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・お別れのハンバーガーパーティの準備をしよう! - 禁断の愛? -

 イベリスちゃんの帰郷まであと3日。

 2日後に村のみんなを集めてのお祭りをすることに決まって、あたしたちは下準備を急いだ。


 不足していたトマトと、ソースに使う香辛料をホリンがモクレンに仕入れに行き、沢山のバンズを焼くために前倒しで他のパンを作っていった。


 最近、魔女の塔で修行漬けだったフィーちゃんもやってきて、うちの店でお手伝いをしてくれたのも嬉しかった。


「この子、連れて帰ったらダメですの……?」

「はわわっ、ソフィーは今からさらわれるですかーっ!?」

「ダメだよっ! フィーちゃんまでいなくなったらもっと寂しいもん!」


「フィーさんっ、うちの専属魔法使いになりませんかっ!?」

「そ、それは……!? し、仕官の、お誘い、なのですかーっ!?」


 フィーちゃんはイベリスちゃんに大人気だった。

 フィーちゃんがまだまだ修行中でよかった……。


 そんなこんなでイベリスちゃんとの残り少ない1日がまた過ぎ去り、お祭りを明日にひかえた昼前がやってきた。


 サーモンの手配は村のみんなの手で着々と進んでいたけれど、やっぱり自分たちでも釣りたくて、あたしはイベリスちゃんとインスさん、それにロランさんと一緒に村の焦げた西門を出ていた。


「ごめんね、ロランさん。お母さんとの思い出の場所なのに」

「そんなことはありません。あの場所にイベリス姫を招いたと伝えたら、きっとカラシナさんもあちらで喜ぶことでしょう」


 街道は立派な石畳で整備されていた。

 右に左にくねるルートは変わっていなかったけれど、だいぶ歩きやすくなっている。


 特にカーブになっているところの道幅が広く作られているところに、労働者さんたちの努力や工夫を感じて面白かった。


 それからあたしたちは以前下った傾斜面にやってくると、そこを下りて森の向こうの湖に抜けた。

 山上湖の下流に隠された小さな湖に、イベリスちゃんは目を大きく広げて見とれてくれた。


「ロラン王、自分たちはこちらで釣りませんか?」

「私は遊び人のロラン、王などではありませんが……ごもっともなご意見です」


 あたし、耳が良いから聞こえてしまった。

 イベリスちゃんとインスさんはロランさんの正体にもう気付いている。


 ホリンが勝手にベルさんを連れてきたから、ベルさんからロラン王に繋がってしまった。

 2人とも良い人たちだから、深くは追求しなかったみたいだけれど。


「イベリスちゃん、こっちこっち! 男はほっといて一緒に釣ろ!」

「はい、ムギちゃん師匠!」


 あたしとイベリスちゃんは残り少ない時間を楽しむために、哀愁のあるあの釣り小屋までやってくると、さっき餌を付けてもらった釣り竿を湖に垂らした。


「これで待てばいいんですの……?」

「うん。たまにちょいちょい、ってしてね」


 あたしが釣り竿を上げ下げすると、イベリスちゃんが手元を見つめながら同じことをする。


「あはは、そんなふうに身動きまで止めなくて大丈夫だよ、イベリスちゃんっ」

「そうですの……? 釣りというのは初めてなものでして……」


「お喋りしながらゆっくりしよ」

「はい、よろしくお願いしますムギちゃん師匠」


 季節は秋。森は一面の秋模様だ。

 赤や黄色の落ち葉が湖の上を緩やかに流れて、澄んだ湖の水底にもたくさん堆積していた。


 景色を気に入ってくれたのか、イベリスちゃんが水面の輝きに注目している。


「退屈?」

「いえそんなことは。とっても素敵ですわ……」


「よかった」

「こんなに素敵な光景を眺められるなんて、最高のバカンスになりましたの」


「ここ、お母さんがロランさんに教えたんだよっ。あたしのお母さん、良い趣味してるでしょ」

「ええ、とっても!!」


 声が大きいと魚に逃げられちゃうよと、唇の前で指を立てた。

 するとイベリスちゃんは小さい子みたいに口を覆って、しばらく黙った。


 あたしは焦らずゆっくりと過ごすことにして、話題が浮かんできたり、言葉を投げかけられるのに身を任せた。


「あの、ムギちゃん師匠は……」

「ん、何……?」


「ロラン王とは、どういったご関係なんですの……? お部屋、ロラン王様のために片付けているのですのよね……?」

「うん。ロランさんに、あそこに住んでもらおうと思って……」


 聞かれたくないから、そう耳元に語った。

 だけどそれは誤解に繋がっちゃったみたい。


「ホリン様と、ロベール王、それにロラン王との三角……いえっ、四角関係ですの……っ!?」

「え……っ、そういう誤解になるの……っっ?」


「本命はどの方ですのっ!? ま、まさか、全員……っ!?」

「違うよ。ロランさんはあたしの……えっと、んーー、なんだろ……」


 たぶん、あたしのお父さん……。

 だってお母さんが付き合ってたのって、村のみんなによると後にも先にもロランさんだけだって話だ。


 じゃあ、他にいないよね……。

 あたしのお父さんはロランさん。きっとじゃなくて、絶対ロランさんだと思う……。


「わかりますわ、あんなに魅力的な男性が3人も……。迷うお気持ちはわかりますわ……っ」

「だから違うってばぁーっ?!」


 返答に困るあたしに、イベリスちゃんは妄想の翼を広げてニヤニヤしていた。


「じゃあイベリスちゃんにだけ、明かすけど……」

「本命ですのっっ?」


 なんでそうなるしーっっ!


「あのね、確実かはわからないんだけど……たぶん、なんだけどね……?」

「はいっっ」


「あたし、ロランさんの娘なのかも……」

「まぁっっ?!」


「ロランさん、昔あたしのお母さんと付き合ってたんだって。同居もしてて、まるで夫婦みたいに仲睦まじかったって、ゲルタさんと村長さんが言ってたの……」

「つまり……っっ、禁断の、愛……っ?!」


「ええええーーっっ、なんでそうなるのーっっ!?」


 イベリスちゃんは目を閉じて、さらに妄想の翼を広げてしまった。

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