・ハンバーガー屋さんのメニューを考えよう! - 芋を崇めよ…… -
「う、うんっ、アップルパイッ、いいと思うよ、あたし!」
そうなると、ハンバーガーに合う食べ物も候補に入ってくる。
だけどハンバーガーに合う食べ物って、なんだろう。
ハンバーガーって、お肉も野菜もパンも全部入ってるし。
単品でもう完成されちゃっているような気がする……。
「手間のかからない簡単なメニューが欲しいな」
「ええそうね、インセンス。誰にでも作れて人件費がかからない調理体制。重要ですわ」
またイベリスちゃんがわからない言葉を使ってる……。
じんけんひ、って何だろう……?
「……そうだ、街角で売られているような、よくあるジャンクフードを出すというのはどうだろうか?」
「でしたらドリンクも欲しいですわ。脂っこくなった口をさっぱりさせたいもの」
「ならば淑女向けに茶と、紳士向けのコーヒーを」
「甘さが必要ですわ! レモネードも出しましょう!」
2人とも食いしん坊だから、どんどんメニューの候補が口から出てきた。
それを1つ1つ、イベリスちゃんがせっせとメモしている。
えっと、どうしよう、あたしも何か言って貢献しなきゃ……。
そう焦りだすと、お店の日向でお昼寝をしていたはずのロマちゃんがポヨンポヨンと跳ねてこの居間に飛んできた。
「どうしたの、ロマちゃん? ん、それ、お芋?」
ロマちゃんは頭の上にジャガイモを乗せていた。
あたしがロマちゃんの前にしゃがみ込むと、ロマちゃんはいつになく高くポヨンポヨンと跳ねる。
何か言いたいことがあるみたい。
だけどどうして欲しいのか、ロマちゃんの動きを見ても全くわからない。
ジャガイモを使った料理がほしい、ってことなのかな……?
「なんて言ってるんですの、ムギちゃん師匠?」
「ううん、全然わかんない……」
あたしが本音を口にしちゃうと、ロマちゃんは悲しそうにグニャっとつぶれちゃった。
でもそれでも諦めずに、また高く元気にポヨンポヨンと跳ねる。
「ロマちゃんもイベリスちゃんの力になりたいのかも。……でも、なんでこんなに跳ねてるんだろうね?」
「ジャガイモを飛ばせと言っているのでは?」
「飛ばす? え、飛ばしてどうするの?」
「さあ、それはわからんが……」
ロマちゃんが首のない身体でプルプルと左右にくねった。
それからロマちゃんは急に険しい顔になって、何かに集中し始めた。そしたら――
「な、何をしているんですの、ロマちゃん!?」
なんかロマちゃんの頭から、触覚みたいな変なのが生えてきちゃった……!
「なんと器用な……。木の枝……いや、もしやそれは、手、なのか……?」
そうだよと、ロマちゃんがうんうんとうなずいた。
ロマちゃんは頭の上に生えた手を、跳ねるのを止めて上げ下げしていた。
引き続き、ジャガイモを頭に乗せたまま……。
「奇妙な光景だ……」
「芋のダンスか何かですの?」
「いや、これはダンスではない。これは……もしやロマは『お前たち、芋をもっと崇拝しろ』と言っているのでは?」
『全然違うよぉーっ!!』って、ロマちゃんは激しく身を揺すった。
でもわかんない……。
伝えたい気持ちはわかるんだけど、全然わかんないよ、ロマちゃん……。
「そのお芋をどうすればいいの、ロマちゃん?」
「どうにもわかりませんわね……。芋を上げ下げさせろ、と言っているのでしょうか?」
「ん……芋を、上げる……?」
インスさんがボソリとつぶやくと、あたしたちはハッと顔を見合わせることになった!
わかった、ロマちゃんが言いたいことがやっとわかった!
芋を上げる!
芋を揚げる!
これってきっと、メニューに揚げ芋を加えてほしいって意味だっ!!
「揚げ芋か……悪くないのではないか? 芋を揚げる時のあの香りは格別だ。自分は香りが集客に大きく繋がると思う」
「ええっ、それに利益性も高いですわねっ!」
「さすがはロマだ……」
「調理はお芋を揚げてお塩をかけるだけですし、かといって家庭ではなかなか作れる物ではありませんもの。これは狙い目ですわ!」
「さらに言えば、位の高い紳士淑女が食べ慣れていない食べ物だ。それを姫様の店で出せば、彼らはフライドポテトの魅力に必ずや病みつきとなるだろう」
ロマちゃんはそこまで深くは考えていなかったみたい。
真顔になって商売の話をする2人を、ちょっと困ったように見上げていた。
「あたしも賛成! ハンバーガーと一緒にフライドポテトとアップルパイが食べられるなんてっ、最高のお店だよっ!」
あたしが後押しすると、そういうことになった。
ロマちゃんが嬉しそうに跳ねて、あたしの胸に飛び込んできた。
こうしてイベリスちゃんのお店のレシピ作りが加速していった。
トマトチーズバーガー。トマト抜きバーガー。タルタル唐揚げバーガーに、タルタルサーモンバーガー。
それにフライドポテトと、あたし直伝のアップルパイ!
後は材料の組み合わせで新バーガーを増やせばいい。
話し合ってそこまで決めると、レシピの次はメニューの試作について考えることになった。
試作をするには材料がいる。
足りない材料は鶏肉とジャガイモ。それにサーモンだった。
「でもこれ、全部作ったらあたしたちだけじゃ食べきれないんじゃないかな……?」
イベリスちゃんの滞在期間は今日を含めてたった4日。
このままだと毎日3食がハンバーガーになってしまうかも……。
「そうですわね……。あ、そうですわっ、でしたら、村の皆様にも食べていただくというのはどうかしらっ?」
「あ、それ楽しそう!」
「立派なお考えだ。自分も姫様同様、村の皆に世話になった礼がしたい」
「お別れもしっかりしないといけませんものね……。では、そうしましょうかっ!」
イベリスちゃんの口からお別れって言葉が出てくると、あたしはとても寂しい気持ちになった。
それはイベリスちゃんも同じで、彼女は照れくさそうに目元を拭っていた。
お母さんのいなくなったこの家で、イベリスちゃんは居候として一緒に暮らしてくれた。
叶わぬ願いなのはわかっているけど、できたらずっとここに居てほしかった。
「また遊びにきますわ。次も、その次のも、次の次のバカンスもアッシュヒルとうちは決めていますの」
「うん……。絶対、きてね? イベリスちゃんのこと、あたしもずっと待ってるから……」
ずっとここに居てほしいけど、イベリスちゃんの夢は村の外に向けられていた。
あたしはイベリスちゃんを送り出すために、その日から通常の業務をしながら試作の準備に入った。
・
もちろん、こういう時に一番頼りになる人、村長さんがお店にやってくるなりあたしは頼った。
「ムギ友よ……ついに、行くのじゃな……」
「お世話になりましたわ、ヨブ様……。ムギちゃん師匠の素晴らしさ古今東西ゲームの決着がまだ付いてはおりませんが、うちには夢がありますのよ……」
ムギ友って、何……?
というかあたしをネタに何を語り合ってたの、この2人っ!?
2人は静かな握手を交わし、互いを信頼し合うようにうなずいていた……。
「しかし、まさかコロシアムの伝説そのもの、あのザ・サンダー・グレート・ヨブが、この村の領主一族だったとは……」
「うち知ってますわ。仮面をかぶった謎の拳闘士で、お父様も大ファンだと言ってましたの」
あたしにはまったくよくわからない話だった。
かろうじてなんとなくわかったのは、やっぱり村長さんは最強ってことだけだった。
「懐かしいのぅ……。おおそうじゃっ、今度ホリンに頼んで、冬の間だけ現役復帰するのもいいのぅ!」
「まあっ、それはお父様が喜びますわ!」
きっと誰も勝てないと思う……。
だって村長さんはこの村で1番攻撃力があって、大魔法を蹴り返すほどの全部おかしい超戦士だもん……。
「そうそう、ところでヨブ様、例の物は見つかりまして?」
イベリスちゃんがあたしの知らない話題を持ち出すと、村長さんはポケットに手を入れた。
そこから出てきたのは、鈍い銀色に輝く立派な勲章だった。
「おお、これのことかっ!? 屋根裏に転がっておったが、こりゃなんじゃぁぁ?」
「まあやっぱりっ! その勲章こそ、我が国の男爵位の証ですわ!」
「え…………っっ?!!」
その勲章により、村長一家が実は下級貴族だったことが判明したけれど……。
「ヌワハハハッ、まあどうでもいいじゃろっ!! ホリンのバカがつけあがるから、なかったことにしてくれい!!」
『どうでもい』『ホリンのバカ』の二言で再び闇に葬られていた……。
芋は幸いなり……