話だ」
2人はその日を海賊船の手伝いをして過ごして、翌朝になるとまたテレポートを使った。
行き先はモクレン港ではなく、まだまだ海原の彼方のサマンサ港。
運ぶのはロランさんだけではなくて、海賊船丸ごと、一隻!
ユリアンさんの海賊船は、ホリンのテレポートで空を翔けた!!
海の上を低空飛行していた海賊船が、モクレン近海やってくると海面に落っこちて、港まで凄いスピードで進んでいったんだって!
「ホリン……おめぇ、やっぱうちの船に永久就職しろ……」
「へへへ……やってみるとすげぇ面白いな、これ……っ!」
海賊さんたちはユリアンさん以外みんな、腰を抜かしてたんだって。
「転覆するか港に激突するかと、私の方は冷や汗ものでしたよ……」
「なぁっ、海賊になっちまえよ、ホリンッ! お前がいればどこにでも行けるぜ!」
「たまになら手伝うけど、今は忙しいから無理だって」
「つまりいつか手伝うってこったな!?」
「おう、世話になってるし、一応考えとくよ」
「こりゃボロ儲け間違いなしだ! そんときゃ頼むぜ!」
こうしてホリンは、同行できないロランさんを船に残して、ユリアンさんと一緒にサマンサの王宮を訪ねた。
ユリアンさんもホリンもお城の衛兵さんに顔を覚えられていて、すぐにベルさんのところに通してもらえたそうだった。
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