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・男だけの旅 - スイセン王 -

 みんなで力を合わせて運命をねじ伏せる。

 攻略本さんのこの作戦を実行するには、1つだけ問題があった。


 それはみんなのスケジュール。

 サマンサの運命とあたしたちの目的をちゃんと伝えた上で、同意を取り付けて、それぞれの予定をすり合わせなければいけなかった。


 なんでも攻略本さんの話によると、金鉱山の事件は、スイセンを救った勇者がサマンサを訪れることで発生するんだって。


『じゃああたしがサマンサに、一生行かなきゃいいんじゃ……?』

『いや、放置は賢明ではない。メインストーリーが予測可能なうちに対処するべきだ』


『えっと……。よくわかんないけど、つまりあたしがあっちに行ったら、事件が起きるってことだねっ!』

『うむ、頼りにしている。あの悲惨な事件――いや災厄を止められるのは君だけだ』


『ううん、そこはあたしたちだよっ、攻略本さん!』


 だけどあたしはただのパン屋だから、説得とかスケジュール調整みたいな交渉ごとは苦手……。

 だけどうちの村には、そういうのが凄く得意な人がいたんだった。


 それは――



 ・



「これは驚いた……。もしやそなたは……」

「お久しぶりです、王子殿下。いえ、今はスイセン王でしたか」


 元国王にして、若い頃から旅好きの外交官だったロランさん。

 もちろん、テレポート使いのホリンもロランさんの従者ムーブでそれに同行していた。


 それはロランさんが協力を訴えてくれた翌日のことだった。


「人が悪いぞ、勇者ホリン。まさか失踪したロラン王を連れてくるとは……むぅぅ、まったくそなたには驚かされる……」

「申し訳ありません、陛下。でもロランさん――ロラン王には事情があるんです」


 後で聞いた話によると、ロランさんは先代のスイセン王ととても親しかったみたい。

 わたしのお父さんって、本当に王様だったんだって、ちょっとビックリだ……。 


「祖国の不毛な政争を終わらせるためには、私が王位から消える必要があったのです。リシェス――リシェス皇后にまで人払いを求めたのは、そのためです」

「そなたが生きていると知れば、妻のリシェスも、亡き兄も喜ぶだろうに……」


「申し訳ありません。私の祖国は、貴方が思う以上に面倒な国でして」

「して、それだけの事情がありながら、なぜ今になって姿を現したのだ……?」


 それは正史の物語をなぞるため。

 そうした方が正史通りの展開になりやすいだろうと攻略本さんが言うので、あたしたちはあるべき物語をなぞることにした。


「スイセン王よ、勇者ホリンをサマンサ王ロベールに紹介してはいただけませんか?」


 正史の世界で勇者ホリンは、スイセン王の紹介状を持ってサマンサ王を訪ねた。

 だから正史通りにするために、わたしたちにはスイセン王の紹介状が必要だった。


「ははははっ、それはなんの冗談だ? それならばロラン王本人の書簡でよかろう」

「そうもいかないのです。少し長くなりますが、どうか私の話を聞いて下さい。とても信じがたい話でしょうが、しかし貴方にも身に覚えのある話のはず。実は、この世界は――」


 出発前、ロランさんと攻略本さんは話し合った。

 そして出された結論は、スイセン王にこの世界の真実を明かして協力を求める道だった。


「この世界が物語……? ははは、にわかには信じがたいぞ、ロラン王……」

「そこは深く信じなくともかまいません。重要なのは、勇者ホリンであった存在がこの過去の世界へと戻り、我々に未来を予言してくれているという、事実のみです」


「そのために我はサマンサ王への茶番じみた書簡をしたため、あまつさえ、大事な娘を危険な旅に出せと……?」

「イベリス姫の参戦は正史での事実、彼女の存在は必要不可欠です」


 イベリスちゃんは勇者ホリンの最初の仲間。いないと物語が崩れてしまう。


「ロラン王よ、あの子はスイセン王家の宝。その要求だけは飲めぬ」

「しかしお考えを。仮に拒めば、彼女は自らの意思でこのスイセンを飛び出してしまうのでは?」


 同行者ホリンが言うには、その言葉が決め手になったそうだ。

 スイセン王は疲れ果てたように顔を覆って、深いため息を吐いたって。


「よかろう、それももっともだ……。して他に、必要な物は……?」

「出資を。海賊ユリアンを動かしたいのです。返礼は後ほど、ロベールから支払わせるとお約束しいたます」


 それとロランさんがベルさんの名前を出したときの声の響きが、凄く誇らしげだったとも。

 ロランさんにとって、立派に成長したベルさんは誇りだった。


「ならば我が国の近衛兵も動かそう。娘の護衛にも必要であるからな……」

「ありがとうございます、このロラン、このご恩は忘れません。……ではこの話を、イベリス姫にしてもよろしいのですね?」


「好きにせよ……。あれはもう、我の手には負えん……。ホリン殿とコムギ殿と出会って以来、あの子は恐るべき活力に満ちあふれておる……」


 へへへ……。


「それは俺じゃなくて、コムギの影響だと思います」

「ええ、彼女ほど人を前向きにさせる女性はいないでしょう。コムギさんは我々アッシュヒル民の自慢です」


 こうしてロランさんとおまけのホリンは、スイセン王の協力を取り付けた。

 突然にコムギのことを誇りだすロラン王の姿に、スイセン王はいぶかしんでいたそうだ。


 けどパン屋コムギのパンが献上されると、とても嬉しそうな笑顔に変わったって、そうホリンが教えてくれた。


更新が遅れてすみません

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