・俺たちはずっと親友だ - 音速下で交わされる男の友情 -
・男爵令息ホリン
テレポートでサマンサを訪ねるたびに、ベルさんは無理をして一泊二日の予定を空ける。
俺はサマンサに滞在して、その翌日にベルさんをアッシュヒルに連れて行く。
ベルさんはいまだにロランさんに会えていない。
これで3回目の来訪になるもまた空振りで、俺はベルさんを連れてテレポートを発動させると、スリリングで長い空の旅に出た。
「慣れてくるとこれが病み付きだ。ホリン、お前もサマンサにくるなら重用してやるぞ」
「ははは、それも悪くないな」
「お前ほどの術者になれば、世界中の王家、豪商、ありとあらゆる者と対等の立場になれるだろう。商売を始めれば、莫大な利益が約束されたようなものだ」
「商売? なんかそういうの性に合わないっす。俺はただ風車守っすよ」
「おい、『っす』は止めろと言ったはずだぞ。我らは対等だ」
「そう言われても癖ってなかなか抜けないんだよ、ロベール」
2人だけの時はロベールと呼び捨てることにしていた。
「うむ、それでいい」
俺たちは恋敵だ。
けどな、同じ男に師事した気が合う友人同士でもある。
俺はコムギのことが好きだけど、ベルさんも好きだ。
「向こうに着いたら少し政務をしなければならんが……夜にでも遊びに行かないか?」
「そんな約束して、どうなっても知らないぜ」
「問題ない。お前たちのおかげで、政情は以前よりもずっと安定してきている」
「そりゃよかった」
サマンサへの土産はコムギのパンだ。
ベルさんのおっかないかーちゃんも、こんなに美味いパンは食べたことがないと、コムギの仕事を褒めていたらしい……。
「ところで、母がお前に会いたいと言っているのだが……」
「はぁっ!?」
「会うか? ……いや、言わなくてもわかる。わかった」
「悪い、無理だ……。つか、なんで俺なんかに興味を持つんだ……っ!?」
「まあ、ほぼ確実にろくな理由ではないだろう」
「息子のお前が言うのかっ!?」
ロランさんが王位を捨てることになった理由の1つ、ベルさんのかーちゃん。
俺からすれば師匠の敵だ。
「……ようやくあちらの大陸が見えてきたな。まあ、そういうわけだ、母には気を付けろ」
「気が重くなってきた……アッシュヒルに帰りてぇ……」
怖い女はゲルタさんだけでお腹いっぱいだった。
投稿が1日ズレていました。申し訳ありません。
闘病中につき、どうかご容赦ください。