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・俺たちはずっと親友だ - ロベールとホリンのロマンチックな夜 -

 超速度の空の旅を終えて、サマンサ王国の都市外壁に着陸した。

 そこにはあのイグナシオ将軍が俺たちを待っていた。


 彼は前王ロラン派だったが、今は両派の橋渡しになってくれている。

 ベルさんを通じてアッシュヒルの秘密を既に知っていた。


「ホリン殿、()の方はお変わりないか?」

「誰のことです?」


「今度、お暇な時にでもお相手願おう。その懐かしい剣術を見ると胸が躍る」

「いいですよ。じゃ、俺いつもの買い物に行くので」


「荷運びの者を手配しておいた。前回同様、この防壁に必要な物資を集積するといい」

「助かります。それじゃ兵士さん、遠慮なく借りていきますね」


 ベルさんと別れてサマンサ市街へと向かった。

 徒歩で1人ではなく、ホロ馬車と男手を頼れるのはかなりありがたい。

 まったくイグナシオ将軍様々だった。


「じゃ、早速頼むぜ。毎度のことだけど今アッシュヒルでは物資が足りなくてな、今回は石材も買い付けたいんだ」


 ベルさんからの誘いが果たされるかはわからなかったが、夜にアイツと遊ぶ約束を楽しみにして、サマンサでの取引に専心した。



 ・



 で、ベルさんとの約束がどうなったかというと、まあどうにかなった。

 夕飯時を過ぎた遅い時間になってしまったが、ベルさんは約束通りに城下町の宿にやってきてくれた。


「フ……フフフッ、終わらせて、きたぞ……全てとは、言えぬがな……」

「おいおい、ロベール大丈夫かぁ……?」


「楽しみにしていたのだ、お前と遊ばせろっ!」

「ははは、それじゃ腹ぺこなんで、まず美味い飯屋を教えてくれ」


「うむ、任せよ」


 と言いながら、誰かがこの日のために書いたらしき緻密な地図をベルさんは取り出した。

 普通に人を頼るところがさすがの王様だった。


 俺たちは美味くてまあまあ安いと評判のパスタ屋に寄って、チーズと卵黄を使ったカルボナーラってやつを食べた。

 初めて食べる味だけど、これが結構いけた。


「サマンサのチーズもなかなかやるもんだな」

「輸入品だ」


「そ、そっか……」

「ここで食べられる大半の食材は、海を越えてやってくる。サマンサは土地があまり豊かではない。それでも諦めずに畑を耕す農民たちのために、何かしてやりたいのだがな……」


「ベルさん、そのセリフはちょっと庶民らしくないと思うな」

「む……っ、すまん……」


 俺はカルボナーラが気に入ってしまった。

 材料からしてアッシュヒルでも作れそうだし、今度ゲルタのおばちゃんに頼んでみよう。


 遅い夕飯を終えると店を出て港の方へと歩いた。

 ベルさんと酒場に入ってみるのもいい。


「ベルさん。……ベルさん?」

「あ……すまん、なんだ……?」


「ベルさん、メチャクチャ疲れてるみたいだな。そこのベンチでちょっと休まないか?」

「……悪い、すまんが、そうしたい気分だ」


 ベルさんと木陰のベンチに腰掛けて月夜の海を眺めた。

 それが普通に奇麗でロマンチックだった。


「フ……男同士で楽しむような風景ではないな」

「そんなことないって。男同士でも乙なもんでしょ」


「フフ……まあ、そうかもしれんな……ふぅ……。しかしなかなか、兄探しと政務の両立は大変だ……」

「だろうな……」


 少し、罪悪感を感じた。


 善意のつもりだったけど、俺やっぱり余計なことしたかなって。

 コムギのやつもロランさんの味方するし、引っかき回しただけなのかな、俺……。


「兄はなぜ会ってくれないのだろう……。我のことが、嫌いになったのだろうか……」

「それは絶対違うって!」


「ほぅ……なぜそう言える……?」

「そりゃ……」


 本人がお前を陰からジッと見つめてるくらいだし。

 なんて言えないよなぁ……。


 いや、言うべきか?

 ロランさんに怒られること覚悟で、ベルさんに伝えるべきか?


 けどそれは、俺とロランさんの男同士の情に反するよなぁ……。


「コムギも、お前も、人ができているな……。アッシュヒルの人々は皆善良だ。兄が隠居先に選ぶのもよくわかる」

「まあそこは、アッシュヒルのみんなは一蓮托生だからな。田舎じゃ、人を裏切ったら自分の立場も危うくなるし、まあ土地柄ってやつじゃないか?」


 俺はベルさんの肩を叩いて励ました。

 友達なら相手が王様でもギリギリで許される。……よな?


「今夜、お前のところに泊めてくれないか……? 城まで歩いて戻る気力がない……」

「なら酒でも買って、部屋で飲むっていうのはどうだ?」


「うむ、悪くない……」

「あ、それと――」


 ロランさんには軽薄なやつだと思われしまうかもしれないが、やっぱり俺、このままじゃいけないと思う。

 ロランさんはベルさんと会うべきだ。


 余計なお世話だと言われようとも、政治とかそういうのは抜きにして、会うべきだ。


「なんだ? ずいぶんと間が長いぞ……」

「ロベール、ロランさんのことだけどさ……」


 そう切り出すと、だるそうにしていたベルさんが背筋を伸ばして俺を真っ直ぐに見た。


「村の東に、塔が見えるだろ? ロランさんな、お前がくるとあそこに隠れる」

「そうか……やはり、あそこだったか……」


「中に居るときに押し掛ければ、いくらロランさんでも逃げ道はない。会えると思うぜ」


 仁義を捨てて居場所を教えてやったのに、ベルさんは何も答えなかった。

 彼は銀縁眼鏡を外して、まただらしなくして星空を見上げた。


「それではお前が兄上を裏切ったも同然だろう」

「ああ。けど弟子が師匠に反抗したって、別にいいじゃないか」


「いや、お前の気持ちは嬉しかったが、我は兄上を待つことにする……。我は……ただ兄上に会いたいだけだ。王位の譲渡など言い訳だ。失踪してしまった兄上に、我はもう一度会いたい……」


 会いたいなら会いに行けばいいのに、そういうところがベルさんはロランさんに似ていた。


「なんか美味い物でも買って帰ろうぜ。部屋でだらだらしてりゃ、迎えもそのうちくるだろ」

「すまん……。次は体調を整えておく……おっと……っ」


 ベルさんの手を引っ張って立たせると、肩を貸して夜の町を引き返した。

 潮風の匂いのするサマンサの夜は、アッシュヒルではもうじき晩秋だってのに暖かかった。


「ロベール。どっちがコムギをものにしても恨みっこはなしだぜ。俺たちはずっと親友だ」

「ああ、我も同じように思っていた。我らは友だ、ホリン」


「コムギは渡さねーけどな」

「それはこちらのセリフだ。母上を謀殺してでも手に入れる」


「いきなり怖ぇぇよっ!?」

「ハハハハハッッ!! 冗談だ……」


 冗談に聞こえねぇ……。

 俺とベルさんは友情を確かめ合い、夜遅くに宿の部屋へと城の者がやってくるまで夜を楽しんだ。

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