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176/198

・お別れのハンバーガーパーティの準備をしよう! - おとうさん -

176と177話が逆でした。

ご報告下さりありがとうございます。

「かつて愛した女……それにうり二つの娘……ついつい重ねて見てしまう複雑な感情……。まあっっ!?」

「まあっ、じゃないよぉ……っ」


 あたしを見守るロランさんの目は凄くやさしい。

 絶対、そういう目なんかじゃない。


 居なくなってしまった人の面影をつい探して、あたしの姿に重ね見てしまうところはあるんだろうけれど……。


「素敵ですわ……」

「もーーっ、もう勝手にしてよー……」


「あっ、ですけどでしたらっ、ムギちゃん師匠は――」


 イベリスちゃんがそこで言葉を止めるので、気になってあたしは隣を振り返った。

 なんか、すっごくニコニコしている……。


「うちと同じなのでは……?」

「え、何が?」


「ムギちゃん師匠は、ムギちゃん師匠姫様だったのですね……っっ」


 えっと……。

 ムギちゃん師匠姫さんって、いったい何屋さんなんだろう……。


 イベリスちゃんの笑顔の正体は、似た立場にある人への共感だった。


「どうなんだろう……わかんないよ」

「ですけどそうなると、ロベール王とムギちゃん師匠姫様の関係が……まあっ、まああーっっ?!」


 明かさない方がよかったかもしれない。

 さすがのあたしも後悔した。


 お別れする前に知ってもらいたいって、気持ちもなくもなかったけど……。

 イベリスちゃんの妄想をさらに激しく爆発させることになっていた……。


「とにかくあたし、ロランさんを幸せにしたいの。それがお母さんの幸せだと思うから」

「やはりムギちゃん師匠姫様は素敵ですの。とても良い考えだと思いますわ」


「長いし師匠姫様は止めてよーっ」


 あたしたちは笑い合って、それから別の話題に切り替えた。


 アッシュヒルが今日まで自治と独立を保ってこれたのは、誰も興味を持たないド田舎なのもあるんだろうけれど、実は男爵領だったっていう衝撃の事実とかを語った。


 こうしてしばらくをゆったりと過ごすと、突然に強い引きがイベリスちゃんを湖に引きずり込みかけた。

 あたしはイベリスちゃんに飛び付いた。


「ふんぬっっ!!」

「わっっ?!!」


 だけどあたし忘れてた。

 イベリスちゃんがあたしのパンをもりもりといっぱい食べて、頼もしい力持ちさんに成長していたことを。


 おっきなサーモンが空を飛んで、釣り小屋の屋根に大穴を開けていた……。


「ああああっ、ごめんなさいーっっ!!」

「あはは……凄い力……」


 釣り小屋の床で大きなサーモンが暴れている。

 ロランさんがそれに駆けより、木の棒でゴツンと叩くと静かになった。


「お見事です、イベリス姫」

「ごめんなさい……大切な釣り小屋なのに……」


「元より古い建物です、そろそろ手を入れる機会かもしれませんね」

「そうだよ、気にしないでイベリスちゃん。それより凄い大物!」


 あたしはおっきなサーモンを見下ろして、続けて天井に広がる青空を見上げた。

 壊れちゃったのは残念だけど、サーモンで生まれた大穴にあたしは笑っちゃった。


「さて、これだけあればサーモンバーガーには十分でしょう。私は一足先にゲルタのところにこれを運びますので、皆さんはごゆっくり」


 ロランさんは慣れたようにサーモンを両手で抱えると、一足先に村に戻っていってしまった。

 あたしは残るか追うか少し迷って、やっぱりロランさんの後を追うことにした。


「あたしもロランさんと行く! 2人ともごゆっくりっ!」

「え……?!」

「ま、待ってくれコムギ様! お、おいっ?!」


 イベリスちゃんとインスさんの仲を応援したかった。

 それにどうやってあれを薫製にするのかも見てみたかった。


 あたしは坂を這い上がり、ロランさんの背中を駆け足で追った。

 するとロランさんは後ろを振り返って、いつものようにやさしくあたしを迎えてくれた。


「残ってもよかったのですよ?」

「平気! いつでも遊びに行けるもん!」


「そうですか。では一緒に帰りましょう」

「うんっ!」


 ロランさん、あたしの目から見てもわかるくらい嬉しそうだった。

 あたしはロランさんと仲良く並んで歩いて、ゲルタさんの宿まで行ったらそこで少し休むことにした。


 ロラン(おとう)さんと一緒に。

 そうすることをお父さんも望んでいるように見えた。


 仮に事実がどうであろうと、あたしはロランさんの娘!

 それでいいんだって思った!



 ・



そしてその晩――


 あたしたちは昼間を釣りに使ってしまったことを後悔した。

 スモークサーモンやハンバーグの調理は、ゲルタさんたちが手伝ってくれたからどうにかなりそうだったけど、それを挟むバンズの用意が大問題だった。


 今は労働者さんたちに、移民のみんなもやってきているから、その全員分を捏ねるとなるともう手がいくらあっても足りなかった。


「うぅぅぅ……さすがに、肩、抜けそう……。ロマちゃぁーん、そんなに無理しなくていいよぉー……」

「お2人はお休みを。残りは自分とロマがどうにかします」


「ううん、もうちょっとだからがんばる!」

「インスには任せられませんわ! これはうちが独立するための通過儀礼ですもの!」


 それでも明日のお祭りのために、夜遅くまでバンズを作った。

 目標数まであと2割くらい。そこまでがんばれば、残りは起きてから焼けばよかった。


「ああ、ロマちゃんがもっと欲しい……。せめてもう1匹、ロマちゃんがいれば楽なのに……」

「そこはもう2匹でお願いしますの……。うちもロマちゃんとお別れするのが寂しいですもの……」


 そんな言葉を交わしながら、あたしたちは最後までがんばった。

 こうしてやり遂げたあたしは、イベリスちゃんを肩に支え、ロマちゃんをお腹に抱っこしながら二階の部屋に戻った。


 インスさんも限界らしくて、その日は酒場宿に戻らずに、居間の暖炉の前で寝ることにしたみたい。

 あたしたちはベッドに倒れ込んで、疲労と眠気に身を任せて目を閉じた。


近々、新作

勇者パーティの『底無しの預かり屋』 勇者のお姉さんと蒸発する


を公開します。


本作は弱者が弱者を救う物語です。

主人公ナユタは弱く、また人に依頼されない限り能力を発動できません。


しかし彼の力は型にハマると圧倒的で、特に不当に奪われた品物を取り返す時に輝きます。


もし興味が湧かれましたら、読みにきて下さい。


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