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・村のみんなにハンバーガーを振る舞おう - R3増殖 -

 そしてその翌朝――

 あたしたちはある異変に目を覚ました。


 なんだかいつもより、ぷにぷに感が多めというか、明らかにベッドの中央がみっちりとしているような気がして、あたしは目を開けた。

 そうしたら……衝撃の展開が待っていた。


「ロマ、ちゃん……?」

「あら……?」


 ロマちゃんと呼ぶと、いつものピンクのロマちゃんと、左右のロマちゃんがポヨンと跳ねた。


「え、ロマちゃん?」


 指を指してまた呼ぶと、左の青い色のロマちゃんと、右の薄緑色のロマちゃんが一緒に跳ねた。

 ロマちゃんはまるでお団子みたいに乗っかり合った。


「ふ……増えてるぅぅぅーっっ?!!」

「まあっっ?!!」


 目覚めるとロマちゃんが3匹に増えていた……。

 わあ、これで、忙しい日も安心だ……。


 考えることを止めたあたしは、3段に重なったロマちゃんを抱き締めて、イベリスちゃんに羨ましいと嫉妬された。

 まだちょっと眠かったからあたしは勘違いして、イベリスちゃんを抱き締めてからもう1度寝た。


 きっとこれは、夢だ……。



 ・



 残念? ラッキー?

 増えたロマちゃんは夢じゃなかった。


 ロマちゃんが3匹で午後に焼く分のパン生地を捏ねると、もう本当にあっという間だった。

 こんなことならもっと早く、ロマちゃんに増えてとお願いすればよかった。


 そう思うほどに、3匹のロマちゃんは便利を通り過ぎて完璧だった。

 生地はロマちゃんが捏ね、あたしたちはパンを焼いたり、ゲルタさんのところで焼かれたバンズに具をはさんでいった。


「ヌワァーハッハッハッ! まあ増えたくなる日もあるじゃろっ!!」

「あるけど普通できねーよっ!?」


 しばらくがんばると村長さんとホリンがやってきて、お祭りの会場にバーガーを運んでくれた。


 さすがにアップルパイやフライドポテトには手が回らなかったから、そっちはゲルタさんや酒場宿に集まった主婦さんたちにお願いすることになった。


 入れ替わりで朝に弱いロランさんがやってくると、追加のスモークサーモンが厨房に届けられた。


「昔はもう少し朝に強かったのですが、早起きの動機がなくなると人間堕落するものでしてね……」

「わかりますわ。うちとインセンスは、逆に早起きになりましたもの」


「ええ、よくわかります。早起きの家族を持つと、それに引っ張られてしまうものでして」


 ロランさんはやさしく微笑みながら、少し羨ましそうにイベリスちゃんの笑顔に注目した。

 ロランさんもあたしと一緒に暮らしたいのかなって、あたしはちょっと期待した。


「そうそう、会場のゲルタの宿ではもう酒飲みたちが集まっていますよ。よろしければ私も調理を手伝いましょう」


 朝から村の中央が賑やかだと思ったら、やっぱりそういうことだった。


 ロランさんの手を借りて、あたしたちもハンバーグを焼いた。

 ミートミキサーで粗く挽いたスモークサーモンを、タルタルソースとあえて、香ばしいバンズではんでいった。


 なんだかワクワクする。

 今日まで大変だったけど、がんばったかいがあって楽しい気持ちでいっぱいだった。


 みんなが待ってくれているって聞かされたら、なんだか嬉しくなってきたみたい!

 だってイベリスちゃんとあたしのハンバーガーを、それだけみんなが食べたがってくれているってことだから!


 あたしたちは最後のバンズ1つまで手を抜かず、これが最後になるイベリスちゃんとの調理をがんばっていった。



 ・



「これで最後か? よし、お前らは俺の台車に乗っていけよ。みんな盛り上がってるぜ!」


 ついに最後の調理が終わると、荷運びをしてくれていたホリンが軒先の台車にハンバーガーが入ったパレットを積み込んでくれた。

 そして台車に手をかけて、さあ乗れよとあたしとイベリスちゃんに笑いかけた。


「へへへ、そう言ってくれると思ってた! よっこいしょっと」

「あの、もし重かったら言ってくださいね……?」


「小麦袋よか軽いから気にすんなっての」


 あたしたちと一緒に3匹のロマちゃんが台車に乗って、ホリンに運んでほしそうに目をキラキラとさせていた。


「まさかロマちゃんが増えるとは思いませんでしたわ」

「だよな。コムギのやつが関わると、もうなんでもありだからなー」


「えーっ、ロマちゃんが増えたのはあたしのせいじゃないよーっっ!」

「ええっ、ひとえにムギちゃんへの愛ですわっ、愛っ!」

「……んじゃ、出すぜー?」


「スルーですのっ?!」


 ホリンはロマちゃんの頭をそれぞれ撫でて、ホリンらしくもなくやさしく笑った。

 ホリンは昔っから、小さい子にはやさしいお兄ちゃんだ。


 ロマちゃんのプニプニを楽しみながら、イベリスちゃんと一緒に運ばれるのも悪くない。

 あたしは細いけどたくましいホリンに運ばれて丘を上り、みんなの待つゲルタさんの宿の前にやってきた。


 みんながあたしたちを歓迎してくれた。

 あたしにとってはいつものことだけど、でもイベリスちゃんには少し違ったようだった。


 凄く感動しちゃったみたいで、密かにうれし涙を拭っていた。

 会場のロランさんはそれに気付いてわたしに言った。


「彼女がなぜあんなに感動しているかわかりますか?」

「ううん、あんまり」


「目には見えない千人に尽くしても、そこにあるのは自己満足と賞賛くらいなものです。目の前の十人の笑顔を作る喜びを、彼女は今ようやく知ったのです」


 よくわからなかった。

 だったあたし、千人に尽くしたことなんてないもん。


 きっとロランさんたちのような、貴族王族にしかわからない世界なんだと思った。


「皆様っ、今日は集まってくれてありがとう! 帰る前にどうしても、皆様にうちとムギちゃん師匠が作ったハンバーガーを食べてもらいたかったの!」


 イベリスちゃんはさすがのお姫様だった。

 付き合いのない人たちに囲まれても、物怖じせずに自分の伝えたいことを主張した。


「お口に合えばいいのだけど……ぜひ感想を聞かせて! うち、このハンバーガーでお店を開こうと思っているのっ! 今日までたくさんありがとう、とっても楽しかったわ!」

「おお、姫様……なんと、ご立派に……っ」


 インスさんがその姿に震えながら感動していたのは、本人は悪いけどちょっとだけ面白かった。

 ハンバーガーが会場のみんなに振る舞われ、みんながそれぞれ食べたいバーガーを手に取った。


 一番人気はサーモンバーガーだった。

 大人気だったから食べ損なっちゃうかと不安に思ったけど、ホリンがちゃっかりキープしてくれていた

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