・村のみんなにハンバーガーを振る舞おう - イベリス姫からの手紙 -
「半分やるよ」
「取り置きとかそれ、ズルだよ、ホリンッ」
「いらねーのか?」
「いるっ! はむっ!」
ホリンが持ってるサーモンバーガーにあたしは食らい付いた。
ホリンは半分に割るつもりだったみたいだけど、それだと具が漏れちゃう。調理者が保証する。
「お前、時々大胆だよな……」
「食べないなら全部食べちゃうよー?」
「お、おいっ、一口がでかいってっ?!」
あたしが大きく食いついてあげると、ホリンは迷い迷いに口の付いていない部分を小さくついばんだ。
「美味しいーーっっ!!」
「へぇ、食パンを使ったやつとは感じが違うな。あっちよりどっしりしてて……おわっ?!」
ホリンが小さくかじっていた部分ごとまた一口食べた。
これでだいたい半分かな。うん、だいたい半分以上だ。
「あたし、イベリスちゃんのところ行ってくるね」
「お、おう……」
「美味しかった! 取り置きありがとう、ホリン!」
たかが食べかけに恥ずかしがるホリンがかわいくて、あたしは笑顔を送ってイベリスちゃんの手伝いに行った。
イベリスちゃんはポテトをお皿に乗せて、やってくる人たちに配っていた。
「手伝うよ!」
「まあ、ムギちゃん師匠は本当に働き者ですのね……」
「だって美味しそうだし楽しそう! あっ、美味しいーっっ!!」
フライドポテトはホクホクだった。
普段は茹でるばかりで、油で揚げるなんて面倒なことしないから、香ばしいその味わいはあたしにとって大きな驚きだった。
「ムギちゃん師匠……うち、必ず事業を成功させますわ」
「うんっ、この味なら大丈夫!」
「ありがとうございます、自信が付きますわ」
「お店ができたら絶対食べに行くね! 今から楽しみ!」
お祭りは大成功だった。
移住者も、労働者も、元からの村人も、みんなが陽気に肩を組んで歌い合っていた。
みんながイベリスちゃんとあたしに感謝してくれた。
そのたびにイベリスちゃんが幸せいっぱいの笑顔になる。
それを見ていたら、あたしにもロランさんの言葉がわかるようになってきた。
たくさんの人を幸せにすることと、身近な人を幸せにするのは、全く別のことなんだって。
・
翌日、ホリンはイベリスちゃんをスイセンの王宮に送り届けた。
あたしも一緒に行こうかと思ったけれど、それはそれでもっと名残惜しくなっちゃいそうだから止めた。
ホリンが帰ってきたのは次の日の夕方で、なんだかんだあっちで2人のお世話をしてしまったそうだった。
「これ、姫さんからの手紙」
「ありがとう……」
「ん、読まないのか?」
「読む勇気がないから、後にする……」
わたしはその手紙を読まずに机の引き出しに入れた。
読んだら寂しくなって、また泣いてしまいそうだったから……。
長いイベリスちゃんのバカンスが終わり、彼女は夢に向かって走り出した。
あたしもがんばろうと自分を元気付けて、2匹のロマちゃんとロランさんと一緒にパン屋の仕事に返った。
え、3匹じゃないのかって?
うん、薄緑のロマちゃんはイベリスちゃんに付いていっちゃったから、今は2匹。
桃色と青色のロマちゃんがあたしの膝の上で眠っている。
「がんばってね、イベリスちゃん……」
手紙、読まなきゃいけないのにまだ読めそうもない。
あたしがあふれてきた涙を袖で拭って、お店に戻ってきたある人を迎えた。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい、ロランさん」
「ただいま、コムギさん」
心の中で『おかえりなさいお父さん』と言い直して、あたしはロランさんを午後のお茶に誘った。
秋が深まり、アッシュヒルは日に日に肌寒くなって言っている。
少し肌寒そうにしているロランさんに、温かい紅茶を出すととても嬉しそうに微笑んでくれる。
あたしはお父さんのそんな姿を見ながら、一緒に同じ紅茶を楽しめるだけで、まだちょっと寂しいけど幸せだった。